第四話 父さんからのサプライズ
「な、なにこれーーー!?」
学校から帰り、我が家の門をくぐった陸は、目を丸くして叫んだ。
狭い我が家の庭に、巨大なクレーン車やトラック、さらには十数人のヘルメット姿の作業員たちがひしめき合っていたのだ。
「オーライ! オーライ! 10メートル級の頭上注意! 足場組むぞー!」
「父さん、どうしたの……この人たち?」
「ガハハ! 待たせたな陸! ガリバラさんの『巨大アンブレラ設置工事』の始まりだ!」
現場の真ん中でつなぎを着たお父さんがドヤ顔で胸を張る。
「父さん……まさか連絡日記読んで、こんなにたくさん業者集めたの!?」
「フフッ、息子の願いを叶えるのが父親だからな!」
陸が頭を抱えていると、背後からにっこりと眩しい笑顔が近づいてきた。
「元気だしなよ陸くん。こんな地響きみたいな騒音を出されたら僕なら発狂して殴り込んじゃうよ。だから、この工事の騒音のせいで近所の人たちから一斉に村八分にされないように、僕が代わりに祈っていてあげてるからね!」
「素直くん……! それ、全然励ましてないよね!?」
素直の相変わらずの毒舌に陸が脱力していると、その隣にいた小柄な少女——クラスメイトの咲野輪が静かに歩み寄ってきた。
輪はシャキーンと不自然な動作で、赤い伊達眼鏡の位置をミリ単位で調整し、陸の顔をじっと見つめる。
「……システム再起動。ターゲット・小鳥遊陸をキャプチャ。網膜パターン一致。これより陸の遺伝子情報の採取、および将来的な婚姻届の自動作成シミュレーションを開始します」
「えっ? 輪ちゃん……? 婚姻届!?」
陸が首を傾げると、輪はピクリとも表情を変えず、平坦なロボットボイスでしれっと恐ろしいことを言い放った。
「……勘違いしないでください。当機は幼少期のロボト似ー手術により感情の8割を消去されたサイボーグ『サキノ・ゼロワン』です。決して、あなたが学級文庫を戻す時に手が触れてドキドキしたからストーキングしてきたわけではありません」
「言ってないことまで全部自分でバラしてるー!?」
陸が赤面して叫ぶ。
「……否定。これはメモリの初期化エラーです」
輪はノータイムで言い張ると、ランドセルから『百円ショップの赤色LEDポインター』を取り出した。
そして、ドヤ顔で陸の胸元に照射する……。
が、光らない。
「……?」
輪は無言のままポインターをトントンと手で叩き、裏蓋を開けて予備の電池を取り替えてセットし直した。
カチッ。カチッ。
でも、やっぱり光らない。
【………………】
現場に流れる、何とも言えない絶妙な沈黙。
陸や父、素直までもが固唾をのんで見守る中、彼女だけがポーカーフェイスの裏で猛烈に焦り、必死にボタンを連打している。
だが一向に調子が良くない。
「……輪ちゃん、それちょっと貸してみて?」
見かねた陸が声をかけ、ポインターを受け取った。
裏蓋を開け、中の電池をひっくり返す。プラスとマイナスを逆に。
【カチッ】
ピカッと赤い光が陸の手元を照らした。
「ほら、電池の向きが反対だったよ」
陸が微笑みながら手渡すと、輪の顔がパッと華やぎ、思わず【ぽわん……】と素の可愛らしい笑顔が浮かび上がった。
——が、直後。
彼女は「ハッ……!」と正気に戻ると、一瞬で鉄のポーカーフェイスへ切り替わった。
「……ゲフン。主兵装、熱線レーザー照射。……陸。当機の簡易シミュレーションによると、あなたの『かっこよさ』が上限値を突破し、当機のCPUが熱暴走を起こす危険性があります。責任を取って放課後、一緒にアイスを食べるプログラムを実行することを特別に許可します」
「『許可』ってまさかの上から目線? それ、君がただ僕と放課後デートしたいだけだよね!?」
陸が困って苦笑いしていると、すかさず素直がニコニコと横から割り込んできた。
「陸くん騙されちゃダメだよ。ゼロワンちゃん、名札には普通に『咲野 輪』って書いてあるし、さっきまで『陸くんにあげるおやつ買わなきゃ!』って一人で駄菓子屋でキャッキャ選んでたよ」
「……警告。それは当機の旧コードネームおよび誤作動です。消去してください」
秘密を暴露された輪だが、ツンデレがバレバレなポーカーフェイスのまま、スプリング式のおもちゃのロケットパンチをぽすんと発射した。射程距離、わずか五十センチ。
「君たち、仲良く遊んでる場合じゃないぞー! スイッチ、オン!!」
お父さんがドヤ顔で手元のリモコンを押した。
【ガバァッ!!】
二階建ての我が家を遥かに見下ろす、全高12メートルの超巨大傘が一瞬で全開になり、猛烈な風圧が吹き荒れる!
「うわああああっ!?」
父の作業帽は空へ舞い上がり、向かいの翔太の家は真昼間なのに真っ暗闇に包まれた。
「俺んちの日当たり返せーーーッ!!」と翔太の悲鳴が遠くから響く。
「きゃっ……! 風圧で当機の光学的デバイス(伊達眼鏡)が……! 陸くん、助けて──ください……!」
輪は慌てて落ち着いたポーカーフェイスに戻ると、棒読みで陸の服の裾をぎゅっと掴んで離さない。
「すごーい! まるで台風体験コーナーだね! いいなぁ〜、陸くんのお家。これなら近所から絶対『危険物』扱いされるよ!」
素直が楽しそうに拍手する。
「……父さん。気持ちは嬉しいけど……やっぱりやりすぎだよ」
大騒ぎになる庭で、陸は遠い目をして呟いた。
だが、12メートルの巨大な傘の影の下で、ガリバラさんだけは胸の前で大きな手を合わせ、とても嬉しそうに頬を染めていたのだった。




