036:枝幸平野の戦い
為臣陛下の命を狙った臼井城主たちは、丈二率いる近衛団によって捕縛された。
陛下の命を狙っているのだから、極刑なのは免れる事はできないのは決まっている。
しかしただ斬首にするわけでは無い。
戸谷宰相を責任者とした上で、死にたいと思うような拷問の後に斬首という刑罰に決まった。
臼井城主たちの叫び声が、城の中にこだましている。
この城の兵士たちは、自分たちもやられていたのかもしれないとブルブルと震える。
為臣陛下は自室で、その叫び声を聞く。
そして拷問は太陽が昇ろうとしたところまで続き、臼井たちが事切れたところで、戸谷宰相が陛下の部屋までやって来て「終了しました」と報告した。
「そうか、こんな時間まで ご苦労だったな。数日後には紋別城を出立する、兵士たちを休ませてやれ」
「はは! 承知いたしました!」
「あと臼井たちの遺族たちにも事の経緯を説明しろ。その上で納得できない様子なら秘密裏に殺せ」
「最初から殺さなくてよろしいのですか?」
「最初から殺せば、味方になる人間も減るだろ。納得した人間たちを生かしておけば、場合によっては助けて貰えると思うだろ」
為臣陛下は戸谷宰相たちを労ってから、臼井城主たちの遺族への説明をするように指示を出した。
その上で納得して貰えないようだったら、反乱を犯す可能性があるので秘密裏に殺すように言う。
最初からに殺した方が良いんじゃないかと聞く。
しかし最初から殺せば、親族が問題を起こした時に生き残れないと思って氾濫する可能性がある。
それを避ける為に陛下は説明をしてからだと言った。
まさかそんな考えがあるとは思っておらず、驚いた戸谷宰相は「感服いたしました」と頭を下げる。
そして臼井城主たちの謀反への対処と、次の枝幸城攻略への準備を整え、謀反から2日後に城を出立した。
例に違わず枝幸城へは降伏の使者を送っている。
だが残念ながら枝幸城からの返答は「NO」だった。
ならば仕方ないと為臣陛下は枝幸城の攻略に向け、さらに北上を進めるのである。
ここに来て久しぶりの戦いだ。
気を抜く事はできない。
帝国軍は枝幸城に向かって行軍し、紋別城を出立してから枝幸城の前にある枝幸平野に到着したのは、2日後の夜の事だった。
もう日は暮れているので、今から戦うわけにはいかず、明日の朝から戦う為に陣を張って野営を行なう。
枝幸城の兵士たちも城を出て、明日の戦いに向けて野営を行なっているのである。
「陛下、いよいよですね! この枝幸城を攻略すれば、残るは猿払城のみです!」
「あぁ猿払城を落とせば、道東は統一できる。しかしそれはまだ戦いの始まりだ、俺たちが成さなければいけないのは大和帝国の奪還だ!」
「はい! その為にも今回の戦いは絶対に勝ちましょう」
戸谷宰相は、この枝幸城を攻略すれば北見県の残された城は猿払城だけだ。
そうなれば道東を統一するまで秒読みである。
しかしそれがゴールでは無い。
為臣陛下たちのゴールは、この大和帝国をまた皇族の手中に戻す事である。
その為にも今回の戦いに勝利するのは必須だ。
「丈二、緊張してるか? この前の根室県との戦いは、そこまで大きな戦いじゃ無かったからな」
「緊張ですか? 全くしてませんよ、緊張なんてしてたら陛下をお守りする事なんてできませんからね。この戦いでも活躍してみせますよ!」
「そうか! それだけ気合がはいってたら、何の心配もいらないだろうな。期待してるぞ」
「はい! 全力でやらせて頂きます!」
為臣陛下は真剣そうな表情をしている丈二に、緊張しているのかとイジるように微笑みながら聞いた。
どうやら緊張はしていないみたい。
ただ気合が入っていて、武功を挙げ陛下をキチンと守るんだという意思の表れらしい。
これなら問題ないだろうと陛下は安心する。
「幸政、作戦は決まっているか?」
「はい! こちらは各城から改めて徴収して2500人、向こうは400人で差は圧倒的です」
「おぉ! そこまで差があるのか、それなのに向こうは戦う方を選ぶのか……」
「はい、向こうは忠義の為に戦うのでしょう」
「そうか、忠義の為にか……」
枝幸城と帝国軍の戦力は明らかだ。
なのにどうして戦うのか。
幸政総司令官が考えるに、向こうは北見知事への忠義の為に戦おうとしているのだと語った。
この戦力差を「忠義の為」と為臣陛下は理解する。
しかし納得はできない。
「そんな無駄死にをさせるほど、今の我らに余裕なんてありはしない。戸谷、幸政」
『は!』
「敵兵を無駄死にさせるな、向こうから寝返りたいという人間は無闇に殺すな。そして倒す必要のある指揮官クラスだけを的確に狙え。幸政、お前なら問題ないだろ?」
「ははは、それは手厳しいですね……しかし! 見事にやり遂げてみせましょう!」
為臣陛下は自分の国の民になる人間を、こんなところで無駄死にさせるわけにはいかない。
そこで寝返りたい人間は保護し、それ以外の敵兵に関しては必要最低限の討ち取りだけを命じた。
さもないと米を補給する際に、数が減ってしまうから。
これからもっと多くの戦いが待っているのに、こんな無駄な戦いで数を減らすわけにはいかない。
だからこそ陛下は、幸政総司令官にそう指示を出した。
軍師を司る者としては、相手を殺さずに勝つというのは難しいところではある。
しかし陛下の期待には応えたいと幸政は思った。
そして夜が開け戦いの日を迎える。
帝国軍2500が敵軍に向かって隊列を組む。
これに対し枝幸軍400と帝国軍に向かい合っているのだが、あまりにも貧相な軍だ。
よくぞ、逃げ出さずに相対しているものである。
しかし民衆から集められている兵士たちの足は、生まれたての子羊のようにブルブルと震えている。
帝国軍の兵士たちは、確かに数こそ多いが、1人1人の心持ちが大きく違う。
「さぁ戦いの時だ……お前たち! 目の前にいるのは、愚かにも栄えある帝国軍に牙を向いた人間たちだ!」
『おぉおおおお!!!!!』
「お前たちの偉大なる力を、この俺に見せてくれ!」
『うぉおおおおお!!!!!』
為臣陛下は全軍に対し、自分に最大最高の力を見せてみろと煽るのである。
これに全兵は大きな雄叫びを挙げ応えた。
士気の高さを鑑みれば、何の心配も無いと陛下は「ふ」と笑ってから右手を挙げた。
そして「全軍……突撃!」と開戦の合図を出す。
再度、雄叫びを上げながら兵士たちは突撃を始める。
「さぁ戦いが始まったぞ、ここからはどうやって勝利するかだけだ。期待しているからな、幸政」
「はは! しかと活躍させて頂きます」
大きな軍勢と小さな軍隊が衝突する。
その衝突音はトラックと人が衝突するなものだ。
戦いが始まってしまったら、為臣陛下にしか戦いを止める事ができない。
陛下はどうやって勝つかを見させて貰うと笑った。
幸政総司令官も、しっかりと陛下の期待に応えられるように活躍してみせると宣言した。
さぁ見ものであると為臣陛下が思った瞬間、戦場の中央から「おぉ!」という盛り上がる声が聞こえた。
どうしたのかと陛下たちは視線を戦場に向ける。
すると枝幸軍の最前線で、騎馬に乗って戦っている武将が居たのである。
その戦いぶりは武人というのに相応しい。
陛下は「ほぉ」と面白がった。




