第二十二話 ご近所さんからの特大おすそ分け
先日の「小鳥遊前衛芸術公園」の一件以来、なぜか町の人々の間でガリバラさんの好感度は爆上がりしていた。
10メートル級の巨体で町のインフラを破壊……もとい、力技で修理して回る姿が「男気あふれる頼もしいメイドさん」として定着してしまったらしい。
そんな平和な(?)日常を送っていた小鳥遊家の玄関前に、早朝から地鳴りのような重低音が響き渡った。
【────ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!】
「な、なに!? 地震!?」
跳び起きた陸がパジャマのまま玄関を飛び出すと、そこには見上げるような大型トラックが3台、ずらりと横付けされていた。
そして荷台からドサドサと投げ降ろされているのは、色鮮やかな大量の野菜──キャベツ、大根、白菜、そしてダンボールいっぱいの人参だった。
「おーい、陸くん! 地元の農家さんから『ガリバラちゃんに』って、朝採れ野菜がトラック三台分おすそ分けで届いたよ!」
敷地の端で呑気に手を振る素直の横で、ガリバラさんが「まあ……! なんて温かいお心遣いでしょう!」と目を輝かせている。
「トラック三台分は『おすそ分け』の規模を超えてるでしょーーーっ!? うちの庭が農協の出荷場みたいになってるんだけど!?」
「ふふ、まあまあ。ガリバラさんが普段から町のために働いてるからだよ。……あ、ほら、ゼロワンちゃんも野菜の山を前にして何か忙しそうだよ」
素直の視線の先を見ると、輪が野菜の山に突進し、超高速で100均の彫刻刀と竹串を駆動させていた。
「輪ちゃん!? さっきから……卑猥な形をした人参二本に、僕と自分(輪)の名前を削り出して隣同士に並べてるよね!?」
すると──輪は頭部からドス黒い蒸気を噴き出しながら言った。
「……勘違いしないでください。当機は決して、偶発的に産出されたオス型とメス型の人参を交配させ、陸と当機の永続的な子孫繁栄の契りを交わす呪術的儀式を行っているわけではありません」
「完全に野菜を使って怪しい夫婦の契りを結ぼうとしてたじゃないか! なんで人参の卑猥な形状にそんな過剰に反応するのさ!」
「……否定。これは当機の農業用調理モードのバグによる失言です」
輪はノータイムで言い張ると、お腹の風船を【ぽすっ】と大きな音で鳴らした。
「ちょっと待って輪ちゃん、白々しく風船鳴らして誤魔化さないで! 人参の形がリアルすぎて直視できないからね!?」
「陸くん騙されちゃダメだよ」と、スマホの画面をタップしながら素直がニッコリ笑う。
「ゼロワンちゃん、さっき『陸くん人参の下半身に綿棒の先を切って差し込んで、立派なアレを完成させるんだ~♪』って一人で嬉しそうに作業してたよ」
「……警告。それは当機の調理プロセスにおける重度な誤作動です。当該メモリを物理的に消去してください」
秘密を暴露された輪は、陸に背を向けると、100均の万能包丁で山積みのキャベツをみじん切りにしはじめた。
「……まったく、今日も朝から賑やかになりそうだな」
陸は山のような野菜を見上げつぶやいた。
──とその時。
「あー、マジでお腹すいたー。なんかタダで飯食えそうな匂いがすると思ったら、ここだったんだ~」
庭のフェンスにだるそうに寄りかかりながら、制服の胸元を少し崩したJK──陸の親戚の美咲お姉さんが、つまらなさそうにケータイをいじりながら現れた。
「美咲姉ちゃん!? なんで日曜の朝からうちにいるのーー!?」
「えー? 野菜の匂いがしたから散歩のついで? ……っていうか陸、親戚のお姉さんがお腹ペコペコで倒れそうなのに冷たくない? ……ほら、そこのデカいメイドさん! あたし超お腹すいてるから、何か今すぐ作ってよ」
美咲お姉さんは可愛らしく首をかしげて見せるが、その目は一切笑っておらず、ただひたすら『タダで満腹になりたい』という底意地の悪い計算でギラギラと輝いていた。
「ちょっと美咲姉ちゃん! 勝手に人の家のおすそ分けをあてにしないで──あ、こら何勝手に物色して……」
陸の制止をスルーし、美咲お姉さんはだるそうに野菜の山を漁り始めた。
そして──輪が丹念に加工していたダンボールの陰に転がる『あるもの』に目を留めた。
「ん……? 何これ……?」
美咲お姉さんが持ち上げたのは、輪が100均ツールと綿棒を駆使して極限までディテールを作り込んだ、陸の裸体つもり(マッチョパッツンパッツン仕様)の卑猥な人参だった。
「……ッ!?」
美咲お姉さんの動きがピタリと止まる。
「あっ! 美咲姉ちゃんダメだってそれ! 輪ちゃんが変な加工したやつだから置い──」
「こ、こ、こ、コイツ……。な、なんてすば……ゴホン! なんてけしからん野菜なのよ……!?」
美咲お姉さんは顔を真っ赤にしながらも、その人参から目を一切離せない。
全身の筋肉と脈打つような立体感、そして綿棒による絶妙な再現度に、完全に目が釘付けになっていた。
「それに美咲姉ちゃん……? どうして僕たちから顔そらすの……?」
陸は不思議そうに問い詰める。
「うっさいわね!!」
「美咲さん? 今……顔が真っ赤ですよ。……急にどうしちゃったんですか?」
陸と素直に挟まれ、美咲は人参を胸元にぎゅっと抱え込みながらプルプルと震え出した。
「そ、そ、その人参は、き、き、危険すぎるのよ……っ! 育成環境はどうなってんのかしらね……!」
「はい?? 」
「……アンタたちにはまだ早いのよ! この人参は危険だから没収! あたし、いま急にお腹痛くなった……! ごめん、トイレ借りるわ!!」
「ちょ、美咲姉ちゃんーーっ!?」
美咲お姉さんは輪に向かって「ちょっとこれ借りるわね!」と叫ぶと、卑猥なマッチョ人参をポーチにねじ込み、猛烈なダッシュで小鳥遊家のトイレへと駆け込んでいった。
【──バタンッ!! カチャン!!】
「……あ、ゼロワンちゃん。美咲さんに『陸くん人形』持っていかれちゃったね」
「……当機判断。美咲個体による当該オブジェクトの強奪は、重大な権利侵害です。直ちにドアを破砕し奪還します」
「輪ちゃんもノコギリ持ってトイレのドアに突撃しないでーーーっ! 美咲姉ちゃんも中で何するつもりなのさ!?」
『トントン!』
「美咲姉ちゃ〜ん! お腹大丈夫〜!!」
しかし──美咲お姉さんは、マッチョパッツンパッツン人参を持ってトイレに立てこもったきり、なかなか戻ってこなかった。




