049:美瑛の戦い
大日皇和帝国は相手に弱いと思わせる為、数を1万4000から相手と同数の7000にまで減らす。
そしてさらに弱く見せる為、丘の下の低地に陣を張る。
7000のうち3000を前衛として前に出した。
この前衛を波慈明中佐に率いさせる。
1万を超える大軍だと思っていた美瑛の人間たちからしたら、嬉しい誤算だと思っていた。
しかも敵は丘の下に陣を張っているのならば、明らかにこちら側が有利だと美瑛軍は丘の上に陣を張った。
「為臣さま、当初の予定通り、美瑛軍は丘の上に布陣いたしました。いつでも行けます」
「そうか、分かった。それにしてもここまで無警戒だと、逆に何かありそうで不気味だな」
「どうしますか、このまま作戦を実行しますか? それとも作戦を変更いたしますか?」
「いや、このまま行こうか。幸政の作戦を信用しているからな、とりあえずはこのまま行く。波慈明に合図を出せ、石狩との戦いを始める!」
美瑛軍が丘の上に陣を張ったと戸谷宰相から聞いた為臣陛下は、ここまで上手くいきすぎて不気味だと考える。
陛下が違和感を感じているなら作戦を変えるかと、戸谷は作戦変更を提案した。
しかしここに来て幸政総司令官の作戦を変える方がリスクが高いと思って、陛下は作戦の続行を判断。
床几から立ち上がる。
直ちに前衛を率いる波慈明中佐に、開戦の合図を出せと陛下は戸谷に指示を出す。
戸谷は「はい!」と返事をしてから本陣にいる太鼓打の人間を見て、小さく「うん」と頷いて合図を出した。
太鼓打はゆっくりとドンドンッと鳴らし始め、次第にスピードを上げドドドドッと激しく鳴らす。
「為臣さまからの合図だな。お前たち! 戦いの準備はできているか!」
『おぉおおおお!!!!!』
「陛下の為に、帝国の為に石狩県を蹴散らすぞ!」
『おぉおおおお!!!!!』
「突撃だぁああああ!!!!!』
波慈明中佐は前衛の兵士たちの士気を高めさせ、敵に向かって突撃を開始した。
美瑛軍も帝国軍の突撃を見て突撃を始める。
帝国軍は丘を駆け上がり、美瑛軍は丘を駆け下っているので丘の中腹より下で両軍がカチあった。
やはり立地の差はあるらしい。
特攻隊長として、かなりの力を持っている波慈明がカチあった瞬間、後方に少し下がらざるを得なかった。
「どうした、お前たち! 俺たちの力は、こんなもんじゃ無いだろ!」
『おぉおおおお!!!!!』
波慈明中佐は必死に、こんなもんじゃ無いだろうと叫びながら目の前の敵兵を斬り伏せる。
帝国兵も波慈明に負けぬよう奮戦する。
しかし戦いの状況は帝国側が劣勢に立たされていた。
40分近くも粘ったのだが、もう限界であると波慈明は周りをキョロキョロし波慈明隊の副長と目を合わせて「うん」と頷いてから叫ぶ。
「撤退だ、下がるぞ! 殿は俺が務める、戦いながら後方に下がれ!」
波慈明中佐は全体に向かって、撤退するから戦いながら後方に下がれと指示を出す。
よくもここまで耐えたものである。
波慈明が撤退だと指示を出したのを聞いた前線の指揮官は、ニヤッと不敵に笑う。
無理だと思っていた敵に勝利目前まで来ている。
このまま行けば為臣陛下の首まで、もしかしたら取れるかとしれないと思っているのだ。
「これは好機である! 奴らの背を討ち、そのまま為臣の首を討ち取ってしまえ!」
『おぉおおお!!!!』
指揮官は好機を逃すわけにはいかないと、全体に対し帝国軍の背中を討つように指示を出した。
この中に1人でも怪しいと思える人間が居たならば、この後の崩壊は免られたのかもしれない。
言わずもがな、この撤退は偽造撤退である。
相手を油断させ目的の場所まで誘導するのだ。
その為、帝国側が混乱しているのだと思い込ませるように、火を焚いて煙を出したりして演出する。
まんまと美瑛軍は引っかかった。
美瑛軍は帝国軍の演技とは知らず、ドンドン深追いしていくのである。
波慈明中佐たちは、為臣陛下が控えている本陣に到着しようとしていた。
そんなタイミングで左右の丘の向こうから相馬知事と是乃が率いる各4000の軍が現れた。
完全な挟撃だ。
敗走していたはずの波慈明中佐たちは向きを変える。
それは後ろを向いていたのを、クルッと反転して美瑛軍の方を向くのである。
左右で挟み込まれ、正面には本当の力を発揮して来る波慈明たちがいる。
しかし既に深くまで入り込んでしまっていた。
もう美瑛軍は逃げられない。
「為臣さま、そろそろ決着がつきそうですね」
「あぁ被害は最小限に抑えられているか?」
「はい! この流れでしたら数十の被害だけで済みそうですので、最小限も最小限だと思います!」
「そうか、さすがは幸政の作戦だな。後詰めも、しっかりと気を抜かずにやり切れ」
「はは! 声かけさせます!」
戸谷宰相は為臣陛下の耳元で、戦がそろそろ終盤に差し掛かった事を伝える。
腕を組みながら床几に座っている姿は10歳に見えず、かなりの修羅場を潜り抜けている武将の姿だ。
そして何よりも気にしているのは被害の数である。
どこまで被害が出たのかを戸谷に聞く。
作戦の成功度合いと、戦っている時間からして最低限も最低限に抑えられているだろうと報告する。
それなら良いと陛下は満足そうな顔をした。
勝ち戦だとしても陛下は、勝鬨を上げるところまで気を抜かないように伝えろと戸谷にいう。
この時点で既に雌雄は決していた。
あとはどれくらいの時間で、完全に美瑛軍が崩壊するかというレベルである。
もはや取り返しがつかないところまで来ているので降伏する者もいれば、なんとか帝国軍の包囲網を突破して命からがら敗走する者も現れた。
敗走する人間は無理に追うなと指示を出しているので、逃げていった者たちに目をくれず、まだ戦う意思がある人間と戦闘を繰り広げる。
しかしここまで来たら限界があった。
最後まで武器を持っていた者も、ガクッと両膝が地面に崩れ落ちて、全員を失うのである。
「為臣さま、決着がついたようです」
「そうか、3時間半くらいか? 想定していたよりも、遥かに早く決着がついたな」
本陣のところまで前線での「えいえいおー」という勝鬨が聞こえて来て、決着がついた事を為臣陛下は理解する。
半日以上の戦いを覚悟していた陛下だったが、3時間半という短い時間に感動すら覚えていた。
「降伏した者たちには手を出すな! 捕虜として連行したのち、新たな兵として軍に組み込む!」
「はは! 承知いたしました!」
為臣陛下は早速、戦後処理をするように指示する。
素直に降伏した人間たちへの暴行は許可せず、捕虜として捕縛し連行してから、後に新たな兵として帝国軍に組み込むようにと言った。
そして「美瑛城に入城する!」と丈二たち、近衞団を引き連れ美瑛城に入場した。
帝国軍と美瑛軍との戦いの結果は、直ちに胆振県・天塩県に知らされると同時に健臣知事の耳にも入る。
いよいよ戦いが始まったという事だが、たったの3時間半で前線を突破された事への怒りを健臣は感じた。
「ふざけるな! 美瑛軍は何をやっているんだ!」
「健臣さま! 報告いたします、美瑛軍を突破した帝国軍は、そのまま富良野に進軍いたしました!」
「富良野だと? なぜ富良野のに!」
「富良野の地で要塞の建築を始めたとの事です!」
健臣知事の耳に、また別の情報が入る。
それは美瑛軍を突破した帝国軍は、県都である石狩に進軍するのではなく南にある富良野へと侵攻した。
どうして富良野に侵攻したのか。
帝国軍は富良野の地で、最前線の要塞の建築を始めたと言うのである。
こんな侮辱は無い。
またまた健臣知事は怒り心頭である。




