第十六話 陽キャギャルの裏の顔と、輪・メイド喫茶バイトに挑戦
デパートでの爆笑アナウンス劇場の惨劇から、わずか数時間後の夕方。
陸と輪は、美咲お姉さんから「この後、私のバイト先に来なよ〜!」と強引に指定してきた場所へと連行されていた。
到着したのは、駅前の雑居ビル1階にある賑やかなメイドカフェ。
なぜか店外にはガリバラさんの姿が……。
陸たちに優雅に手を振っている。
当然ながら、身長10メートルのガリバラさんが狭い店内に入り切るはずもなく……。
一緒に連絡を受けて駆けつけた翔太や素直も合流し、店前に設置された広々としたオープンテラス席のテーブルを囲んでいた。
「わたくしめが店内に侵入いたしますと、建物の構造体を破壊しかねませんからね。ここで待機いたしますね」
「うん、それが一番平和だよガリバラさん……」
巨大なガリバラさんがテラス席の横で優雅に日畳みしている光景は異様そのものだったが──、通行人たちは「新しい巨大オブジェか何か?」と二度見しながら通り過ぎていく。
「それにしても陸、あんなモデル級の綺麗なお姉さんがいとこにいたなんて初耳だぞ!」
アイスティーを飲みながら、初対面の美咲お姉さんに鼻の下を伸ばす翔太。
「同感だよ。可憐で気さくで、実に理想的なお姉さんじゃないか」
普段は冷静な素直までもが、美咲お姉さんの完璧な営業スマイルにすっかり騙されていた。
「二人とも騙されちゃダメだ……! あの笑顔の裏に悪魔が潜んでるんだから……!」
陸が悲痛な声をあげていると、風船をお腹につけた輪が真顔で陸の袖を引っ張った。
「陸。当機も……この『めいどかふぇ』なる施設の業務システムに興味があります」
「えっ、輪ちゃんもやってみたいの?」
「肯定です。人間界の『おもてなし』データを収集し、当機のスペック向上に役立てます」
「おっ、いいじゃん! 美咲さんに頼んで衣装借りてみなよ!」
翔太の余計な一言により、速攻で美咲お姉さんからフリフリ全開のメイド服を着せられた輪が、テラス席へと降臨した。
「……いらっしゃいませ、豚ども」
開口一番、輪は死んだ魚のような虚無の目で、陸たちを見下ろしながら言い放った。
「言い方!! 何のキャラ作ってんの!?」
「……当機は『ドSツンデレメイド』のロールプレイを実行中です。黙ってオムライスをご注文しやがってください、この愚民ども!」
「ツンしかねぇよ!? デレはどこ行ったんだよ!!」
「否。当機は今ツンデレでは無くて『ツンドラ』仕様です」
「ツンドラって……まあ、確かに言葉が冷たくて針っぽいところは針葉樹林っぽいけどさっ……!」
陸がツッコミを入れるが、輪は真顔のまま、陸のオムライスにケチャップで大きく【豚】と殴り書きした。
「……美味しく無くなるおまじないです。『萌え萌えキュン』などという軟弱な呪文は当機のメモリに存在しません。……ほら、さっさと胃袋にぶち込みなさい」
「雑すぎるだろーーーっ!?」
陸が頭を抱えた、その直後だった。
「……ッ!? なんだあの神接客は……!?」
「『豚ども』って言われた……! ご褒美か!?」
「おい、俺にも! 俺のオムライスにも『豚』って書いてくれーーーッ!!」
なんと、テラス席の周りにいた男性客たちが、輪の冷酷無比なドS接客に大興奮!
あっという間に「次、私をお願いします!」「罵ってください!」と、輪の前に男たちの長蛇の列が出来上がってしまったのだった。
「……理解不能です。人間界の男性はマゾヒズムのバグを抱えているのですか?」
冷ややかな目でケチャップを振りかざす輪と、それを「うおーっ!」と歓喜で迎える男たち。カオスすぎる空間に陸は頭痛がしてきた。
そんな中、バイトの休憩時間に入った美咲お姉さんが、フリフリのメイド服姿でテラス席へとやってきた。
「あ〜疲れた〜! 陸〜、お姉ちゃんお腹空いちゃった〜♡」
「お疲れ美咲姉ちゃん。輪ちゃんが勝手に大繁盛させてるよ」
「うわっ、輪ちゃん超バズってるじゃん! 後で時給弾んであげなきゃ〜。……それより、私ちょっとだけ席を外すね。
特大メガ盛りカレーと、デカ盛りパフェ3人前、自分で取りに行ってくるから!」
「……え? 3人前? 誰の分?」
「ウチの分に決まってんじゃん!」
運ばれてきたのは、大食いタレントが挑戦するレベルの巨大スチール皿に入った5キロの爆盛りカレーと、花瓶のようなグラスに入った巨大パフェ。
美咲お姉さんは可憐な笑顔を崩さないまま、ガツガツガツッ!!と、凄まじい吸引力でカレーを丸呑みにしていく。
「……えぇぇぇぇ……!?」
陸、翔太、素直、そしてガリバラさんまでもが呆然と口ぐぐぐ……と開く。
「ん〜っ♡ 美味し〜! ウチね、インスタには『今日のランチはアボカドサラダだけ♡』とかあげてるけど、実際は1日6食食べないと死んじゃう体質なんだよね〜!」
「可愛らしい見た目の裏でフードファイターだったーーーっ!?」
夢から覚めたように叫ぶ翔太。
「ちなみに昼間のデパートでも、陸がトイレ行ってる間にクレープ5個食べてたよ〜♡」
「胃袋どうなってんだよ!! 映え意識の裏の努力(?)が凄まじすぎる!!」
美人なお姉さんの幻想があっけなく崩れ去り、唖然とする翔太と素直。
無感情に男たちを罵倒し続けるメイド姿の輪と、可憐な笑顔で爆盛りカレーをダイソン並みの掃除機吸引で平らげていくギャルのお姉さん。
「……陸様。この店にはたいへん個性的で規格外な方が多いようですね♪」
「ガリバラさん……。それ、君が言っちゃう?」
陸は冷やし中華をすすりながらボソッと呟き、「もう家に帰りたい……」とテーブルに突っ伏すのだった。




