geranium
イルカのように
キラキラした物を浮かべて
飛べたらいい
そうやって走っていきたい
lucid love -geranium-
薄々と感じていたものが明確になったのは瑠唯たちが高校入学した年に行ったツアー後のシングル作りである。
「なんか違う。」
最近夏流が何かanfangで行う時毎回呟くようになった言葉である。
「…今回は何が違うんだ?」
「前といっしょ…うーん…」
anfangは基本的にonとoffがはっきりしている。
レコーディングの時は特にそうで皆思い思いのことを言い合う。
しかし仕事が終わるとその時のいざこざは全く関係なく話せる。
今回の曲作りは燎。しかしデモを聞いて夏流はずっと言い続けている。
「僕はここバックに違う音を入れたほうが良いと思うんだ。幻想的で。」
「ちげえ。ここに幻想的なんていらねえ。あるのは無。だからこそ最後のサビが生きるんだよ。」
「けどそれじゃあ、」
思わず夏流がシュンとしてしまう。
「無なんだろう?ここは静かな、そう、例えば鉄琴の類とかさ―」
「無だから静かなんだろ?」
「無だから静かというわけじゃねえだろ。その中に聞こえない何かが吹きこまれているけど聞こえてないふりをしているんだ。俺だったら風の様になびく声を…」
「だったらここで音だしても意味ねえじゃねえか。気づいてねえことを表現するんだから。」
周や香南も音を入れたほうが良いと思っているから必死に反論するが全く聞かない。
しかも入れたい音もバラバラなのだ。
もともとばらばらの音楽感性を持っていた4人が集まってできたバンドである。
もちろん曲を作るときには売り上げを考える。
趣味で考える曲は良いが、香南たちはそれで食べている。
しかしその”売れる曲”というものを作っていくのに飽きてきたのである。
しかも”売れる曲”がだんだんとわかってきた4人にとって自分ではここをこうしたらもっと売れると言う自信が顕著に表れてきている。
生きるために曲を作っている今の状態ではもう自分の中でつまらなさを感じている。
これ以上の目標がこのバンドで見つからない歯がゆさ、そしてこのばらばらの感性にメンバー自身も戸惑っているのだった。
この状況を一番よく理解していたのはマネージャーである雅であった。
ここ最近では活動も徐々に広まり、個人にマネージャーが付くようになった。
しかし総合マネージャーは雅のまま続いている。
マネージャー会議をしていても出てくるのはこの話題であった。
4人が今ばらばらに動き始めている。
前のcrazy rabbitはようやく4人の意見を合わせ作り上げたと言っても過言ではなく終わった時には皆次の曲作りのことは誰も口にしなかった。
そんな時だった。瑠唯の家出事件が起こったのは。
もちろん皆双子が大好きで溺愛しているため、すぐに捜索に当たった。
結局夏流と周の家で暮らすことになったが香南のテンションの下落。
曲を作ると言う状態ではなくなってしまった。
そしてその後見た瑠唯のバンド姿。
その時4人は自分たちがバンドを始めたころを思い出していた。
『香南、このバンドで愛を知ろう?絶対、知るときがくるから』
がむしゃらになんでもしたあの日々。
初めてCDができた日。
初めてオリコンに入った日。
初めてホールでライブをした日。
初めて愛を知って歌うことができた日。
自分たちがこんなにも変わってしまったことに苦笑するしかなかった。
そしてあんなに幼かった自分たちの天使が旅立ってしまうことを予感していた。
自分たちはなにができるのだろうか。
なにをすべきなのだろうか。
決意は4人の中にすでにあったのである。
「さて、君たちの要望を聞こうか。」
ミーティングルームへメンバー4人そして総合マネージャーの雅が集まる。
「俺は、あいつが売れると思う。そうなったら、手伝ってやりてえ。甘いと思われるかもしれねえけど、やっぱり少しでも辛くないようにしてやりてえ。」
香南がぽつりと呟く。
今まで自分が歩んできた道のりを思い出す。
まるで相手にされたかったあの頃。
しかし今では知らない人もこぞって笑顔を作って挨拶してくれる。
売れるとはこういうことなのだろうと思った。
それを自分が持っているなら最大限活用してやりたい。
大切な、大切な彼のために。
「けれど、おそらく、マスコミは100%嗅ぎつけるよ。瑠唯くんが香南の弟だって。」
「うーんそれは、下げられる気がする。」
「そうだね。50%ぐらいかな。」
「俺らだって、結局は踊らされてこの位置にいるわけだしな。」
「最悪、使える物はすべて使う。瑠唯は実力があるからな。」
香南が雅の目を見つめる。
「…はあ。人間辛いことも経験しておかないと、成長しないんだよ?」
「あいつは、幼いころに辛いことを経験している。そして俺らのせいで碌な学生生活を送っちゃいねえ。してやりてえんだ。瑠唯のために。」
拳をぎゅっと握る。
瑠唯が学校を好きではないことはわかっていた。
そしてその原因が自分にあることも香南は知っていた。
だからこそ、今できたあの感情を持ち続けて欲しいと思っていた。
「雅さん、anfangを一時解散させて欲しい。俺は…俺は瑠唯のバンドのプロデューサーをする。」
その言葉に雅は息をのむ。
しかし他のメンバーは笑顔を浮かべていた。
「今だと思うんだ。瑠唯のために、一番は自分たちのために。自分たちでもわかっている。これ以上中途半端にできねえ。だから時間が欲しい。」
「…そうきたか。」
雅が額に手を置きため息を出す。
「何年?」
「瑠唯たちが軌道に乗るまで少なくとも3年、5年ぐらいは欲しい。」
雅が眼を閉じて考える。
まさか自分たちで解散を望んできたのにも驚いたが、プロデューサーをしたいと言うのには驚いた。
それもそうか。だって彼の宝物だもの。
雅が息を吐くと香南を見つめる。
「…向こう2年はスケジュールがもう決まっている。それまでは今の状態だぞ?」
香南の目が見開く。
「…ああ。というよりも瑠唯の学年を考えるとあと2年待って欲しい。瑠唯が卒業してから本格的に色々スタートさせたい。それまでは下積みをさせたいんだ。」
「香南くん瑠唯くんたちのことになると流石だね。計算してる。」
「ふふっ!まあ2年、短く思うけど良いかもね。」
「決定だな。」
メンバーの顔がさらに綻ぶ。
今まで緊張していた糸が途切れたようだった。
「もちろん、様々な会議には参加してもらうよ。君たちはもう君たちだけのバンドじゃないんだ。たくさんの人が動いている。その人たちのことも十分に考えなければならないよ。」
雅が忠告する。最後の最後までこのバンド仕切ってくれるのは雅なのだ。
「わかってる。…ありがとう。雅さん。」
「しばらくは俺も休養させてもらうよ。もちろん、水面下でいろいろさせてもらうけどね。」
雅が苦笑しながら話す。
瑠唯くんたちだけじゃない。君たちも成長したよ。
雅は嬉しそうにこれからを話す4人を見てそう思った。
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追記―
ちょっと文章を変えました。あと題名も変えました。
あまりドロドロの状態が伝わっていない感じがしたので。
あとマスコミをもみ消す50%にも下げるっていうのはこれからの話で明らかになると思います。
また今の話が終わった頃、お読みいただければと思います。