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038:大帝の為に

 帝国軍と枝幸軍との戦いの最前線において、数の差は圧倒しているが1人の男が躍動している。

 ガハハハッと腹に響く笑いを轟かせながら太刀を振る。

 このレベルの武将を、ただの歩兵や普通の騎兵が単体で止められるわけが無い。

 帝国兵は決死の覚悟で突っ込んでいく。



「さぁかかって来い! この《岩本 波慈明(いわもと はじめ)》が相手をしてやろうでは無いか!」



 男の名は波慈明というらしい。

 自分の名前が名乗って戦っている。

 枝幸平野の戦いで死ぬつもりなのだろうと見たら分かるが、それは討ち取られたとしても自分の首を雑に扱わせないようにだと思えた。

 つまり死を悟っているのだ。

 だからこそ、こんな戦い方ができている。



「貴殿を手練れと見込んで申し上げる! 俺と一騎討ちをして貰おう!」


「なにぃ、どこの誰だ! 名を申してみよ!」


「俺は大日皇和帝国は皇帝陛下《豊徳 秋蘭 為臣》さまの近衛団々長《三須本 丈二》である!」



 波慈明が暴れ回っているところに、騎馬に乗った丈二がやって来て一騎討ちを申し込んだ。

 強者である自分自身に丈二のような若い男が、一騎討ちを申し込んで来たと分かると疑惑の目を向ける。

 続けて名前と役職を聞いた。

 そして丈二は自分が近衛団の団長であると名乗る。

 こんな若い男が皇族である為臣陛下の護衛を務めている近衛団の団長なのかと信じられ無かった。



「この俺と一騎討ちをしたいだと? お前のような若造が、この俺と一騎討ちなどあり得ない!」


「あり得ないだと? そうかそうか、分かったぞ」


「何が分かったと言うのだ?」


「貴殿は若造である俺に、負かされるのが怖いから逃げようとしているんじゃないのか?」


「はははは! まっこと面白い事を言うじゃ無いか、この俺が負ける事を恐れていると? 本当に面白い事を……ここで長い人生に幕を下ろしてやろう!」



 丈二は自分との一騎討ちを断ろうとしているのは、若い自分に負けるのが怖いからでは無いかと煽った。

 明らかなる煽り言葉である。

 普通の人間ならば、こんな口車に乗るはずが無い。

 しかし波慈明は単細胞だったからか、それとも分かっていたが面白そうだからやる方に切り替えたのか。

 それは波慈明にしか分からない事。

 だが結局のところ一騎討ちを呑んだ事に変わりは無い。



「一騎討ちの前に申したい事がある!」


「申したい事だと? それは何だ、今更になって怖くなったとか言うんじゃ無いだろうな!」


「そんな事を言うはずないだろ! 俺が言いたいのは、もし俺が勝った時に求めるモノだ」


「お前が勝った時に求めるモノだと? 俺が勝つのは大前提の話だが、もしも負けた時は俺の死ぬ時だ! それを理解した上で何を申したい?」



 馬から降りた丈二は刀に手を置き、今にも戦いが始まりそうな雰囲気が流れている。

 そうだったと言わんばかりに丈二は、構えるのを止めると一騎討ちに勝利した際に求めるモノがあると言った。

 丈二の言葉に波慈明は眉を歪ませ疑問を抱く。

 一騎討ちというのは、どちらかの命が終わるまで戦うのが慣わしなはずである。

 それなのに勝った時に負けて死んだ人間に、何を求めるのかと波慈明は返した。

 しかし「聞いてみないと分からないか」とも思う。

 なので波慈明は今、言った事を理解した上で申したい事とは何かを聞いた。



「俺が勝った場合、貴殿には帝国に服して貰いたい!」


「この俺が北見県を裏切って、帝国側に付けと言うのか? 本気で、そう言っているのか?」


「貴殿のような手練れを簡単に失うわけにはいかない! それに何かを忘れているんじゃないか?」


「なに? 何を忘れていると言うのだ」


「貴殿も含めて、この大和の地は全て皇族……つまり陛下のモノである! それを返せと言って、何かおかしなところはあるのか?」



 帝国側について欲しいという申し出を、やはり波慈明は真っ向から断ったのである。

 自分が主君を裏切って味方になる事は無いと。

 対して丈二は波慈明の必要性と、何か忘れていないかという事を伝えた。

 波慈明は何を忘れているのか。

 それは大和の地は、全て為臣陛下たち皇族のモノであるという事である。

 陛下が欲しいと言ったら、それを渡す。

 これが帝国民の責務であると。



「ふざけた事を申すな! なにが大和の地は、全て皇族のモノだ……その皇族が居ないのでは無いか!」


「貴殿こそ、何をふざけた事を言っている? あの丘の上に居られる御方こそが、皇族の中の皇族……大帝様であらせられるぞ!」


「それがどうした! 春雷程度の武将に、ここまで国を乱されて、何が大帝だ! ふざけた事を申すな!」



 どうやら波慈明は国を春雷に奪われた事を、皇族らしからぬ人間であると否定した。

 その言葉が聞き捨てならないと丈二は怒り心頭になる。

 言葉の問答をしていてもキリがないと、丈二は「心配するな、貴殿が負けなければ良いんだ」と言葉を溢す。

 これには波慈明も「ふっ」と笑って「それもそうだ」と刀を抜いて構えるのである。


 ピューッと2人の間に風が通る音が響く。

 そして互いにスーッと息を吸ってから、一気に相手方に向かって斬りかかるのである。

 開幕早々の一撃は刀と刀が衝突し、バチンッと大きな火花が飛び散った。

 体格からして波慈明は丈二を弾き飛ばせると思った。

 しかし丈二は弾き飛ばずに、グッと鍔迫り合いを演じる事ができたのである。



「ほぉ俺の一撃を受け止めるか」


「これくらいで、何をドヤ顔してるんだ? これくらいの威力なら赤ん坊だって受け止められるぞ」


「言ってくれるじゃないか、ならば吹き飛べ!」



 自分の一撃を丈二のような若い男に、受け止められるとは思っていなかった。

 そんなに自信があったのかと丈二は鼻で笑う。

 これくらいなら赤ん坊だって受け止められると馬鹿にされた波慈明は、これならどうだと言わんばかりに丈二を押し返し、丈二が後ろに蹌踉めいたところを猛追する。

 確かに一撃一撃が速くて重い。

 普通の兵士だったら刀が弾き飛ばされ、3撃目には首が刎ねられていてもおかしくは無い。

 しかし丈二は目玉を引くほどに動かし、波慈明の動きを先読みして刀が弾かれないように受け流している。


 さすがに自分の実力に自信を持っていた波慈明からしたら、ここまで力を出して受け流されるのは予想外。

 どうにか一泡吹かせなければと力が入る。

 攻撃の手が普段とは違って倒そうとする為、単調な手筋となってしまうのである。

 逆に丈二は防戦一方に見えるが、的確なタイミングで細かいカウンターを波慈明に入れていた。

 その為、波慈明の腕や頬に切り傷が付いている。

 それがさらに波慈明を焦らせた。



「クソがぁ!」



 焦りに焦った波慈明は、大きな一撃をブチ込んでやろうと刀を振り上げて丈二に襲いかかった。

 しかし今の今まで通用していないのに、当たるかも分からない大振りを使ったのは明らかな悪手である。

 波慈明が刀を振り上げた瞬間を丈二は見逃さない。

 スッと足取りを軽くし、一気に波慈明に突っ込んでいき懐に侵入する事ができた。

 これに波慈明は「なっ!?」と焦る。

 急いで刀を振り下ろそうとするが、丈二は波慈明の胸を斬ると同時に背後に移動した。

 そして斬られた波慈明の胸が斜めに切り傷が付いた。

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