045:新たな人材を
為臣陛下は道東を平定し、少しは休めるかと思った。
だが戦いを終えても陛下としての仕事は忙しく、冬の間の食糧の備蓄などの管理をするので忙しい。
文官たちに補佐をして貰いながら仕事を進める。
「こっちの備蓄量で足りるのか?」
「はい、これくらいなら問題ありません。去年の数値を参考にしたら……これくらいは余裕があるかと」
「そうか、俺はまだ政治に関して未熟だ。その上で、こんなにも雪深いところでの政治となったら、尚更に難しい」
普通の国の運営に関しても未熟なのに、こんなにも雪が多いところでの政治となると、さらに不慣れである。
だから文官の手を借りながら少しづつ行なっていく。
去年の資料を元に、今年の計算を割り出したり10歳がやるには難し過ぎる。
もう手一杯になりそうなタイミングで、道東平定に各地を回っていた戸谷宰相が帰って来た。
「戸谷っ! お前が帰って来るのを待ってたぞ!」
「はは! 陛下に、そこまで仰って貰えるなんて……ここからは私にお任せ下さい!」
「休まなくて良いのか? 巡行して帰って来たばかりだ、疲れてるんじゃ無いのか?」
「陛下! 私は陛下の為に、身を粉にして頑張りたいのです! これくらいの仕事など、目を瞑っていてもできますゆえ心配はご無用です!」
この地を元々統治していた戸谷宰相が帰って来るのは、為臣陛下にとって計り知れない戦力の到着だ。
救世主にすら思えただろう。
そして戸谷にとっても陛下が、ここまで必要にしてくれているのは嬉し過ぎる事である。
巡行から帰って来たばかりでも仕事に取り掛かる。
少し体力的にも心配していた陛下だったが、目にも止まらぬ早さで書類をまとめ上げていく。
まさかここまでとは陛下も思っていなかった。
「とりあえずは終わりました! これくらいの備蓄があれば問題ないかと思いますがぁ……」
「が、なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「問題っていう問題じゃないんですが。ここから先もっと兵糧を集める為でしたら、それなりの人材を集めた方が良いのでは無いかと思いまして」
「それなりの人材? 戸谷、お前じゃダメなのか?」
「いやぁ、私も自分にできる事でしたら身命を賭してやるつもりではありますが……それ以上となりますと、この国には専門家がおりません。農官はおりますが、私の知識を少し上回るレベルかと」
今のままなら戸谷宰相が、備蓄の運用などをやるのに不都合な事は無い。
だがこれから戦いが増える事は予想できる。
そうなれば今の兵糧では足りない可能性が十分ある。
しかし戸谷は今のを運用する能力はあるが、今からさらに兵糧を増やす知識と技術は持っていない。
もちろん帝国内に農官は多くいる。
農官ならば確かに戸谷よりも農業に関する知恵はある。
それでも戸谷よりも少しだけ知恵があるだけで、兵糧を増やし運用する知恵は持っていないだろう。
どうにか人材を集めたいと戸谷は為臣陛下に進言する。
「確かに戸谷の言う通りだな、兵糧を増やす為にも新たな人材が必要だな……誰か良い人材は知らないか?」
「そうですねぇ。良い人材となれば 、もう他のところに属しているかと思いますが」
「そうか、そうだよなぁ。そりゃあ優秀な人材なら権力者が、手放したく無いはずだよな」
戸谷宰相の考えが理解した為臣陛下は、誰か良い人材は知らないのかと聞いた。
冷静に考えてみれば優秀な人材ならば、もう既にどこかの権力者に囲われているはず。
そうなれば権力者は手放したく無いだろう。
どうしたものかと2人は「う〜ん」と唸り考える。
すると戸谷が「あっ!」と手を叩いて、何かを思い出したようで陛下は「何か思いついたか!」と聞く。
「いや、上手くいくか分からないんですけど……」
「そんなの良いからアイデアを聞かせてくれ! どんな些細な事でも、俺たちにとっては重要な話だ!」
「そうでしたら、1人だけ心当たりがありまして。その男は元々、大和帝国で農林大臣まで行った男です。しかし人付き合いが苦手で、上の人間と揉めて十勝県にまで飛ばされてしまったんです」
戸谷宰相が思い付いたのは、この地に左遷されたも同義の人間についてだった。
最大農林大臣にまで登り詰めた優秀な男。
しかし人間付き合いが、あまりにも苦手で権力者から嫌われ十勝県まで飛ばされてしまったのである。
そんな優秀な人間がいるのかと為臣陛下は喜ぶ。
だが冷静になって、十勝県に囲われているんじゃ無いのかというところが気になった。
「そうなんです、そこなんですよ。人材としては優秀で、十勝県知事である相馬が囲んでいるんです。だからどうにかして手に入れたいんですが……」
「確かに戸谷が言うのだから優秀な人材なのだろう。ならば戦争をしてでも手に入れる価値がある。まぁそれでも穏便に済むのならば穏便に済ませたいな」
「ならば私に考えがあります。十勝県の文官に賄賂を渡し話し合いの席に着かせるというのは如何でしょうか?」
「それは良いアイデアだ、向こうも戦中で金が入り用になっているところだろう。この話には食いつくはずだ」
どうにか手に入れたいと言う戸谷宰相を見て、為臣陛下は戦争をしてでも手に入れたいと言った。
だができる事なら穏便に済ませたい。
穏便に済ませるならば文官に賄賂を渡す提案を、戸谷は提案するのである。
向こうは戦争中で金が大量に必要。
そんな中で話し合いをしたいと言って、金を渡して来たら必ず引き受けてくれるだろうと陛下は確信する。
それで行こうと陛下は、戸谷の案を承認した。
善は急げというので、とりあえず話を聞きそうな人間に接触するよう指示を出す。
すると予想外な事が起きた。
戸谷宰相が十勝県の文官に接触しようとしていたタイミングで、十勝県からの接触があった。
「為臣陛下、御目通りお許しいただきありがとうございます!」
「気にする事はない、貴殿らには興味を持っていた」
「そう言って頂き光栄でございます!」
使者は為臣陛下に対し、低く低く平伏して挨拶する。
これを見ただけでも、今の十勝県と大日皇和帝国の力関係が分かりやすく見えている。
為臣陛下は、タダの謁見だとは思っていない。
向かい合っている今も剣と剣が喉元に突きつけあっているようなものである。
「それで知事の相馬殿は、何用で貴殿を遣わせた?」
「陛下にお頼み申し上げたい事がございます!」
「頼みたい事? どんな事だ?」
使者は為臣陛下に、相馬知事から頼まれごとを受けてやって来たと話す。
どんな話かと落ち着いたトーンで聞く。
詳しい話をする為に、使者はスッと顔を上げて陛下の顔を見上げるのである。
「石狩県との戦に、お力をお借りしたいのです! もちろんタダで援軍を出して欲しいというわけでは決してありません! この石狩県との戦が終わった暁には、十勝県の領地と民は帝国にお渡しいたします」
使者がやって来た理由は、石狩県との戦いがピンチになって来たから手を貸して欲しいという事だ。
タダで力を貸して欲しいと言ってるわけでは無い。
石狩県との戦いが終わった暁には、十勝県の全ての領地と民を無条件で譲ると宣言した。
いきなりの話で為臣陛下の眉がピクッと動く。
そして隣に立っている戸谷宰相の方を、目だけを動かして見るのである。
戸谷は小さく「うん」と頷く。
陛下は十勝県の頼みを聞く事にした。
しかし詳しい話は相馬知事と直接話したいから、また別日に正式な話し合いをしようと使者を帰した。




