第十七話 巨大アトラクション・ガリバランドへようこそ!
「──本当にすまない、陸……っ! 急なトラブルで出張になっちゃってね……ずっと楽しみにさせておいたのに、約束を守れなくて本当に申し訳ない……!」
リビングに響いた父親からの電話の声には、心底申し訳なさそうな落胆が滲んでいた。
陸は胸がキュッと締め付けられるような切なさを覚えたが、無理に明るい声を作って答えた。
「ううん、大丈夫だよ父さん! お仕事なら仕方ないよ。気をつけて行ってきてね!」
「陸……ごめんな、次の休みには必ず……!」
「うん、全然気にしないで! いってらっしゃい!」
通話を切り、スマホを置いた途端──陸の肩がガクリと落ちた。
「……はぁ」
大丈夫と言ったのは本心じゃない。ずっと楽しみにしていた週末の予定。アトラクションの回り方までバッチリ予習していたのだ。
ショックと残念な気持ちで胸がいっぱいになり、陸はリビングのソファに深々と沈み込んだ。
だが、そんな陸の沈痛な面持ちを、庭に集まっていた面々が見逃すはずもなく──。
「……陸様、どうなさったのですか? まるで世界が終わったかのようなお顔で……」
ガリバラさんは心配そうに陸の顔を覗き込む。
「……当機の索敵センサーによると、陸のテンション値が著しく低下中。原因の特定と、緊急メンタルケアの実行を提案します」
輪がいつも通りの無表情で告げ、……庭の隅では素直が静かに麦茶を飲んでいる。
「いや……父さんが出張になっちゃって、楽しみに設定してたテーマパークに行けなくなっちゃってさ。……ごめん、ちょっと一人で部屋に引っ込んでるよ」
そうポツリと言い残し、力ない足取りで自分の部屋へと消えていく陸。
残された庭に、一瞬の静寂が訪れた。
「……陸様が、あんなに悲しそうなお顔を……」
ガリバラさんが目頭をハンカチで押さえ、なみなみと涙を溜める。
「……許せません。陸を悲しませる出張など、当機が今すぐその企業を物理的に買収・解体すべきです」
「待て待て、輪ちゃん暴走すんな。……まぁでも、陸があそこまで落ち込んでるのも珍しいな」
翔太がボソッとつぶやいた。
「本物のテーマパークに行けないなら──この家に、僕たちでアトラクションを作ればいいんじゃないかな?」
「……!?!?」
「素晴らしいアイデアですわ素直様!! 陸様のために、わたくし達の手で最高のガリバランドを建設いたしましょう!!」
「……了解。当機もアトラクションの施工および、陸を笑顔にするための極秘作戦を展開します」
「おいおい、乗っておいてアレだけど……我が家の庭、とんでもないことになりそうだね」
電話越しに同意した父の声は、呆れつつもどこか楽しそうだった。
──そして数時間後。
自分の部屋で鬱々と過ごしていた陸は、庭の方から聞こえる異様な重低音とドタバタ劇に耐えかね、重い腰を上げた。
「……庭で何やってるんだろ、みんな」
窓を開け、庭を見下ろした瞬間、陸は目を疑った。
「な、なんだこれーーーっ!?」
そこに広がっていたのは、我が家の庭とは思えない混沌としたDIYテーマパークだった。
ガリバラさんの巨大な身体をフルに活用した『人間ジェットコースター』、そして謎の木組みで作られた手作り感満載の滑り台。
「あ、陸! 起きてきたね」
「陸様! お待ちしておりましたわ! 本日限定開園、『ガリバランド』へようこそ!」
手作りの入場券を掲げて満面の笑みを向けてくる仲間たち。
陸のために、みんなで汗を流して準備してくれたのだということが一目で分かった。
「みんな……ありがとう……っ!」
陸がじんと目頭を熱くさせた、その瞬間だった。
「……フッ。お久しぶりです、おじいちゃん」
いつの間にか全身黒のスポーツウェアを着ている輪。
なぜか片手を額にかざして空を仰ぎ、いかにも『未来のディストピアから来たいつかの少女』のようなアンニュイなポーズを決めていた。
「……は? おじいちゃん……って誰!?」
「……当機は西暦2099年の絶望的な未来からタイムマシンでやってきた、あなたの孫娘【サクノ・ゼロスリー(仮)】です。未来のグランパ(陸)は、今日の遊園地に行けなかったショックで世界の支配者『機関』に屈し、暗黒の未来を引き起こしました」
「???……」
頭にいくつものクエスチョンを浮かべた陸は無言でフリーズ。
「ごめん。ちょっと何言ってるのかわかんないんだけど……」
庭にスーッと冷たい風が吹き抜け、耐えがたいシュールで微妙な空気が流れる。
そんな状況に素直が一言。
「スベるのは滑り台だけにしようか……ゼロスリーちゃん?」
「ガーン……ッ!?」
素直の容赦ない追撃に、目に見えるほどのショックを受ける輪。
しかし速攻で体制を立て直し、必死にドヤ顔を作り直す。
「……『機関』の陰謀を阻止し、世界線を変えるため、当機が過去(現在)のアトラクションを完成させました。……感謝しなさい、おじいちゃん」
「そもそも僕の闇落ち理由がショボすぎるし、勝手に僕たちの孫まで既成事実にしないでーーーっ!!」
陸が激しくツッコミを入れると、すかさず横から素直が麦茶のペットボトルを片手に、ニッコリと爽やかな笑顔を浮かべて近づいてきた。
「陸くん、騙されちゃダメだよ」
「え、素直くん?」
「ゼロワンちゃん、さっき庭の物陰で『まず私と陸の間に生まれた息子ゼロツーが、女装した過去の陸と……あ〜頭がこんがらがるー!』ってブツブツ呟きながら、同人誌のネームを描く手を止めてくれなかったよ」
「輪ちゃん、君の脳内カップリングで僕の家系図歪ませないでー!! ……って言うか、そもそもなんで女装した現在の僕が自分の息子とカップリングされてんのさ? ……雄同士で子供ができるかについては百歩譲って、父息子で一線を越えちゃったところとか、いろいろヤバいよ……輪ちゃん!!」
「……ッ!? 陸、あなたに当機の極秘創作構想を盗み見られてしまうとは……世界線の収束を無視して、今ここで消去(物理)します……!」
「うわっ、図星だったからって何で僕に!?」
顔を真っ赤にしてポカポカと陸の腕を叩きまくる「自称・未来の孫娘」と、真顔で優雅に麦茶を飲む素直。
「……あはは、ほんと賑やかだなぁ……」
陸は呆れつつも、さっきまでの落ち込んだ気持ちが完全に吹き飛んでいることに気づき、ふっと笑顔をこぼした。
「さあ、陸様もわたくしの肩へどうぞ! ……遊園地でもなかなか体験できないような、特別な景色をお見せしますわ♪」
「うん! 行くよガリバラさん!」
青空の下、ガリバラさんの肩から見下ろす大好きな我が家と、ドタバタと騒がしい大切な仲間たち。
こうして陸の最高に賑やかで温かい週末は、大爆笑の中で幕を閉じるのだった。




