第十九話 パトカーに先導されるガリバラさん
「……陸様! 本日も『下界のお散歩(車道ウォーキング)』の時間がやってまいりました!」
エプロン姿のガリバラさんが、小鳥遊家の玄関先で巨大な体を折り曲げながら、意気揚々とスニーカーの紐を結んでいた。
その巨体が動くたびに、家の柱がみしりと悲鳴を上げる。
「散歩に行くなとは言わないけどさ……ガリバラさん、歩道を歩くと街灯とか信号機を薙ぎ倒しちゃうからって、堂々と車道の真ん中歩くのやめてもらえる!?」
玄関で頭を抱える陸。10メートル級の巨大メイドが車道を歩く姿は、もはや怪獣映画の特撮映像そのものである。
「安心してください、陸。当機が交通安全対策として、誘導用にライトセイバーを完備しております」
いつの間にか横に立っていた輪が、無表情で光る棒を取り出した。
「……あ、それ警備員さんが夜工事現場で振るやつ!! あれ……? でもこれ、ずっしり重いし、先がものすごく熱いんだけど、まさかホンモノじゃ……ないよね?」
「…………♪(不協和音の口笛)」
「目を逸らしながら素知らぬ顔で口笛吹いて誤魔化さないでーー!!
……って、まあ、この際本物かどうかは置いといて、この誘導棒、ガリバラさんと出かけるときには、ずっと僕が持っておかないといけないの!?」
「問題ありません。陸がこの誘導棒を手にすれば、もれなく警備タイプの当機タカナシゼロワンがついてきます。寝る時も同じベッドの中で陸の男性機能の発育等を監視することも可能です」
「不吉な機能つけるのやめてーーーっ!! どこ警備してんのさ! ……あと最後のやつ完全に性犯罪予備軍でしょ!!」
「ふふ、陸くん騙されちゃダメだよ」
リビングから現れた素直が、麦茶のペットボトルを手にニッコリと微笑む。
「ゼロワンちゃん、さっき廊下の物陰で『この振動機能付き誘導棒で陸と夜の密室警備(添い寝)を慣行し、あわよくば既成事実を構築する……ククク』って一人で怪しいニヤけ顔浮かべながら予行練習してたよ」
「……警告。それは当機の旧プログラムによる重度な誤作動です。当該メモリを物理的に消去してください」
秘密を暴露された輪は、無表情のまま耳まで真っ赤に染め上げると、お腹の風船をぽすぽすと激しく揺らしながら陸の背中に必死で隠れかけた。
「輪ちゃん……ッ!! 卑猥な妄想、実行に移そうとしないでよ! ……っていうか二人とも、何で当然みたいについてくる準備してんの!? 」
「え? だってゼロワンちゃんの観察や、ガリバラさんの散歩を見る方が家にいるよりずっと面白いからね」
陸が頭を抱えたその時──家の外から、ウーウーと甲高いサイレンの音が近づいてきた。
「ゲッ、警察!? ほら言わんこっちゃない!! もう通報されたんだ!!」
青ざめた陸が飛び出していくと、小鳥遊家の前の通りに1台のパトカーが停車した。
赤色灯を回転させ、助手席から警察官がマイクを握りしめている。
『──近隣住民の皆さん、ならびに通行中のドライバーの皆さん! これより、小鳥遊家名物「メイド・ガリバラさんの定期散歩」が始まります!』
「……は!?」
陸の口がポカンと開いた。
『繰り返し申し上げます! ガリバラさんが通過いたします! 全車両、左に寄せて一時停止してください! 繰り返します、ガリバラさん通りまーす!!』
「……警察官公認になってるーーーっ!? なんでパトカーが先導してくれてんのさーーーっ!?」
「まあ、ガリバラさんが車道を歩くと大型トラックすら避けて通るからね。事故防止のために警察が『いっそ先導した方が安全』って結論を出したらしいよ」
素直が涼しい顔で警察官に向かって手を振る。
「……当機、警察車両と同期。これより『陸の逃走経路を断つための愛の交通整理』を執行します」
「いきましょう、陸様! 本日も街の平和と交通安全を守ってみせますよー!」
「ガリバラさんが歩くことが一番の交通障害なんだよーーーっ!!」
陸の絶叫を背に受けながら、パトカーを先頭に、10メートルのメイド、ため息をつく陸、無表情で誘導棒を振る輪、そしてその様子を実に楽しそうに眺める素直──が、夕暮れの街へと堂々と練り歩いていく。
陸を取り巻くカオスなパトロール隊は、今日も街の名物として賑やかに進んでいくのだった。




