第十五話 腹黒JKと恐怖のデパート着せ替え地獄
咲野ラボでの「女装写真事件」から数日後の週末。
陸の自宅である一軒家のリビングに、突如として嵐が舞い降りた。
「りっく〜ん! 遊びに来たよ〜!」
インターホンと同時に豪快に玄関を開けて入ってきたのは、陸のいとこで現役JKの【美咲】お姉さんだった。
一見するとモデルのように可愛らしい女子高生だが、その実体は——計算高さと可憐な笑顔で他人を意のままに操る腹黒ギャルである。
「うわっ、美咲姉ちゃん!? なんで急に……」
「陸が言ってた10メートルの巨大メイドさんに会いに来たんだ〜! どこどこ?」
「ガリバラさんならちょうど夕食の買い出しに出かけてるよ。もうすぐ戻ると思うけど……」
「……って、えっ!? ナニこの子、超カワイイんだけど!!」
美咲お姉さんの目がキラーンと光った。
視線の先にいたのは、お腹に風船と赤いリボンをつけ、真顔でゴーグルを装着している輪だった。
「……危険人物と認定。当機の防衛システムを起動し——」
「きゃー! なにその設定! 超カワイイ〜〜っ!」
美咲お姉さんは輪の警戒をあっさりスルーし、すっと前に屈むと満面の可憐な笑顔を浮かべて輪の両手をぎゅっと握りしめた。
「ねえねえ、私ね、すっごく可愛い女の子が大好きなの! 輪ちゃんっていうの? 私とお友達になってくれるかなぁ〜!?」
「……ッ!? あ、当機のCPUが……過剰な陽キャ波動とハイテンションにより……処理オーバー……ッ」
いつもなら「在宅サイボーグ」を自称して強がる輪だったが、美咲姉ちゃんの怒濤のテンションと完璧な笑顔の圧に完全に気圧され、目を白黒させて固まってしまった。
「ねえ陸! 輪ちゃん超お人形さんみたいじゃん! 今からショッピングモール行って可愛いお洋服着せ替えしよ!」
「……り、陸。当機のシステムが……彼女の要求を拒否するコマンドを見つけられません……たすけ……」
「輪ちゃん、完全に圧に負けて固まってるじゃんーーーっ!?」
こうして陸は、美咲お姉さんのマシンガントークと、抵抗権を奪われた輪を引き連れて、大型ショッピングモールへと連れ出されるハメになったのだった。
ショッピングモールの3階、キッズ・ジュニア服売り場。
「はい輪ちゃん着替えて! 陸くんもお揃いのキッズ用セーラー服ね!」
「なんで僕まで着せられるのさ!? 僕は男だし、そもそも小学生用でもサイズギリギリだよ!!」
「え〜? りっくん、お姉ちゃんの頼み聞けないの? 輪ちゃんとペアコーデにしたら絶対インスタで『イイね』爆伸びするのに〜」
「……陸。我が軍はすでに完全に包囲されています……おとなしく従うのです……」
「自分の意思を放棄しないで輪ちゃん!!」
結局、腹黒JKの圧と完全に目が点になった輪の無言の視線に屈した陸は、試着室で強制的に可愛らしいペアルックを着せられたのだった。
【パシャリ! パシャリ! カシャカシャカシャ!】
「ヤバいウケるwww 『弟と天使な妹(仮)でお揃いコーデしてみた♡』でストーリー投稿完了〜!」
「勝手にインスタにあげないで美咲姉ちゃん!! 友達に見られたら僕の学校生活が終わるから!!」
撮影の嵐がひと段落したところで、陸は疲弊しきったお腹を押さえた。
「あー……胃が痛い……。僕、ちょっとトイレ行ってくるから! 輪ちゃん動かないで待っててね!」
「……了解。当機、現在地にて完全停止モードに移行します」
陸は逃げるようにトイレへと駆け込んだ。
……数分後。
トイレの個室で用を足し、ふぅと息をついていた陸の耳に、モール全体に響き渡る優雅な館内チャイムが飛び込んできた。
【ピンポンパンポーン♪】
『迷子のお呼び出しを申し上げます。当館3階キッズ服売り場にて、保護者の方をお探しの小さなお連れ様が——ちょっとお嬢ちゃん、そこのマイクに入っちゃダメよ!?』
「ん……? 何かトラブル……?」
陸が首を傾げたその瞬間、スピーカーからガチャリとノイズが走り、聞き覚えのある無感情な音声に切り替わった。
『……ザザッ……全館アナウンス回線の占拠に成功。当機のターゲット・小鳥遊陸へ緊急通達を行います』
「わ、輪ちゃん!? なんでマイクジャックしてんの!?」
『現在、当機は極悪ギャル・美咲氏に拘束され、試着室にて【猫耳カチューシャと裸にエプロン】の強制アタッチメントを迫られています。残された猶予はありません』
「輪ちゃんに何着せようとしてんの美咲姉ちゃん!? ……っていうかショッピングモールでどんな言葉を放送に乗せてるのさ!!」
『美咲氏が『りっくんが30秒以内に来ないと、女装セーラー服写真をクラスLINEに誤送信しちゃうぞ〜♡』と笑顔で撃破予告を出しています。繰り返します、当機の倫理モジュールが壊れる前に——きゃああっ!?』
「何が起きたの!? 輪ちゃん!?」
『(遠くでアナウンスお姉さんの焦り声)ちょっと! お姉さん、勝手に人のスマホを操作しないで! マイク返して!』
『(美咲姉ちゃんの楽しげな声)え〜? いいじゃんお姉さん! りっくん超可愛いから見てよ〜! 全員に拡散しちゃお〜♡』
「アナウンス室が美咲姉ちゃんに占領されてるーーーっ!?」
『……ザザッ。陸、当機の愛するダーリンよ。もし当機の社会的人格が崩壊した時は、当機の記憶装置を消去し——【プチッ、ツーーーー……】』
「社会的に死ぬのは僕のほうだよおおおーーーっ!!」
ズコーーーッとトイレの個室内で派手にすっ転んだ陸は、ズボンを慌てて穿き直すと、顔面蒼白でアナウンス室へと猛ダッシュするのだった。
「……ところで美咲姉ちゃん、何か大事な用件を忘れてない?」
陸にそう言われ、ふと胸をよぎる嫌な予感……。
「あ、忘れてた。肝心のデカいメイドさんに会うの……完全忘れてたわ」
陸伝いに連絡をもらい、庭でずっと待機していたガリバラさんの存在を完全に失念していた美咲のつぶやきが、夕暮れのモールに虚しく響くのだった。




