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044:道東平定

 為臣陛下は今回の戦犯である榎本知事の嫡男《榎本 義楼》を、正式に近衞団の団員に任命した。

 罪人の息子を陛下の最も近いところに。

 まさかそんな対応をして貰えるなんて榎本親子は思っておらず、深々と頭を下げて感謝を伝える。

 嬉しそうにしている親子を見た陛下は微笑む。

 そして椅子から立ち上がる。



「榎本知事の切腹の日時に関しては、明日の正午に執り行う。それまで牢に入ってて貰うが……まぁ最後くらい親子で話をさせてやっても良いんじゃないか? なぁ戸谷」


「はは! 見張りを付けるという条件でしたら、問題ないかと」


「そういう事だ、何か2人で話してみよ。俺のように死んでからでは話せない事もあるだろうからな」



 為臣陛下は切腹の日時を、明日のお昼に決めた。

 それまで時間があるから親子で、何か人生の最後について話せば良いと言う。

 戸谷宰相にも確認を取る。

 見張り付きなら問題ないと言ってくれて、2人はさらに陛下に感謝を申し上げた。

 終始、優しい笑みを浮かべながら陛下は廊下に出る。

 自室で休む為だ。



「陛下、さすがに近衞団に入れるのは危険かと……少し距離を置いた方が良いのでは?」


「確かにな、戸谷の言う事も理解できる。しかし俺の主義じゃないんだよ」


「しゅ 主義じゃないですか?」


「あぁ危険な人間ほど、近くに置いて監視した方が何かと都合が良いからな。とにかく丈二にも、この事をしっかりと伝えておいてくれ」



 為臣陛下は10歳だというのに、己の信念に沿った主義というのを持っていた。

 今回の事もそうだ。

 普通なら謀反の危険性がある人間は遠くにおくべき。

 しかし陛下は危険であるからこそ、身近なところに置いて些細な変化も見逃さないようにしたいのである。

 この考えに戸谷宰相は感銘を受けた。


 そして翌日の正午、榎本知事は為臣陛下たちが見つめる中で見事な切腹を行なった。

 榎本の死去で北見県の完全な敗北が決まる。

 皇和暦1年(西暦2118年)11月3日。

 大和帝国列伝によれば為臣陛下が率いる大日皇和帝国は道東攻略を開始し、わずか約2ヶ月という異例の早さで道東を完全に平定したとされる。


 北見県の陥落や大日皇和帝国の道東平定の知らせは、瞬く間に北海道地方全土に知らされた。

 もちろん今も戦っている石狩県の知事《(しま) 石狩守 健臣(たけおみ)》のところにも知らされる。



「何だと? もう北見は落ちたのか?」


「はは! 想定よりも遥かに早い決着でして……榎本知事も籠城に持ち込もうとしたのですが」


「力負けしたというわけか。さすがはこの時代に新たな国を作るようなガキのやる事だ」


「どうしますか?」


「どうするもこうするもあるか。こうなったら、三国との戦いに集中するだけだ」



 健臣知事は、こんなにも早い決着に驚いている。

 しかし驚いていたのは数秒間だけで、またスッと表情を戻すと道東戦争に関する話を止めた。

 いきなり話が終わったので、部下は困惑し北見県への対応はどうするべきかと改めて質問する。

 その話かと言わんばかりに嫌そうな表情をしてから、終わった戦いに踏み入るつもりは無いと断言した。

 今は三国との戦いに集中した方が良いという事だ。


 道東戦争が終わった為臣陛下は、北見県への細かい平定に関しては戸谷宰相に任せて帰国する。

 冬になって雪が降る前に自国に帰りたかったのだ。

 完全に気を抜く事はできないが、雪が降れば大軍を派遣するのは難しいので、戦争を仕掛けられる事はまず無いと言っても過言では無い。

 つまり冬の間は自国の地盤を固めるのが最優先だ。



「太陽殿、今回は留守を守って頂き感謝する! 貴殿がいるから安心して攻略できた!」


「はははは、こんなにも早く攻略してくるとは思わなかったぞ! さすがは為臣殿だ」



 為臣陛下は帰るなり、真っ直ぐ帝都を守ってくれたカムイリアンの国王である太陽のところに向かった。

 ここまで安心して北見侵攻が行なえたのは、誰が見ても太陽が帝都の守備を引き受けてくれたからである。

 感謝の気持ちを伝えた。

 こんなに早く平定できるなんて面白いと太陽は笑う。



「それじゃあ我々は村に一旦帰らせて貰うよ。さすがに帰らなければ、村の人間たちがうるさいからね」


「そうか、了解した! 本当に感謝する、改めて金物と食料を村に送らせて貰うよ」


「あぁそうしてくれれば有難い。それじゃあ我々は、これで失礼するよ」



 為臣陛下は口だけのお礼だけではなく、金品や食料を改めてカムイリアンの村まで送ると約束した。

 それは有難いと太陽はニカッと笑ってからカムイリアン軍と共に、村へと帰って行ったのである。

 太陽たちを見送った陛下は政務室に戻った。

 そして政務室に数人の人間を呼ぶ。

 呼んだ人間は丈二・義楼・波慈明の3名。



「堅苦しい話では無いが、3人には改めて話をしておかなければと思ってな。まずは丈二だが、正式に義楼を近衞団に入隊させる事が決まった。腕も志も十二分に素晴らしい男だ、お前の下でさらに良い侍にしてやれ」


「はは! 承知いたしました!」


「そして波慈明だが、今回の戦いでは臨時の中佐だったよな? 今から正式な中佐に任命する」


「あ ありがたき幸せ!」



 義楼を正式に近衞団に入隊させ、臨時中佐だった波慈明を正式に中佐に任命した。



「2人とも高い役職に就いたとはいえども、その地位に胡座をかく事なく頑張るように」


『はは! 承知いたしました!』



 高い役職に就かせたので、そこであぐらをかかれてしまっては為臣陛下として困る。

 なので釘を刺すように頑張れと言葉にした。

 2人は深々と頭を下げ、希望に満ちた顔をしているので役職にあぐらをかく事は無いだろうと感じる。

 これで為臣陛下ができる戦後処理は終了した。

 そして大日皇和帝国にとって初めての冬を迎える。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 大国・石狩県と戦をしている三国の1つ十勝県。

 この十勝県は戦争真っ只中ではあるが、大日皇和帝国のように冬を迎え一時撤退を余儀なくされていた。

 それは雪が降ると撤退も援軍を向かわせる事も実質的に不可能となってしまう。

 しかしこれは十勝県にとっては嬉しいものだ。

 戦況が次第に悪化していたからである。



「相馬さま、そろそろ厳しくなって来ました。何か手を打たなければ数年のうちに、十勝県は石狩県に落とされてしまいます!」


「そんなのは分かっている! 孤軍で勝つのは難しくなって来たのは、この私も理解している!」



 十勝知事である《相馬(そうま) 十勝守 秀兵(しゅうへい)》は、部下から石狩県との戦いに限界が迎えようとしているという事を伝えられる。

 そんな事は指揮をとっている相馬知事が最も理解している為、少しイライラをぶつけてしまった。

 しかし直ぐに落ち着いて「すまない」と謝罪した。

 部下は「いえいえ」という感じで、逆に申し訳なさそうな顔をして黙ってしまう。



「まぁとにかく打開策を考えなければいけないのは確かだな、何か良い案はあるか?」


「強いて言わせて頂くのでしたら……大日皇和帝国を頼るのはいかがでしょうか?」


「為臣殿下のところか。確かに北見県と根室県を、たったの3ヶ月で打ち負かし道東を平定なさった。噂によれば凶悪なカムイリアンとも手を取り合っているという……その案はあながち悪いものでは無さそうだな」



 相馬知事は何か良い案を求め、帰って来たのは大日皇和帝国を頼るというものだった。

 確かに面白いと相馬も案として認める。

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