054:悪因悪果
今から27年前。
大和帝国の初代皇帝・秋臣と、側室の間に為臣陛下の兄である健臣が誕生した。
側室との間の子供である為、皇位継承権は持っていないと周りから噂されていた。
それは真実とは異なる。
本当のところは、正室との間に正式な嫡男が生まれれば順位が下がるが皇位継承権は持っていた。
しかし期待されていなかったというのは確かである。
「見て見て、お父さん! こんなに上手くできたよ!」
「父上と呼びなさいと何回、言わせれば済むんだ。お前も皇位継承権を持っている皇族なんだぞ、そこを自覚しろと口を酸っぱく」
「ご ごめんなさい……」
正室は体が弱く直ぐには子供ができない体だった。
嫡男が生まれるまでの穴埋めのような役割が強くて、皇居内でも扱いは雑だ。
その割に秋臣陛下からは皇族としての振る舞いを、強く求められてたのである。
陛下と周りの対応のギャップに苦しんでいた。
しかしそんな健臣にも心の支えがあった。
それは母親の《央姫》である。
「お母さ……母上っ! これを見て下さい、上手くできたんですよ!」
「あらあら、こんなに上手にできたのねぇ。さすがは私の子供だわぁ! よくできました!」
皇居内で居心地の悪い健臣と同様に、央姫も後宮で女の戦いをしている。
そんな時に健臣を出産したので居心地が、今まで以上に悪くなってしまったのだ。
だから親子で支え合いながら生きていこうと誓った。
そんな矢先、健臣が9歳の誕生日を迎える10日前に央姫は何者かによって毒殺された。
「正室派の女官に殺されたって噂よ……」
「いやいや、自殺って話も聞いたわよ!」
央姫の死に関する噂が、女官たちの間で広まった。
自殺をしたんだというものもあれば、正室派の女官が殺したんじゃ無いかと。
真偽は定かでは無い。
しかし側室の死を周りに知られたく無いと、秋臣陛下は死を隠すように皇居と後宮内だけで情報は封殺された。
さらに央姫の死を忘れさせたいかのように、秋臣と正室の間に正式な嫡男が誕生した。
健臣が10歳の頃の話である。
ここから健臣への扱いは一段階、酷いものになる。
もう心の支えを無くした健臣は、皇居を抜け出しては野盗たちと共に東京府で暴れ回っていた。
皇族というのもあって対応が難しかったが、日本国が滅亡してから大和帝国が建国されたタイミングで、皇族へのイメージを改める為、健臣から皇位継承権を剥奪し石狩県の島家へと流罪同様の対応を行なう。
島家へとやって来た健臣の人生は、さらにここから急降下していく事となるのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝日砦の完成を知った健臣知事は、机の上の書類をドサッと地面に落とすほどに困惑している。
机の上から何もなくなったのを確認してからドンッと強く叩いて「ふざけるなぁ!」と叫ぶ。
このままでは大日皇和帝国が攻め込んで来て詰む。
そうなれば健臣が持っている全てが崩壊し、本当の意味で何もかもを失ってしまう。
それだけは絶対に避けなければいけない。
強く、強く焦りを感じている。
「まだか! 雨林は、まだ来ぬのか!」
「は はぁ……相当、苦戦されていると思われます」
「何をそんなに落ち着いている! アイツが兵を連れて来なければ、我らは死ぬ事になるんだぞ!」
本当に雨林が兵士を連れて来なければ、石狩県は帝国に蹂躙され敗北する事になる。
そして健臣知事は実の弟に敗北し、処刑されるという拭っても拭いきれない汚名を記す事になってしまう。
絶対に避けなければいけない。
どうにか、どうにか早く兵を挙げて仕掛けたい。
先手を取れば難攻不落の朝日砦と言えども、有利に運ぶはずだと健臣は考えている。
すると石狩城の兵士が走ってやって来る。
その兵士は「報告! 報告!」と急いでいる。
状況が分かっていないので、もしかしたら帝国軍が攻め込んで来たかもしれないと「どうした!?」と叫ぶ。
「う 雨林さまが、総勢2万5000の軍を引き連れ戻って参りました!」
「なんだと!? そ それは本当か!」
「はい! これならば帝国を任せられると思います!」
もう絶望すら感じていた健臣知事だったが、兵士の報告を聞いて地獄から一変して天国へと変わった。
雨林副知事は見事にやり遂げたのだ。
石狩県の反対していた郡から2万5000の兵を集めて県都へと帰還してくれたのだ。
これ以上に嬉しい事は無い。
2万5000も居れば、大日皇和帝国との戦いに不利にはならないだろうと安堵する。
人生で1番のガッツポーズを見せた。
そして直ぐに雨林を呼べと指示を出し、この部屋に雨林を来させるのである。
「健臣さま、遅くなってしまい申し訳ありません。どうにか、ここまでの兵を集める事ができました」
「本当に遅いだろうが! どれだけの時間がかかれば気が済むんだ! お前を副知事に起用したのは失敗したかもしれないな……だが今回だけは許してやろう。このまま2万5000の兵を引き連れて富良野平野に向かえ!」
「はは、承知いたしました」
雨林副知事は膝を着き、頭を下げながら遅くなった事を健臣知事に謝罪した。
さっきまで喜んで居たのに、健臣は雨林の頭を叩いた。
頑張って来た人間に対して、こんな対応なのかと周りで見ている人間は思うだろう。
さらには直ぐに出発しろと言って来た。
普通ならば今日のところは休憩を挟み、明日の早朝に出陣するのが当たり前なはずである。
暴君ぶりを大いに披露している。
だが雨林は文句を言わず、分かったと言って直ぐに出陣準備を開始した。
なんとなく分かっていたのかもしれない。
「それでは健臣さま、私はこの軍を率いて富良野平野へと侵攻いたします。必ずや、勝利を収めてみせますゆえ、安心してお待ち下さい」
「あぁお前には期待しているぞ、さっさと帝国を負かして朝日砦を我が物にしろ! さぁさっさと行って来い!」
本当に送り出すつもりはあるのかと、そう感じさせるような言い草である。
期待しているとか薄っぺらい言葉を重ね、雨林副知事に危険な仕事を押し付けた。
なんなら帝国を蹴散らし、朝日砦を自分の物にしようと感構えているみたいだ。
都合が良さそうだと誰もが思った。
しかし口にする事なく、雨林は「行って参ります!」と言葉を残し進軍を開始する。
これだけの兵を引き連れていくのだから、きっと為臣陛下の首を持って来るだろうと楽観視している。
だが健臣知事が絶望するのは、ここからだ。
14日後に健臣の元を早馬でやって来た伝令兵がやって来るのである。
伝令兵の顔は青ざめていた。
見るからに最悪な知らせをしに来たのが、健臣も理解できるほどに青ざめている。
聞くのが恐ろしいが健臣は「ど どうした?」と声を震わせながら報告を聞く。
「む 謀反です! 雨林さまが、ご謀反にございます!」
「な なんだと!? 雨林が謀反だと!?」
伝令兵の口から出たのは驚きのものである。
帝国軍を討伐する為に向かったはずの雨林軍が、まさかの謀反を起こしたのだ。
信頼していた男に謀反を起こされた健臣知事は、両手を机に置いて顔をガクッと項垂れている。
どうしてこんな事になったのか。
状況を理解しようとするが、どうにも頭が働かない。
雨林、謀反という2つの単語に健臣の頭の中はグルグルグルグルッと回っている。




