第二十四話 陸様は私が絶対に守ります!
お父さんの会社で前代未聞の緊急トラブルが発生し、帰宅が毎晩遅くなっていたある日の夜。
陸が自分の部屋で寝静まったあと、静まり返ったリビングのドアがそっと開いた。
疲れ切った様子で帰宅したお父さんを迎えたのは、暗闇の中で待機していた巨大なエプロン姿の影──ガリバラさんだった。
「お父様、お帰りなさいませ。今夜も大変なお仕事、お疲れ様でございます」
「ああ、ガリバラさん……遅くにすまないね。まだ何か軽く食べられるものはあるかい?」
「勿論ですわ! お父様のために出来たての特製の大盛料理をすぐにご用意しております!」
ガリバラさんが手際よく温かい夕食を準備する横で、お父さんは申し訳なさそうに小さく息を吐いた。
「実はね、このトラブルでしばらく家を空けがちになってしまうんだ。陸には心配をかけたくないんだが……僕がいない間、あの子を頼むよ」
「……お任せくださいませ、お父様!」
ガリバラさんは十メートルの巨体を胸を張って引き締め、瞳を力強く輝かせた。
「お父様が安心してご帰宅できるよう、このガリバラが二十四時間完全密着体制で、陸様を何があっても死守いたしますわ!!」
──そして翌朝。
「……ねえガリバラさん、いくら父さんに頼まれたからって、半径五十センチ以内密着警備は近すぎるよ!? 僕が息できないよ!?」
いつもなら「ガリバラさ〜ん! 今日の朝ご飯は何かな〜!?」と呑気に起きてくるお父さんがいない寂しさを吹き飛ばすように、朝のリビングはガリバラさんの凄まじい過保護ぶりに包まれていた。
そこへ、お腹の風船を【ぽすっ】と鳴らしながら輪が歩み寄ってくる。
彼女は液晶モニターの瞳を無情に明滅させながら、ボソッと呟いた。
「……当機判断。ガリバラ個体による二十四時間密着警備は、防衛コストの観点から非効率です。陸の安全を完全に担保するため、当機が考案した『絶対防衛プロトコル』の適用を提案します」
「輪ちゃんの『絶対防衛』ってロクな予感がしないんだけど、一体何をする気……?」
「……肯定。陸を自室のベッドに固定し、全身をダクトテープおよび100均の耐震ゲルパッドで完全保全。排泄・栄養補給・生殖行動の全てを当機の管轄下に置き、永久に動かない『生けるトロフィー』として動態保存します。……陸は動かなくていいのです。当機の愛だけを注がれる、全自動の抱き枕となればよいのです」
「狂気の名言を真顔で吐かないでーーーーっ!! それ防衛じゃなくて捕獲と監禁だから!! 生けるトロフィーって何!? 抱き枕にしないで!!」
陸が全力で悲鳴を上げる横で、ガリバラさんが「ハッ……!」と息を飲み、十メートルの巨体をブルブルと震わせた。その両瞳には、深い感銘と尊敬の光が宿っている。
「す……素晴らしい……!! なんという先認的かつ究極の愛の形……! 単に身を挺して守るだけでは甘かったのですわ! 陸様を物理的に固定し、外部環境から完全に隔離して全自動で愛でる……! 輪様、私めを弟子にしてください!!」
「弟子入りすんなーーーっ!! 何に感銘受けてんのガリバラさん!? メイドとしての誇りはどこ行ったの!?」
「……肯定。ガリバラ個体の弟子入りを承認。これより共同作戦『絶対防衛プロトコル・ダブルぐるぐる巻き』を始動します。ガリバラ個体、ダクトテープの予備とワイヤーを準備してください」
「承知いたしました、ゼロワン師匠!! 陸様の尊い自由を奪い、永遠の安全を確保いたしますわ!!」
「師匠って呼ぶな! 師弟関係結んで陸拘束ギルド結成しないで!!」
「ふふ、ヤンデレ師弟の誕生だね。歴史的瞬間だよ」
ソファーの端で優雅に紅茶を飲んでいた素直が、スマホを連写しながらニッコリ微笑む。
「面白がって撮影してないで素直くん助けてよ! ガリバラさんの巨体で退路塞がれて輪ちゃんが工業用ダクトテープ構えてジリジリ詰めてくるんだよ!?」
「陸様、お覚悟を! 痛くはいたしません……ただ、指一本動かせないミイラにして自室に鎮座していただくだけですわ!」
「……当機判断。まずは陸の抵抗運動を封殺するため、下半身から順にダクトテープ40本分を巻き付けます」
【──ぐるぐるぐるぐるぐるぐるッ!!!】
「うぎゃあああーーーっ!? 助けて翔太!って、いまここには翔太はいないんだ。 父さん! 誰でもいいからこの狂気の師弟を止めてーーーっ!!」
お父さんの夜遅い帰宅と頼み事を発端に、過保護メイドとヤンデレ少女による危険すぎる師弟同盟が発足。
その日──小鳥遊家のリビングでは、陸の悲鳴が夜な夜な響き渡っていた。




