第十四話 輪ちゃんの自宅・咲野ラボへ行こう
放課後の教室。
西日が差し込む窓際で、陸は隣の席に座る輪に尋ねた。
「ねえ、輪ちゃん。今日、ガリバラさんに翔太、素直くんと一緒に輪ちゃんの家に遊びに行くことに決まったけどさ……本当に行って大丈夫かな?」
すると輪は真顔でゴーグルを装着した。
「……肯定します。以前、『ガリバラ氏が人間サイズになれたらいいのに』『陸が、父が仕事で忙しくて、もっと一緒に過ごす時間が欲しい』と悩んでいたのを当機の音声ログが記録していました。本日はその解決策を提示する日です」
「えっ……僕の悩み、覚えててくれたんだ。……確かにうちの父さん、最近仕事でずっと忙しいけど……」
すると、前の席から翔太がガバッと振り返り、ニカッと笑った。
「なんだよ陸、水臭いじゃねぇか! 親父さんと過ごしたいなんて可愛い悩みじゃねぇかよ!」
「ふむ。天才発明家の解決策というのも興味深いね。ぜひ拝見させてもらおう」
アヒルTシャツの素直も、マイ水筒のストローをくわえながら穏やかに頷く。
「二人とも……いつの間に聞いてたんだよ」
こうして週末、陸たちは輪の案内のもと、ドタバタと彼女の家へと向かうことになったのだった。
日曜日──
陸、翔太、素直、そして10メートルのガリバラさん(※屋外待機仕様)を引き連れ、一行は街外れにある怪しげな「咲野研究室」の門の前に到着した。
「父、お客様です。入室を許可します」
輪が重い鉄の扉を開けると、中からはむせ返るような機械油の匂い。研究所の中央では、白衣姿のボサボサ頭の男がフラスコをシャカシャカと振りながら、狂気的な笑みを浮かべていた。
「おぉ、輪! よくぞ連れてきてくれた! 君が噂の陸くんだね!」
咲野博士はギラギラと目を輝かせ、陸の前にスタスタと歩み寄ってきた。
「は、はじめまして博士……。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
陸が一応の敬語で丁寧に頭を下げると、博士は満足そうに髭を撫でた。
「おぉ、礼儀正しいね! 素晴らしい! 私は愛と真理を追求する良心的な発明家・咲野博士だよ! ……さっそく輪から聞いていた君たちの悩みを解決しようじゃないか!」
博士はそう言うと、作業台の上に置いてあった奇妙な物体をドカンと持ち上げた。
「まずガリバラさんにはコレだ! これを装着すれば一時的にすっぽり人間サイズになれる。名付けて『人体縮小デバイス』だよ!」
——しかし、ラボの床にデカデカと鎮座していたそれは、どう見ても布面積が致命的に足りない、極限のハイレグ水着にしか見えなかった。
「……博士。まさか……私にその破廉恥な布切れを着けろと……そうおっしゃいますか……!?」
窓の外から、10メートルのガリバラさんが殺気立った巨大な拳を握り締め、ギギギと怒りに震えながら顔を突っ込んできた。
「ひっ! 目が据わってる!? や、やっぱりダメか……! ならば仕方ない、陸くん! 君の悩み解決に移ろう!」
「え、僕ですか? いや、待ってください」
動揺する陸の背後から、翔太が「おいおい陸、なんか嫌な予感がするぜ……!」とニヤニヤしながら一歩引く。
しかし、博士は問答無用で陸の腕を掴むと、部屋の奥にある「怪しげな近未来カプセル」の中へ勢いよく押し込んだ!
「ちょっ、博士!? 何す——」
【ガチャン! プシューーー!!】
「さあ起動だ! 陸くんのお父さんの身代わりになる『分身ロボット生成&変身システム』!!」
「待って待って、何が始まるのーーーっ!?」
カプセルの中から激しい光と煙が噴き出し、翔太と素直が「おいおい、大丈夫かよ……?」「すごいSF感だね」と固唾を飲んで見守る。
そして数秒後。
【ウィーーー……】と気怠い効果音とともに、カプセルの扉がゆっくりと開き——中から、なんとも言い難い姿の陸がフラフラと這い出てきた。
「はぁ、はぁ……いったい何を……」
……その姿を見た瞬間。
翔太は飲んでいたジュースを盛大に吹き出し、素直は持っていたマイ水筒を落としそうになった。
なんと……陸の元の服装は下着含めて全て消失し、代わりにフリルたっぷりの可愛らしい女性用ブラジャーとパンティ姿に! さらに目元にはバッチリとお化粧と口紅まで施されていたのだ。
「ぷっ……! おい陸、お前……! 最高に似合って……じゃなくて、どうしてそうなったんだよ!!」
翔太が腹を抱えて床を転げ回る。
「……いや、言葉を失うとはこのことだね。目のやり場に困る通り越して、芸術的なまでのカオスだよ」
素直も目のやり場に困っているのか、目を泳がせながら遠い目をしている。
対する陸は、自分の下着姿を見下ろして完全にフリーズしていたが、やがてプルプルと震えながら絶叫した。
「……あの、博士。冷静に聞いてください。それ、隣に立ってる『分身ロボット』だけで良くないですか!? 僕が女性用の下着姿でフルメイクまでして女装する意味……どこにありますか!?」
博士の隣では、陸の父親と瓜二つの分身ロボットが、ウィーンと無機質にうなずいている。
「いや……あのね、陸くん……」
咲野博士はさすがに気まずくなったのか、目をそらしながらボソッと告げる。
「実はそれ……『陸にどうしても可愛い女性下着を着せたい』という、娘(輪)の強い要望なんだよ……」
「白状したーーーっ!? 完全に輪ちゃんの個人的な趣味と欲望じゃないですかーーーっ!!」
陸が絶叫しながらガバッと振り返ると、当の輪は真顔のままスマホのカメラを構え、カシャカシャと連写の音を響かせていた。
「……陸。当機のメインカメラに、歴史的瞬間が記録されました。非常にブラボーです」
「ブラボーじゃないよ!! 撮影すんな! すぐにそのデータ消して服を返してよーーーっ!!」
ラボの中に翔太の爆笑と陸の悲痛な絶叫が響き渡り、平和な週末の空気は完全に崩壊していくのだった。




