042:鳴り響く轟音
自室のベッドで榎本知事は、スヤスヤと安心した様子で睡眠をとっている。
シーンと榎本の寝息だけが響いていた。
そんな静寂の部屋に、扉のノック音がけたたましく響き渡った。
いきなりのノック音に榎本は「な なんだ!?」と上半身を起き上がらせて周りをキョロキョロする。
音の正体がノック音であると気がつくと拍子抜けした。
バタンッとベットに仰向けに倒れると「どうした?」と機嫌が悪そうに用件を聞く。
「失礼致します! 窓のお外を、お確認ください!」
「なんだ、窓の外に何がある? たく、こんな朝早くから来やがって……な ななに!?」
側近に外を見るように言われた榎本知事は、ベットから起き上がると窓の方に歩く。
欠伸をしながら気だるそうにだ。
何があるのかと思いながらカーテンをパッと、左右に開くと激しい光が目に入って来る。
最初は眩しくて何も見えなかった。
だが目が慣れると外の様子が目に入る。
そこには為臣陛下が率いる2500強の兵士たちが、猿払城の周りを取り囲んでいたのである。
計算して想定していた日よりも遥かに早い到着だ。
「な 何がどうなって帝国が布陣しているのだ!」
「は! 報告によりますと、全体の半分を先に進軍させ、残りの為臣陛下が率いる本隊が遅れて進軍を開始させたとの事です!」
「それで進軍の足を早めたというのか……籠城の準備は整っているんだろうな!」
「100%ではありませんが、3ヶ月ほどの籠城ならば問題は無いかと!」
為臣陛下たちは全軍の半分を本隊よりも先に出発させ、残りの本隊は予定通りに枝幸城を出た。
これにより進軍の足が遅れる事なく、予定よりも数日早く到着する事ができたのである。
まだ猿払城は100%の準備はできていない。
しかしこうなったら、そんな事も言ってはいられない。
数ヶ月の籠城が行なえるのならば、もう門を固く閉めて閉じこもる選択を榎本知事は取った。
猿払城を取り囲んでいる帝国軍は、ジッと城の方を向いて士気を高めている。
そんな中で全軍の先頭に、一騎の騎馬がやって来る。
どこの誰だろうと思ったら、それは枝幸城で帝国軍に降った武将《岩本 波慈目》臨時中佐だった。
波慈目は今回の戦いで指揮官が少ないが故に、臨時の中佐を任されたのである。
そして今回の1番槍の任を貰う。
「我らは栄光ある大日皇和帝国の戦士である! 目の前にいるのは愚かにも陛下には向かい、籠城という最も愚かな判断を行なった人間たちである!」
『おぉおおおお!!!!!』
「我らは武神・為臣さまの忠実なる僕である! 必ずや、この愚か者たちを屈服させるぞ! 大日皇和帝国に大いなる繁栄をもたらすぞぉ!」
『おぉおおおお!!!!!』
波慈目臨時中佐が大いに場を盛り上げる。
馬鹿なんだろうが、こうやって兵を率いるというのは相当なセンスがありそうだと為臣陛下は感じた。
「これなら仕事をしてくれそうだな。お前も期待しているからな、戸谷」
「はは! 必ずや、ご期待に応えて見せます!」
「幸政、お前も油断はするなよ」
「はははは、私は油断なんてしませんよ。なんならボコボコにしてしまうので申し訳ないです」
正面の門は波慈目臨時中佐が、東門の方は幸政総司令官が、西門の方は戸谷宰相が。
この3人が各部隊を率いて同時攻撃を仕掛ける。
為臣陛下は丈二と共に、本陣で榎本知事の首が持って来られるのをジッと待つ。
戦いの狼煙を上げるのは波慈目臨時中佐だ。
スッと右手を挙げる。
「火弓矢隊、前に出ろ!」
『はっ!!』
「よぉく狙え!」
『はっ!』
突撃する前に波慈目臨時中佐は、矢に火を付けた弓矢隊が歩兵隊の前に立つ。
そして狙いを猿払城に定め、よく目を凝らし絶対に外さないように集中する。
弓兵たちは波慈目の「放てぇ!」の号令と共に放つ。
火矢が雨のように猿払城に降り注ぐのである。
火矢の火が城に燃え移ったところで、各門を担当する戸谷宰相・幸政総司令官・波慈目臨時中佐の3人が「突撃」と号令を続けて出した。
号令と共に門をこじ開ける破城槌を持った歩兵たちが、雄叫びを上げながら突撃する。
破城槌と門が衝突する音は、かなり体に響く。
ドーンドーンッと激しい音が聞こえながら、どんどん門が壊れていくのである。
城の中の人間たちはアタフタしている。
「急いで兵を集めろ! こっちは籠城してるんだぞ……こんなところで、負けるわけにはいかないぞ!」
「榎本さま! 正面門が打ち破られそうです!」
「もうか!? もう少し持たせる事はできないのか!」
「それは難しいかと……あとそれから正面門の指揮を取っているのは、波慈目中佐のようです!」
「なに!? ど どうして波慈目が、向こう方に着いているんだ……アイツは死んだんじゃ無かったのか!」
必死になって榎本知事は、指揮を取っているが籠城が始まっていきなりピンチである。
こんなところで終わるわけにはいかない。
どうにか難局を切り抜こうとしているタイミングで、討死したと聞いていた波慈目臨時大佐が指揮を取っていると知って驚きを隠せない。
どうなっているのかと少し動きを止めた。
しかし直ぐに我に返って指揮を取る。
そんな最中に正門の方で大きな声が上がった。
直ぐに正門が破られたのだろうと榎本知事は悟り、チッと大きな舌打ちをした。
正門を破った波慈目臨時大佐は、部下たちよりも先に城門の中に飛び込んだ。
やはり先頭に立って戦うのが似合う男だ。
丈二と互角以上の戦いをした波慈目は、少し前まで味方だった兵たちを片っ端から薙ぎ倒していく。
武力に全振りをした武将と言っても差し支えない。
そのレベルで押し返そうとする北見兵たちを、1人の力で後ろに下がらせるのである。
「どうした! 北見兵というのは、こんなものなのか!」
「うるさいわ! この裏切り者が!」
「裏切り者だと? 忠義を示す相手を見つけた、この幸せが お前たちには分からないのか!」
波慈目臨時大佐を知っている北見兵は、やはり寝返って帝国側についた事を否定してくる。
ネガティブな言葉をかけられた波慈目だったが、自分は忠義を示す相手を見つけた幸せな男に、なんで言葉をかけるのかと逆ギレをした。
波慈目は裏切る裏切らないに関係なく、武士という生き物、そのもののような気がする。
案外、苦戦していたのは戸谷宰相が率いている西門だ。
立地として少し傾斜になっていて、そこを駆け上がるのに兵士たちが苦労している。
まさかここまで苦戦するとは戸谷と思っていなかった。
どうしたものかと頭を悩ませていると、1つだけ良い案が思いついたのである。
「撤退する! 兵を下げ、茂みに撤退するぞ!」
戸谷宰相が行なったのは、背後にある茂みに兵たちを撤退させる事だった。
大軍で向かって来た敵兵を、こんなにも容易く追い返せたなんて西門を守る兵士たちからしたら最高。
負けるかもしれないという緊張感。
そしてまさかの勝利に思考が停止した。
これなら背後を討って、為臣陛下の右腕である戸谷を討ち取る事ができると錯覚する。
直ぐに西門を開門。
逃げていく戸谷隊を追いかけて茂みに入った。
「な なんだこれは!? け 煙だと!?」
茂みで戸谷宰相は藁を焼かせていた。
その為、茂みの中には数メートル先も見えないような煙で満杯になった。
視界を奪われた西門の兵士たちは混乱。
その隙を利用し戸谷たちは北見兵のことごとくを討つ。




