040:新たな目的地
枝幸城が閉ざされてから2日後の事。
為臣陛下が天幕で武士道に関する本を読んでいる時、天幕に戸谷宰相が入って来た。
表情が明るい事から陛下は「開いたか」と答える。
察せられた陛下に戸谷は小さく頷く。
思っていたよりも早かったと思いながら陛下は、テーブルに本を置いて立ち上がる。
陛下は戸谷に案内されるがまま枝幸城の方に歩いていくと、そこには防具を付けていない3人の男がいた。
深々と陛下に頭を下げている。
「この男たちは、枝幸城の人間たちか?」
「はい、城代1名に城将2名になります。こちらに降伏したく馳せ参じたと申しております」
降伏して来たのは城主が不在の時に、城主の役割を果たす城代1人と城を護衛する武将である城将2名だ。
為臣陛下の顔を見るなり、3人は額が擦り減るんじゃ無いかと言う勢いで地面に擦り付ける。
そして戸谷宰相は陛下に白い袋を渡す。
袋からは少し赤い液体が垂れていて、少し察しながら陛下は袋の中を確認した。
袋の中には男の生首が入っている。
陛下は「これは?」と戸谷に聞く。
「はは! こちらは枝幸城々主の首との事です」
「これが城主の首……まさかお前たち、城主を騙し討ちして首を取ったんじゃ無いだろうな?」
「め 滅相もございません! 城主さまが自ら、ご切腹なさり首を持って参りました……城主からは、この首で城の中の人間を許して頂きたいとの事です!」
首は城主のモノであると分かった瞬間、為臣陛下は騙し討ちをして首を取ったのかと聞く。
しかし城代たちは必死に腕を左右に振って否定した。
自分たちが騙し討ちをして首を取ったのではなく、城主が自ら切腹をしたのだと話す。
自分の首と引き換えに城内の人間は許して欲しい。
そういうわけである。
「そうか、見事な最後だったんだな?」
「はは! それは見事な武士としての最後でございます」
「ならば城主の武士道に免じ、貴殿らの命は保障する事にしよう。しかしこれから向かう猿払城についての情報を、貴殿らには話して貰う」
「はは! 何なりとお聞き下さい!」
見事な最後であったと聞いた為臣陛下は、その切腹に免じて城内の人間の命を保障すると断言した。
だがそれだけでは無い。
これから向かう猿払城に関する情報を、今から聞かせて貰うと付け加えた。
それならいくらでも話すと頭を下げる。
陛下は満足そうな顔を浮かべ「入場する!」と部下たちに大きな声で伝えた。
そのまま丈二たちの護衛を引き連れ、枝幸城に入城。
直ぐに武器庫や食糧庫の厳しいチェックが入る。
すると城の中に「陛下! 陛下!」という兵士の叫び声が聞こえて来た。
あまりにも騒がしい声だったので、戸谷宰相は「何をしている! 騒々しい!」と叱責した。
若い兵士は「申し訳ありません!」と頭を下げる。
落ち着いたところで「どうした?」と話を聞く。
「こ これは!? どうしてここに……」
「戸谷! この城にゲベール銃は無いと聞いていたが、どうしてこんなにも銃がある!」
「わ 分かりません……城代! 城代はどこだ!」
武器庫の中を調査したところ、床下にカラクリがある事を発見した。
そこには北見城にあった武器の保有数が書かれた書類には無いはずのゲベール銃が20丁もあったのだ。
まさかの発見に戸谷宰相は驚き、為臣陛下は事の重大さに気がついている。
直ぐに城代の男が陛下の前に呼ばれた。
「どうして記載の無いゲベール銃が、こんなにも隠されているのだ? どう説明するつもりだ!」
「も 申し訳ありません! このゲベール銃は、日本時代末期の頃に革命で使用していたゲベール銃にございます。もう当分は使っていないものにございます!」
「そんな事を聞いているんじゃ無い! どうして武器として申告していないのかと聞いているんだ! 元々は春雷が革命を起こさずとも、お前たちが企んでいたんじゃ無いのか!」
「め 滅相もございません! 手入れもされていないものにございまして。武力として計算するのは、少々いかがなものかという事に……」
この時代において武器の未申告は、明らかなる王家への反逆行為と思われていた。
今回の件は日本時代末期に起こった大革命時に、市民が使用していたゲベール銃が20丁残っている。
本当ならば申告しなければいけない。
しかし枝幸城の城主は手入れもしていない使い物にならない銃だから、戦力として計算する必要は無いと判断。
この判断が大きな間違いなのである。
戸谷宰相は怒っているが、もうこうなってしまったらどうしようも無い。
というのも反逆の意思が無いのは、戸谷が最も理解しているところである。
あとは為臣陛下に判断を仰ぐしか無い。
「陛下、どう致しますか?」
「武器の申告を自己判断でしなかったのは、容認しかねるところではある。しかしそれは城主の判断であり、城代たちに責任を取らせるわけにもいかないだろう」
「さすればいかがなさいますか? この事は不問と致しますか?」
「コイツらへの処分は厳重注意とし、この銃に関しては帝国が没収する。それなら問題ないだろう」
判断を促された為臣陛下は、この責任に関しては城主にあると発言する。
しかしその城主は既に切腹していない。
すなわち城代たちに責任は筋違いとし、城代たちには厳重注意という処分を下した。
あとは見つけた銃を全て没収するように指示する。
銃の没収だけで済んで良かったと城代たちは安心し、戸谷宰相は笑いを我慢しているようである。
そして陛下たちは武器庫を後にした。
「さすがは陛下にございます! まさか処分の方で、銃の没収を隠すとは!」
「何の事かな? 銃を仕入れるには、多額の金を積まなきゃいけないからな。それをタダで手に入るなんて、儲けもんも儲けもんだろ」
「はは! 陛下の仰せの通りです!」
為臣陛下は使っていないといえども、この銃を修理したりすると使えるようになる。
新しい銃を仕入れるとなると遥かに金がかかる。
今回は刑を軽くするという事で、この武器の重要性を忘れさせ生まれる事なく、タダで高価な銃が手に入った。
戸谷宰相は、それに気がついていたのだ。
だから「さすがは陛下!」と感服した。
しかし陛下は、何も知らない風を装って、戸谷に笑いながらシラを切るのである。
「さぁ猿払城攻略の軍議を行なう! 指揮官を集めろ!」
「はは! 承知いたしました!」
銃も確保したところで、これから攻める猿払城との戦いについての軍議を開くと為臣陛下は言う。
直ぐに城内にいる指揮官クラスの人間たちが、陛下の部屋に集められる。
「猿払城というのは、どんなところだ?」
「猿払城のある宗谷郡はオホーツク海を背に向け、西部には丘陵・山岳が取り囲んでおります。そして猿払村の約8割が森林となっているところにございます」
「背は海で、周りには山岳や丘陵が取り囲んでいると。やはり向こうは籠城戦に持ち込むつもりでしょうね」
戦う立地としても向こうに、利があるというわけでは無さそうだと為臣陛下は理解した。
そうなれば向こうが取るのは手立ては籠城戦。
これに限るだろう。
しかし陛下は疑問を持つ。
援軍も無しに、いつ落ちるかも分からない城に長く籠城するものなのかと。
「陛下、この戦いには裏があるかも知れません」
幸政総司令官は陛下同様に、向こうが何か裏があるかも知れないと言ったのである。




