037:丈二の戦い
帝国軍と枝幸軍の最前線で、ある1人の男が圧倒的な兵力差の前にも関わらず、奮戦し続けている。
戦っている姿は、まさしく武神というに相応しい。
その姿に為臣陛下も「ほぉ」と面白がっている。
たった1人の武将の存在だけで、この圧倒的な兵力差は崩されないと思ってはいるが、まさかと思わせてくれるくらいには大暴れしている。
「幸政、アレは大丈夫なんだろうな? まさかあんな1人の存在だけで、負けるなんて事は許されないぞ?」
「あんなにも最初から飛ばしていては、あとにスタミナが切れると思います。それゆえ心配は ご無用かと思いますが、それでも心配でしたら こちら側の強者を送り込むというのは如何でしょうか?」
「ほぉ確かに それは良い案だ。だとしても、我らにアレほどの強者はいるのか?」
為臣陛下は幸政総司令官に、意地悪を承知で負ける事は無いのかと聞いた。
戦いというのは何があるかは、始まってみないと分からないものである。
しかしここまでの兵力さがあれば問題は無い。
というよりも、あの男は戦いの始まりからスタミナを気にしないで戦いすぎている。
心配しなくてもスタミナ切れで死ぬと幸政は語る。
それでも心配だというのならば、こちら側の強者を今から ぶつけるのはどうかと聞いた。
幸政の考えは面白いと陛下は認める。
だが人材不足である自分たちの軍に、あの男と同等の武力を持った人間はいるのかと疑問を持った。
「それなら居るではありませんか。もちろん陛下の側仕えなので、陛下が御許可を出して頂かなければ動かす事はできませんが」
「そんな兵が俺の側に……あぁそういう事か」
幸政総司令官は自分が言うような強者は、為臣陛下の側仕えの中にいると濁しながら言った。
最初は陛下も理解できずに困っていたが、幸政の視線の方を見て理解する。
2人の視線の先に居たのは丈二である。
まさか2人の話している話題の強者が自分だと思っておらず、丈二はキョトンとしていた。
しかし2人に見られているのが分かった瞬間、2人の顔を交互に見てから自分を指差し「俺ですか!?」と驚く。
「お前なら あの者に勝てるのでは無いか?」
「し しかし自分は陛下の護衛でありまして……」
「もしかして丈二、お前……怖いのか? あの男に負けて死ぬのが怖くて、そうやって断ろうとしているのか?」
「そんな事はありません! この陛下直属の近衛団団長である《三須本 丈二》に死を恐れる心はありませぬ!」
丈二は自分には、為臣陛下を守る役職があるから「無理じゃないか」と断ろうとする。
この発言に陛下は怖いから逃げようとしているのかと、悪そうな笑みを浮かべながら続けて聞いた。
やはり近衛団の団長の誇りを持っている自分が、死ぬ事を恐れるわけが無いと宣言する。
男の覚悟を聞いた陛下は「ふ!」と笑って頷く。
「良く言ったぞ! お前が あの男を討ち取れば、丈二の名声も丈二を従える俺の名声も上がる。しっかりとやって来い、お前の力を期待しているぞ!」
「はは! しかと活躍して見せます……それゆえ陛下に、お頼み申し上げたい事があるのですが」
「頼みたい事だと? 褒美の話か? それなら戦いが終わってから、ゆっくりと聞いて……」
「お待ち下さい! あの男との戦いの前に聞いて頂きたいのです!」
完全にやる気になっている丈二だが、その前に為臣陛下に頼みたい事があると言うのだ。
褒美の話なら時間の無い今よりも、戦いが終わってからにして欲しいと陛下は答える。
しかし話は今が良いのだと丈二は引き下がらない。
この姿勢に戸谷宰相は「無礼だぞ!」と丈二を叱るが、陛下は「問題ない!」と答える。
「その頼みっていうのを聞かせてみろ」
「はは! あの男とは一騎討ちを致しますが、勝利した際には打ち取るのではなく、こちら側にスカウトしたいと考えております。これを認めて頂きたい!」
「そういう事か、面白い考えをするじゃないか。さすがの俺も、アレを仲間にしようとは考えなかったなぁ」
あの男とは一騎討ちするつもりではあるが、ただ討ち取るのではダメだと丈二は語る。
ならばどうするべきなのか。
それは帝国軍にスカウトする。
どうにか一騎討ちをしてから仲間にスカウトするから、討ち取るのは止めて欲しいと頼んだ。
人材が足りないと言っていた為臣陛下だったが、あの暴れ馬を仲間にするというアイデアは浮かばなかった。
丈二の考えを聞いて「面白い」と溢す。
「戸谷、幸政! この丈二の頼みを、どう考える?」
「宰相の私からしたら、人材が増えるという事は選択肢が増えるという事です」
「軍の総司令官である私からしても兵力が上がるというのは、これ以上ない事です。しかし懸念点が……これは戸谷さまも同じ考えだと思います」
「その懸念点とは何だ? 俺にも分かる事か?」
2人は各部門のトップとして、人材が増えるのは喜ばしい事であると述べた。
しかし1つだけ懸念点があるらしい。
為臣陛下は、その懸念点とは何かを2人に聞いた。
もしかしたら自分の分からない事かもしれないと思いながらも、とりあえず理解する為に聞く。
2人が見合ったところで、幸政総司令官が戸谷宰相に向けて話すのを譲った。
幸政は「じゃあ」と一言で伝える。
「あのタイプの男が、こちら側に寝返るとは思えません。主君に尽くして討死する事が本望である!とかって言いそうじゃないですか? もちろん我々としても陛下の為なら命を賭けるのは良いんですが、同じタイプとしては寝返らないんじゃないかと」
「そこがネックというわけか、確かに言われてみれば戸谷のいう通りだな。だがまぁ丈二がやりたいと言うのならばやってみれば良い、だけど1つだけ誓って欲しい」
「はは! 陛下のお申しになる事でしたら、1にも2にも守って見せます!」
「お前とアイツの命が天秤にかかった時に、お前は絶対に迷わず自分の命を選べ。アイツが仲間になっても、お前が死んだら意味が無いからな」
確かに主人の為ならばゴートゥヘルという感じで、全くもって寝返りそうに無い。
2人の話を聞いてみて為臣陛下も「確かに」と思った。
しかし丈二がやりたいと言うのだから、やらせるだけやらせて良いだろうと判断する。
だが1つだけ条件を付けた。
それは男と丈二の命が天秤にかかった時、自分の命を最優先に考えるというものだ。
陛下に そんな事を言って貰った丈二は嬉しそうな顔をしながら「はは! 承知しました!」と返事をする。
「それでは出陣の準備をいたしますので、ここは一旦失礼致します!」
「あぁ十分に気をつけて行って来い」
これから最前線に向かう為の準備をすると、丈二は為臣陛下に挨拶してから立ち去る。
戦場に向かう丈二の背中に陛下は声をかけた。
見る限りでは丈二が、やる気に満ちているので心配は無さそうだが、戦というのは何があるかは分からない。
無事に帰ってくる事を陛下は祈っている。
「幸政、丈二の周りに腕の立つ部隊を配置させておけ」
「承知いたしました」
「さぁ丈二が、どこまでやれるのかを見てみようか」
為臣陛下は丈二に、もしもの事があっては困るので割り込めるように強い部隊を、周りに配置するよう幸政総司令官に指示を出した。
ここからは丈二個人の戦いである。
陛下も面白そうだと思っている。




