第二十一話 公園の遊具を修理しちゃいました
10メートル級のメイド・ガリバラさんを筆頭に、陸の逃走経路を遮断することに執念を燃やす輪、そしてすべてを高みの見物で楽しむ素直。この異常な行列に引きずり出された陸が、胃の痛みに耐えかねてふと周囲を見回した。
「……そういえば、あれからパトカーの先導、ないよね?……僕たちだけでこんな堂々と散歩してて大丈夫かな?」
「ああ、それなら大丈夫じゃないかな? 住民から『お前らのせいで交通渋滞が起きてるだろ』って苦情があったらしく、僕たちを遠巻きに見守る方針に変えたらしいけど」
「それ、全然大丈夫じゃないよね!?」
そんなやり取りをしているうちに行き着いた前方の公園にて、壊れた危険なジャングルジムがぽつんと放置されていた。
「……危険度レベルCと認定。当機がライトセイバーで切り刻み、更地にすることを提案します」
「物騒な解体作業をやめてーーーっ!? 子供の遊び場を即座に更地にするな!」
「ふふ、更地にすればスッキリするのにね。あ、ほら、壊れた遊具を見て男の子が泣いているよ」
素直が指さした方を見ると、小さな男の子が「遊びたかったのに……」と涙を流していた。
その瞬間、ガリバラさんの親心に火がついた。
「まあ……! お友達が泣いていますわ! 私が今すぐ完璧に直してあげます!」
「ガリバラさん待って! 素手で触ったら危険だって――!」
陸の制止も虚しく、ガリバラさんは膝を折り、10メートルの巨体でジャングルジムを掴んだ。
【──メリメリメリッ!!!】
「ひっ……!?」
凄まじい金属音とともに、ガリバラさんは圧倒的な怪力で鉄骨を強引に折り曲げ、組み替えていく。
さらに懐から取り出したバーナーで、一気に溶接を仕上げてしまった。
【──パチパチパチッ!!】
「バーナー持ってるなら最初から使ってよ!」
「……計測不能。ガリバラ氏の加工スピード、当機のスペックを超えています」
数秒後、ガリバラさんが「お待たせしました!」と爽やかに立ち上がった。
そこにそびえ立っていたのは、鉄パイプが狂った角度で交差し、面によって目の数が合わなかったり面の形自体が歪んでいる、カオスな巨大サイコロの立体物だった。
「……っ!? なんだこれ、歪みすぎて何面体かも分からない不気味なサイコロなんだけど!?」
「ふふ、素敵です! 実は陸様が幼稚園の頃に粘土で作られた『いびつなサイコロ』を参考に再現してみました! ちゃんと中にも人が入れますよ。……ちなみに、側面にはしっかりと『作 タカナシ リク』と特大の銘板を溶接しておきましたよ!」
「地味に僕のサインを刻印しないでーーーっ!? しかも特大サイズって公開処刑じゃん!」
「ふふっ、すごいね陸くん。自分の黒歴史を町の公共の場にデカデカと刻みつけられるなんて、最高の芸術家人生じゃないか」
「全然嬉しくないよ! むしろ今すぐ撤去して恥ずかしさで消滅したいよ!!」
ニヤニヤと楽しそうに笑う素直をよそに、輪が不気味に赤く目を光らせた。
「輪ちゃん!? さっきから……サイコロの出目ごとに、僕をどんな風に調教して犯し尽くすかのシミュレーションをメモ帳に書いてるよね!?」
すると──輪は頭部からドス黒い蒸気を噴き出しながら言った。
「……勘違いしないでください。当機は決して、陸をこの不気味なサイコロオブジェのなかに監禁し、サイコロを振って出た目の数だけ強制的に全裸にして濃厚なスキンシップを繰り返す新婚生活の妄想データに没頭しているわけではありません」
「完全に脳内でドスケベな新婚生活を構築しきってたじゃないか! なんでそんなシチュエーションを勝手に作り上げるのさ!」
「……否定。これは当機の音声回路のバグによる失言です」
輪はノータイムで言い張ると、お腹の風船を【ぽすっ】と大きな音で鳴らした。
「陸くん騙されちゃダメだよ」と、スマホの画面をタップしながら素直がニッコリ笑う。
「ゼロワンちゃん、さっき『この巨大サイコロ。外からは見えないマジックミラー全面張りにして、中で私が陸くんとあんなことやこんなことをしながら、背徳的スリルを楽しむんだ~♪』って一人で嬉しそうに話してたよ」
「……警告。それは当機の音声合成モジュールによる重度な誤作動です。当該メモリを物理的に消去してください」
秘密を暴露された輪は、陸に背を向けると、高出力のレーザーカッターで地面をえぐりながらフルスピードで逃走し……、やっぱりまた戻ってきた。
しばらくして──頭を抱える陸の前に、一人の初老の男性が手を叩きながら駆け寄ってきた。
「素晴らしい! 私はこの町の町長だ! 長年予算がなくて直せなかった遊具を、まさかこんな現代アートのように美しく、しかも作者の銘板付きで直してくれるとは!
……お礼にこの公園を今日から『小鳥遊前衛芸術公園』に認定しよう!」
「町長もノリでヤバい美術館みたいに認定しないでーーーっ!? ここ普通の公園だからね!?」
小鳥遊家パトロール隊は賑やかに家路に向かう。
「……あれ? 輪ちゃんは? 一緒に歩いてないけど」
頭を抱えながら歩いていた陸がふと振り返ると、輪の姿だけが見当たらなかった。
その頃──。
誰もいなくなった夕暮れの公園で、輪は一人、巨大な歪んだサイコロの真下にひざまずいていた。
「……ガリバラ氏の『作 タカナシ リク』の銘板、芸術的価値は認めますが、所有権の表記に重大な欠落があります」
無感情に呟いた輪の指先から、【ウィィィン……】と超高出力のレーザーカッターが展開される。
【──ジジジジジッ!!!】
鉄を焦がす鋭い音とともに、輪はガリバラさんが溶接した「作」の文字のすぐ手前に、寸分の狂いもない精巧な手つきで新たな極小の漢字と文字を彫り込んでいく。
複雑な画数の「隷」や「愛」の字も、機械ならではの完璧な器用さでギチギチに刻み込まれていく。
そして、火花が収まった後に浮かび上がったのは――。
【輪の愛玩肉奴隷) 作 タカナシ リク】
「……完璧です。これでこの歪んだサイコロオブジェは、当機と陸を繋ぐ永久の呪術的契約証明書となりました」
輪はお腹の風船を【ぽす……ぽす……】と淫らに鳴らし、誰もいない夜の公園の真ん中で、ぞっとするほど甘い狂気の笑みを浮かべるのだった。




