043:優秀ならば用いる
西門を担当している戸谷宰相の機転により、攻めづらかった西門を撃破する事ができた。
3つあるうちの1つの門が開けられる。
他のところはギリギリで均衡が保たれていたが、1箇所が崩壊したタイミングで、他の2つのところに戸谷隊の兵士たちが流れ込んでいく。
猿払城は必死になって争ったが、やはり数の暴力という強大な力に仕切られてしまう。
「知事の榎本を探し出せ! 陛下からのお達しで、榎本はできる限り生け捕りにしろとの事だ!」
さすがに負けを悟った猿払城の北見兵たちは、素直に武器を捨てて帝国に投降した。
こうなれば残るは戦後処理であり、帝国にとっての戦犯である榎本知事を捕まえなければいけない。
戦場にいなかったという事は逃げているのか、それともどこかに隠れている可能性が高い。
必死になって榎本を探し回る。
しかしどこにも榎本の姿が見つからない。
「こっちにもいません! 榎本は、どこに隠れているんでしょうか……」
「下の人間たちを置いて、自らだけが逃げるなんてあり得ないな。この城の図面を持って来い! その図面と実際の城を照らし合わせ、隠し部屋が無いかを探せ!」
為臣陛下のところに戸谷宰相がやって来て、榎本知事の姿が見つからないと報告する。
隠れるのが上手いらしく、陛下は ただかくれんぼの鬼をやるつもりは無いらしい。
猿払城の図面を持ってくるように指示を出した。
図面と実際の城を照らし合わせる。
そこで変なところがあったりしないかを確認し、隠れている可能性がある場所を炙り出そうと言うのだ。
戸谷は指示されたように、猿払城の図面を持ってくる。
そして部下と共に、城の中に入っておかしなところは無いかと照らし合わせていく。
「戸谷さま! ここの空間が怪しいです!」
「ここの空間? どうおかしいんだ?」
「この地図だと、もっと壁が奥にあるはずなんですよ」
「つまりここの空間に秘密の部屋があるっていう事か。ここの壁を壊してみろ!」
「はい!」
戸谷宰相の部下が、猿払城の図面と実際の場所を照らし合わせてみたのである。
するとある場所がおかしい事に気がついた。
それは図面には無いはずの空間が、この場所にはあると戸谷は報告を受ける。
確かにおかしいと戸谷も気がつく。
部下に急いで壁を壊すように指示を出し、その指示通りに怪しい壁にハンマーを入れる。
戸谷たちの予想通りに謎の空間があった。
そしてその空間の奥に身を小さくしている榎本知事を発見したのである。
「榎本だな? 抵抗するなよ、素直に投降しろ」
「ここまでか……くそ!」
榎本知事である事を確認した戸谷宰相は、抵抗せずに投降するように促した。
もう自分の最後を悟った榎本は舌打ちをして諦める。
スッと立ち上がった榎本は、ゆっくりと空けられた穴の方に向かって歩き出す。
戸谷の部下は刀を構えて、一応の警戒をする。
しかし榎本は既に諦めているというのもあるが、何よりもここで抵抗しても生き残るのは不可能だと考えている。
手を縄で縛られた榎本は、戸谷の指示に従って為臣陛下のいる御殿に連行された。
「お前が、榎本だな?」
「はは、私が榎本です……」
「貴殿には申し訳ないが、こうなってしまっては死罪以外を言い渡すわけにはいかない。そこのところを理解して貰えるだろうか? 貴殿の今までの功績を鑑みて死罪は、斬首ではなく切腹を命じる」
「はは、陛下のお気持ち嬉しく思います……しかし1つだけお願い申し上げたい事がございます。申してもよろしいでしょうか?」
目の前にやって来た榎本知事に為臣陛下は、今回の戦争の首謀者である榎本を死罪以外にする事が難しいと諭す。
もちろんこんな事をやっておいて、生き延びれるなんて考えているほど、榎本は馬鹿では無い。
素直に死罪を受け入れた榎本に、陛下は最大限の恩賞を与える事を決めたのである。
それは斬首ではなく切腹を命じたのだ。
まさか斬首から切腹に変わるとは思っていなかった。
その為、榎本は頭を下げて切腹を命じてくれた陛下に感謝を全力で伝えるのである。
しかし榎本は1つ頼みたい事があると言って来た。
榎本の態度に戸谷宰相は、イラッとして「何様だ!」と頼み事なんてできる立場じゃないと叱責する。
だが戸谷を陛下が宥めて頼みを聞く事にした。
「なんだ、俺のできる事なら情けで聞いてやるぞ?」
「どうか! 今回の件に関しましては、私の首1つだけで許しては貰えないでしょうか! 民や家族の処刑は、どうにか免除していただけませんでしょうか!」
為臣陛下は自分のできる範囲で、命乞いなどの帝国法に違反しない事ならば聞くと言った。
そこで榎本知事が陛下に頼んだのは、自分以外の北見県の人間の命を保障して欲しいというものだった。
最後の最後に頼み事として命乞いではなく、民の命を保障して欲しいという事に陛下は感服する。
「それは素晴らしい事だ! 貴殿の上に立つ者としての素晴らしい姿勢に免じ、貴殿以外の北見県人に手を出す事を皇帝の名において約束しよう!」
「はは! ありがとうございます……」
「そうだ! ここに榎本の息子を連れて来い」
榎本知事の上に立つ者としての姿勢に免じ、今回の戦において榎本と数名の指揮官以外には処罰はしないと誓う。
そして為臣陛下は、何かを思いついたように榎本の息子を御殿に連れてくるよう指示をした。
指示通りに榎本家の嫡男《榎本 義楼》が陛下の前にやって来るのである。
「為臣陛下、お初にお目にかかります! 榎本家が嫡男《榎本 義楼)と申します!」
「其方が義楼か! よくぞ、参ったな。父親の処罰については聞いているか?」
「はは、承知しております! 父とて武士の端くれですので、負けた時にこうなる事は理解していると思います。もちろん我々も同じであります」
「そうか、其方は良い武士道を持っているみたいだな」
義楼は自分の父親が切腹を命じられても、顔色1つ変える事なく武士の定めであると受け入れた。
その姿勢に為臣陛下は感心する。
「其方の武士道に惚れた! 其方には、これから俺の近衞団に入って護衛をしてくれ!」
「わ 私がですか!?」
「あぁ義楼が良ければだがな」
「それは誉な事ではありますが……失礼ながら陛下は、不安では無いのでしょうか?」
「何が不安だというのだ?」
為臣陛下は正式に義楼を、丈二が団長を務める近衞団に入隊するようスカウトした。
まさか自分が選ばれるとは思ってはいなかった。
疑問に思ったので驚きながら、自分を選んだ事に不安は無いのかと質問をする。
ケロッとした表情で陛下は、何が不安なのかと聞く。
「死罪にした人間の子供を、近くに置いて復讐されるとは思わないのでしょうか?」
「ん? そんなのにビビっていたら、優秀な人材を登用できなくなるだろ? 俺は敵だった人間だろうが、裏切らない限りは優秀な人間を登用する。其方にも近衞団の人間としての活躍を期待するぞ!」
「はは! 陛下のご期待に応えられるよう精進いたしますゆえ、よろしくお願いいたします!」
為臣陛下は裏切られる事を最も嫌っているが、それと同じくらいに嫌いな事がある。
優秀な人間を飼い殺しにする事だ。
今回の件も同じであると断言した。
そこまで言って貰えるとは思っていなかった義楼と榎本知事は頭を下げて感謝を伝える。




