041:賢く戦う
為臣陛下と幸政総司令官が感じた違和感とは何なのか。
それはもはや決着がついたと言っても過言ではなく、籠城戦をしたところで勝は手立ては全くもって無い。
希望も何も無いのに籠城する意味など皆無である。
そうなればいよいよ籠城戦には意味がなく、何か籠城して勝つ算段でも無ければおかしいというものだ。
何かを仕掛けてくるはずであると陛下と幸政は感じた。
「やはり何かを仕掛けてくるというわけか……」
「はい、その可能性が高いかと思われます」
「何があると思っている? 俺は我らを倒すだけの援軍を待つ為だと考えている」
「私も同意見でございます。そしてその援軍の相手は…」
『石狩県の軍勢』
為臣陛下と幸政総司令官の意見は同じだった。
猿払城が何を企んで籠城を選ぶのか。
それは大日皇和帝国軍に対抗しうるだけの軍勢が、援軍に来るのを待とうとしている。
そしてそれはつまり大国・石狩県である。
石狩県は今、三国と戦争を繰り広げている真っ只中ではあるが、その戦いが終われば確実に帝国を潰す為、兵を差し向けるのは確実。
それを待とうとしている、というのが2人の考えだ。
すると丈二が徐に手を挙げた。
為臣陛下は「どうした?」と手を挙げた理由を聞く。
籠城する理由も援軍を待っているのも、それは理解できてはいるが、どうにも丈二には腑に落ちないところが、1つだけあったのである。
それを陛下に質問する。
「我らを倒したいというのは理解できるのですが、それだけの為に激しい戦いをした後、直ぐ駆けつけて来るものなのでしょうか?」
「うむ、良いところに目をつけたな。俺も、そこが気になっていたところだ。疲弊したまま援軍にやって来ても、窮鼠猫を噛むように、我らの猛攻を喰らう可能性が高い……そんな中で援軍に来るのは愚かであると」
「ならばどうして……」
「こう考えたならば理由もハッキリするだろう。北見県の知事は援軍の要請をする手紙の中に、きっと我らを撃ち破った際には北見県の割譲を約束すると」
三国との戦いで疲弊したまま、わざわざ北見県まで援軍に来るものかと丈二は疑問を持つ。
為臣陛下は、その理由を自分の考えで話す。
わざわざ他国までやって来るには、帝国軍がいるからという理由では心許ない。
しかし援軍を要請する手紙の中に、助けてくれたら北見県の領土を割譲すると約束していたら。
ならば戦争をしている一国である天塩県と多く面している北見県は、石狩県にとって大きな利益となる。
だから助けが来ると思っているはずだと言った。
丈二は「うんうん」と大きく頷き理解する。
「そこで幸政、ここは石狩県が来る前に決着を付けたい。お前はどう思っている?」
「私もそれが最善だと考えます。しかしそうなれば今までの方針である犠牲の最小化が、かなり損なわれますが」
「それは致し方ないだろうな、石狩県と戦うとなれば それ以上の被害が出るのは確実だ。ここは犠牲が出たとしても早期に決着を付けたい! どうにかなるか?」
「はは! 直ぐに猿払城の地図を確認しながら、軍師たちと話し合いたいと思います!」
為臣陛下は多少の犠牲が出ようが、ここは早期に決着を付けておきたいと幸政総司令官に伝える。
もちろん見事に指揮をしてみせると幸政は胸を叩く。
かなり意気込んでいるみたいなので、幸政がこういう感じの時は心配いらないと陛下は安心する。
そして幸政は軍師たちと作戦を練り始めた。
その日の晩。
為臣陛下は夜空を見ながら温かいお茶を、ズズズッと啜っているのである。
その貫禄は明らかに10歳では無い。
そんな陛下のところに戸谷宰相がやって来る。
「陛下、お供してもよろしいでしょうか?」
「あぁ構わないぞ、一緒に飲もうか」
戸谷宰相は為臣陛下の横に並んで、光り輝いている星空をジッと見上げている。
とてもノスタルジックな空気感が流れる。
「なぁ戸谷、春雷は どうして裏切ったと思う? 俺が嫌いだったからか、父上が気に食わなかったからか……どうにも今でも納得できないところがある」
「私も同じ気持ちでございます。一生を使って使えるべきお方たちを裏切って生きていくなど、私からしたら考えるだけでゾッとします」
「こういう夜空を見ている時に、ふと考えるんだ。俺たちの何が悪かったのかってな」
為臣陛下は表には出していなかったが、ずっと春雷が裏切った事について考えていた。
どうして裏切ったのか。
誰がどんな風に悪かったのかを、夜になると頭の中を駆け回ってモヤモヤしていたのである。
自分を裏切った春雷への強い怒りと、それと同時に裏切らせてしまった強い後悔が胸に突き刺さっている。
「陛下、差し出がましいようですが……1つお言葉を申しても宜しいでしょうか?」
「ん? あぁ構わないぞ、言ってみろ」
「その陛下のお気持ちは、我らには到底わかるものではございません。しかしこれだけは言える事がございます……その怒りと後悔を胸に抱き、多くの修羅を乗り越えた先には英雄の道がございます!」
戸谷宰相は為臣陛下の気持ちを、とてもじゃないが理解できるほどの器量を持っていないと語った。
その上で春雷に対する怒りや後悔を、心の中に持ったまま修羅を乗り越えた先に英雄の道があると諭す。
陛下は戸谷の言葉を少し頷きながら聞いている。
やさぐれている心に、戸谷の言葉が刺さるのだろう。
「戸谷、これからが本番だ。お前の言うところの英雄への道を歩もうでは無いか!」
「はは! どんな茨の道もついて参ります!」
少し肩の荷が降りたところで、為臣陛下は戦いは始まったばかりで道のりは長いが、英雄の道を歩もうでは無いかと急須を傾ける。
そして戸谷宰相は、どんな道だろうが着いていく所存であると宣言をしてお茶を頂いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
榎本知事がいる猿払城は、これから来るであろう帝国軍に備え籠城支度をしている。
籠城の目処は石狩県が援軍として到着するか、それとも雪が降って帝国軍が撤退せざるを得なくするまで。
4ヶ月間にわたる籠城になると考えている。
「どうだ、籠城戦への準備は進んでいるか?」
「はは! 万事問題はありませぬ!」
「それなら良いんだ! それで石狩県への援軍の件は、どうなっている?」
「今は援軍を送るだけの余裕がないゆえ、戦いが終わり次第、そちらに向かう……との事です」
籠城戦への準備は万事進んでいるが、問題なのは石狩県からの援軍がやって来るのかというところだ。
援軍要請の返答が返って来て、好意的な話ではあるが、いつ来るのかというところが不透明に語られている。
本当に来るのかと怪しい。
榎本知事は「はぁ……」と溜息を吐きながら頭を掻く。
「まぁ良い、とにかく今は籠城して帝国軍が諦めるのを待つ他ない! 先刻、枝幸城が陥落したと知らせが来た」
「そ それは本当ですか!? こんな早さで、圧倒されるなんて……」
「あそこの城主はバカだからな、あんな兵力差で真っ向から戦ったら負けるに決まっているだろ。俺たちは頭を使って帝国の馬鹿どもを追い返すぞ!」
榎本知事は真っ向から戦う事を選択した、枝幸城の城主の事を馬鹿だと罵った。
あんな大軍と真っ向から戦うなんてあり得ない。
自分たちは頭を使って戦ってやろうと、榎本は側近の肩をポンッと叩いて自室に引き下がって行った。




