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035:万死に値する

 紋別城に入城して最初の夜を迎える。

 為臣陛下は戸谷宰相たちに「先に休ませて貰う」と言ってから自室に戻った。

 もちろん部屋の前には2人の見張りが立っている。

 交代で24時間の見張りを継続し、絶対に陛下の安全を守るのだという意思がある。


 為臣陛下が寝静まった夜中。

 この紋別城の城主である臼井は、監視の目が緩んだ隙に城の台所に向かった。

 既に台所には数人の紋別城の兵士がいた。

 臼井の手には蝋燭が持たれている。



「お前たち、準備は整っているみたいだな」


「はい、もう準備は整っています! いつでも行けますが、どうしますか?」


「まだもう少しだけ待とうか、確実に眠ってから襲いたいからな」


「承知いたしました」



 やはり紋別城の臼井城主は、為臣陛下の命を狙っているのが明確になった。

 実行犯であろう兵士たちも準備を整えている。

 しかし見張りもいる中で、どうやって眠っている陛下の命を奪おうとしているのだろうか。



「こういう時の為に秘密の通路を、何個も作っておいて良かったなぁ。ガキを殺してから、その首を持って石狩県か春来陛下のところに亡命する」



 紋別城は臼井城主の命令で、建築途中で秘密裏に通路を作らせていた。

 これは臼井を筆頭に少人数しか知らない。

 だからここにいる人間たちは、こういう時の為に用意されていた人間たち。

 そして臼井は為臣陛下の首を取ったら、その首を持って石狩県か春来のところに亡命すると言うのだ。



「さぁ狩りの時間だ、さっさとガキの首を取るぞ」


「はい!」



 臼井城主は時間は十分に経ったと判断し、為臣陛下の首を取りに行くと兵士たちに声をかけた。

 兵士数人を連れ、臼井は隠し通路に入る。

 そのまま陛下が眠っている部屋に繋がっている通路を歩いていき、陛下の部屋に近づく。

 さすがに今までの戦いとは違う。

 陛下の首を取るのだ。

 兵士たちの間に、普段とは違う異様な緊張感が走っていて荒い息遣いが通路に響いている。


 そして為臣陛下の部屋の前までやって来た。

 声を出すわけにはいかないので、臼井城主は兵士たちの1人1人の顔を見て「良いか?」と確認する。

 兵士たちは緊張しているのが分かるように激しく頷く。

 少し心配な要素はあるが、ここで逃げるわけにはいけないので臼井は扉を開けた。

 息を殺しながら部屋の中を確認する。

 どうやら部屋の中には見張りの兵士はいないと確認し、ベッドの上にはスヤスヤと眠る人影が見えた。


 臼井城主は手で合図し、兵士たちを部屋の中に招く。

 足を音を立てないように、数人の兵士が為臣陛下の部屋に入って、ベッドを取り囲む。

 ここで兵士たちは失敗しないように、他の兵士たちの顔を見合わせてタイミングを合わせようとする。

 そして全員の覚悟が固まった。

 口には出さないが「せーの」とタイミングを合わせ、刀を振り上げたのである。

 いよいよ、陛下の命はここで終わるのか。

 その瞬間、掛け布団が舞い上がって布団の中から出て来た人間が、兵士たちの刀を弾き飛ばす。



「おいおい、マジで為臣さまの命を狙ったのかよ。お前らの頭を、マジで疑うわ」


「が ガキじゃないだと!? 誰だ!」


「近衛団の団長《三須本 丈二》だ! 為臣さまの命を狙ったんだ、お前らは終わったぞ?」



 布団の中から飛び出して来たのは、為臣陛下ではなく丈二だったのである。

 まさか陛下ではないと臼井城主たちは驚く。

 そのまま言葉を失って、その場で固まってしまう。

 丈二は陛下の命を狙ったのだから、このまま生きて帰れると思うなと不敵に笑った。

 手をパンパンッと丈二は叩く。

 すると部屋の中に陛下たちがゾロゾロと入って来る。

 瞬く間に臼井たちは取り囲まれた。



「ど どういう事だ!? この通路は、誰にもバレていないはずだぞ!」


「そんな通路があるのは知らん。だがお前が異様に怪しかったからな、警戒していたんだ」


「い いつ俺を疑った!」


「お前に質問しただろ? 兵士から城主になったのかと、その時にお前から血の匂いがした」



 こんな通路があるなんて為臣陛下たちは知らなかった。

 しかしあまりにも臼井城主が怪しいと感じ、念には念をという事で丈二を身代わりにしていたのだ。

 どうして自分を疑ったのかと臼井は陛下に聞く。

 見た目だと言っても納得しないだろう。

 そこで陛下は出会った時に、臼井から血の匂いを感じ取っていたと言った。

 だから陛下は臼井に兵士だったのかと聞いたのである。



「どうして血の匂いがしたからと、俺が怪しいという事になるんだ? まだ分からないだろ」


「兵士でも無い人間が、そこまで血の香りをさせているのはおかしい。この城の兵士に、お前が狩りに出るのかを聞いたが、そんな事していないと言っていた」


「だから俺が、何かしら人を殺めているような人間であると思ったわけか……はははは!」



 どうして自分が疑われたのかを聞いた臼井城主。

 納得して大笑いし始める。

 深夜の静かな部屋に、臼井の笑い声がこだました。

 兵士たちは何かして来るかもしれないと、刀を構えて為臣陛下を守る為に警戒する。



「こうなったら仕方ねぇなぁ。お前たち、さっさとコイツらを殺せ! もう俺たちには、コイツらを皆殺しにするしか生き残れないぞ!」


『おぉおおお!!!!』



 臼井城主は刀を置いたところで、殺されるのは目に見えていると兵士たちに語りかける。

 この場で生き残る為には、為臣陛下たちを皆殺しにして逃げるしか方法は無い。

 臼井の言っている事に納得した兵士たちは刀を構える。

 戦う姿勢を取った兵士たちに、戸谷宰相は「ふっ……」と鼻で笑うのである。



「お前たちは、何か勘違いをしてないか? この場で皆殺しにできると本気で思っているのか?」


「本気で思ってると言ったら、どうだというんだ?」



 戸谷宰相は臼井城主に、ここで戦って本気で生き残れると思っているのかと聞く。

 この質問に臼井は笑って返す。

 しかし目にも留まらぬ速さで、戸谷宰相は兵士の1人の首をスパッと刎ねた。



「陛下に手を出しておいて、タダで済ませるわけがないだろうが。お前たちの命運は、陛下に牙を向うとしたところで尽きてるんだよ!」


「く クソ! やれ!」


「こっちやれ! なるべく生け捕りにしろ、タダ殺すのは生ぬるいからな。捕まえて拷問をする」



 向かって来る臼井城主たちを、なるべく生け捕りにしろと戸谷宰相は指示を出す。

 温情をかけているわけじゃない。

 タダ殺すのは簡単な事だ。

 しかし殺すだけでは為臣陛下に、刀を向けた事への償いとしては、あまりにも足りない。

 だから捕まえてから死にたいと思うまで、ひたすらに拷問をすると戸谷宰相は考えていた。


 そのまま部屋の中で大立ち回りが始まる。

 だが自分たちの主人である為臣陛下が狙われ怒り心頭である帝国兵たちは、あっという間に敵兵を制圧した。

 部下たちが戦っている隙に、臼井城主は隠し通路に戻って逃げようとしたが、ニッコニコの怖い笑みを浮かべている丈二に捕縛される。



「臼井、こうなる事を覚悟してやったんだろうな?」


「このクソガキが、お前なんぞが国の棟梁になれるか!」


「そうか、それがお前の言い訳で良いんだな? 俺は裏切りを一切認めない。お前が敵として戦っていたのならば、その命を助けてやっても良かった……だが、お前は仲間になってから裏切ったのだ。万死に値する!」



 為臣陛下も裏切りには、とてつもなく厳しい。

 どんな理由があろうとも裏切りは認めないので、理由は聞かずに臼井城主を拷問の後に死罪を言い渡した。

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