第五話 お風呂は庭の特大プールで!
「……はぁ。やっぱり、普通の家のお風呂じゃ爪の先しか入れないですよね」
10メートルのガリバラさんが、我が家の小さなお風呂場を外から覗き込みながら、切なさそうに溜息をついた。
「ガリバラさんが庭でお風呂に入れるように、僕から父さんにお願いしてみるよ!」
一週間後──。
陸が指差したのは、我が家の庭。
父がネット通販で即買いした【学校の25mプール級・超特大インフレータブルプール】が、庭をパンパンに埋め尽くしていた。
「これが私の『お風呂』ですか!?」
「うん! 水を入れて、給湯器からお湯を伸ばしたから温かいよ!」
【じゃばばばばばばばっ!!】
陸が消火栓並みの太いホースを抱え、全力でガリバラさんに向け放水を開始する。
「あはは! ガリバラさん、シャワー行くよー!」
「水がすごく冷たくですよ!でも、とっても気持ちいいです!」
ガリバラさんが巨大な手で顔を洗うたび、豪快な水飛沫が嵐のように舞い散る。
そこへ——
「おい陸ーーーッ!! 俺んちの日当たりを奪った次は、庭で洪水起こしてんのかーーッ!?」
向かいの翔太が、水着姿でプール用のゴーグルを装着して怒鳴り込んできた。
「翔太くん、怒鳴り込んでる割には泳ぐ気まんまんにしか見えないんだけど」
陸は苦笑いした。
「知るか! こんなデカいプール見せつけられたら、入るしかねぇだろ!!」
翔太は叫ぶなり、勢いよくプールへ【バシャーン!!】とフライングダイブを決めた。
「あっ、ズルいよ翔太くん。僕を置いて一番乗りするなんて」
いつの間にか、アヒルの浮き輪を腰にはめた素直が、仏のような笑顔でプールサイドに立っていた。
「え? 素直くん、君いつからそこにいたの!!?」
「このプールが届いた時からだよ陸くん。こんな住宅街の真ん中で苦情覚悟で水浴び場を開設するなんて、潰される前に一番乗りで楽しまなきゃ損だからね!」
「一番乗りどころか監視員気取り?っていうか、このプール誰が組み立てたか謎だったんだけど、犯人は君だったんだね!」
陸がツッコんでいると、プールの物陰から【シャキーン】と怪しい水切り音が響いた。
「……システム再起動。水陸両用型サイボーグ『サキノ・ゼロワン』、水中モードへ移行完了」
見れば、シュノーケルとスイミングキャップ(名札付き)を完璧に装着した輪が、水面にぷかぷかと浮いていた。
「輪ちゃん!? それ、ただのプール遊びだよね!?」
すると──輪は水面から目元だけを出し、平坦なロボットボイスで水泡を吐きながら言った。
「……勘違いしないでください。当機は決して、あなたの水着姿から将来の当機との家族計画に向けたオスとしての科学データを採取するために潜入したわけではありません」
「家族計画!? オスとしての科学的データとか言って絶対スケベで重い目で見ようとしてるー!?」
陸が赤面して叫ぶ。
「……否定。これは潜水用CPUの熱暴走による失言です」
輪はノータイムで言い張ると、水中で何かを取り出した。
「主兵装、ハイドロ・メガ・キャノン発射」
【ぽすん。】
しかし……輪が撃ったのは、百均のミニ水鉄砲だった。
飛距離、わずか三十センチ。陸の足元にポタポタと水滴が落ちる。
「……くっ、水圧不足。陸、当機の兵装(水鉄砲)への直接注水、および手取り足取りの射撃指導を要求します」
「自分で注水しなよ! あとどさくさに紛れてスキンシップ要求してこないで!?」
「陸くん騙されちゃダメだよ」と、浮き輪でぷかぷか浮いていた素直がニッコリ笑う。
「ゼロワンちゃん、さっき着替えスペースで『今日の際どい勝負水着で陸くんを悩殺してお持ち帰りされるんだ~♪』って一人でキレッキレのダンス踊ってたよ」
「……警告。それは当機の旧プログラムによる重度な誤作動です。当該メモリを物理的に消去してください」
秘密を暴露された輪は、陸に背を向けると、水中で静かに足をバタバタさせて派手に溺れかけた。
「あはは! 楽しそうだな! 俺も潜水艦アタックーーッ!」
翔太がバシャバシャと豪快に泳ぎ回り、巨大な波を起こす。
「みなさん、とっても楽しそうですね!」
ガリバラさんが嬉しそうに微笑み、巨大な手でプールのお湯を【ばしゃあぁっ!】とすくった。
「よし、みんなでガリバラさんの背中を洗おう!」
「おう! 俺が一番上まで登ってやるぜ!」
「当機も背中洗浄ミッション、および陸との共同作業に参加します」
陸、翔太、輪の三人が、洗車用の巨大スポンジを持ってガリバラさんの背中に取り付く。
「いきますよ~! えいっ!」
ガリバラさんが気を利かせて、自分の肩から【ザーッ!!】とお湯を流してくれた。
「うわああああっ!?」
「津波だーーーッ!?」
「当機、水没……! 陸、速やかに救助を要請。心臓マッサージおよび人工呼吸を……!」
ガリバラさんにとっては「優しいお湯かけ」だったが、小学生たちにとってはテーマパークの超巨大ウォータースライダー級の濁流だった!
一瞬で全員がプールまで押し流され、【ドバシャーーーン!!】と派手な水柱が上がる。
「すごーい! 陸くんのおうち、今度はウォーターワールドになったね! 近所の家から『浸水被害』で賠償請求が来ないように、僕がお空にお祈りしておいてあげるね!」
素直だけが浮き輪の上でプカプカ浮かびながら、楽しそうに拍手していた。
「ゴホッ、ゴホッ……! 祈るフリして脅さないで素直くん! ガリバラさんもダイナミックすぎるよ……!」
濡れネズミになった陸が苦笑いすると、ガリバラさんは大きな手を口元に当てて「も、申し訳ありません!」と照れくさそうに笑った。
青空の下、湯気が立ち上る特大プールで、みんなの笑い声がいつまでも響き渡っていたのだった。




