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029:武士道の模範

 殿下が率いて戦っている帝国軍は、敗走していった根室軍の背を打った。

 もう戦意を失っている人間たちを攻めるのは容易だ。

 投降して命乞いをする兵士たちもいるので、その者たちは殺さずに捕虜として捕える。

 しかし郡長や根室県の知事は、そうはいかない。

 生け捕りにして根室県の県庁である根室城に入る。

 もう既に根室県は降伏しているので、これ以上の虐殺は殿下の為臣という名において禁じられる。


 根室城に入場した殿下は、知事室に向かう為、廊下を歩いているが執事やメイドたち使用人が怯えている。

 自分たちは皇族に反逆した一族の使用人だからだ。

 殿下が来るとだけ話を通されているので、顔を上げられず殿下が10歳である事を忘れる。

 そんな中で1人のメイドが顔を少し上げた。

 すると殿下と目が合った。

 優しい笑みで敵意がない事を殿下は伝える。

 メイドの顔から少し恐怖の色が消えた。



「為臣さま、こちらが知事室です」



 ここが知事室であると幸政は案内する。

 まだ油断できないと丈二は、刀を持って殿下の周りを警戒するのである。

 幸政がドアを開け頭を下げながら殿下が入るのを待つ。

 部屋に入る為に入り口に向かって歩いて行き、幸政の近くでピタッと殿下は止まった。



「幸政、郡長たちと知事を連れて来い。もちろん何をするか、分からないから縄で縛ってな」


「は! 承知いたしました!」



 これからについて知事と郡長に伝える為、部屋に連れて来いと言ったが、まだ諦めていない可能性がある。

 その為、一応拘束したまま連れて来るように指示した。

 幸政は頭を下げていたが、さらに頭を下げてから拘束してある知事たちを迎えにいく。

 殿下と丈二は、ひと足先に知事室に入った。

 そして疲れたと殿下は、知事の椅子に座る。



「丈二、戸谷のところに早馬は」


「もう出しております! 向こうからの伝言も聞いてくるように伝えておりますので、しばしお待ち下さい!」


「さすがは丈二だな」


「いえ! 殿下の為でしたら、命は惜しくありません!」


「止めてくれ、このまま生きて仕えてくれ」


「はい! 承知いたしました!」



 心酔している殿下に、そこまで言って貰った丈二は嬉しくて目をキラキラさせる。

 殿下はフフフフッと笑った。

 数分間の休憩を取っていると、部屋のドアがコンコンコンッと3回のノック音が聞こえる。

 殿下は「入れ!」と許可をした。

 ドアが開くと、まずは幸政が頭を下げている。



「殿下、失礼致します! 戦犯たちを連行しまして!」


「そうか、ご苦労だったな。俺の前まで連れて来い」


「は! 承知いたしました!」



 知事と郡長たちは殿下の前に連れて来られる。

 連れて来られた瞬間、殿下は何も喋っていないのに郡長の1人が「い 命だけは!」も命乞いをして来た。

 すると他の4人の郡長も「ずるいぞ!」と1人に続いて命乞いをし始める。

 殿下は「はぁ…」と溜息を吐いた。



「殿下の前で惨めな命乞いなどするな!」



 あまりの体たらくに丈二が、殿下の前で惨めな命乞いなどするなと叱責した。

 これに郡長たちは「くそ…」と黙って俯く。

 殿下は黙ったのを確認してから殿下は「ふぅ」と息を吐いてから話し始める。



「それで今の状況は、お前たちも理解していると思うが。何か言いたい事はあるか? 少しだけ聞いてやる」



 このままでは普通に知事を合わせて5人とも斬首になるので、何か言いたい事はあるかと殿下は聞いた。

 少しの間は黙っていた郡長たちだったが、最初に命乞いをした男が「私たちはやらされたんです!」と言い放つ。

 また始まったかと丈二は思って叱ろうとした。

 しかし殿下が手で制し「続けろ」と指示する。



「やらされたというと? どういう意味だ?」


「ち 知事が独断で、殿下の帝国との戦争を決め、私たちには兵を出せと!」


「そうです! その通りです! 我々は知事に無理やり兵を出せと脅されたんです!」



 郡長たちは醜く全ての責任は知事にあるから、自分たちには責任が無いと言って来る。

 確かに戦争を決めたのは知事なので、知事は「くっ!」と何も言えずにいる。

 殿下は溜息を「はぁ…」と吐く。

 しかし1人だけ命乞いをしていない人間がいた。

 それは幸政の元主人である水城郡長だ。

 殿下は視線だけを、その水城郡長に向け「お前はどうだ?」と端的に言いたい事はあるかと聞く。



「自分はありません。確かに戦いを決めたのは知事ではありますが、それを主人のせいにする家臣がどこにいるというのですか」


「ほぉ? お前は斬首になっても構わないと?」


「はい、とっくに死ぬ事は覚悟できています。しかし私の納める郡の民の命だけは保証してもらえ無いでしょうか。それだけして貰えれば斬首でも絞殺でも銃殺でも、死に方は選びません!」



 自分の命も主人の命も救えない事は理解しているから、せめて民だけは助けて欲しいと頼んだ。

 その姿勢に殿下は目を丸くして驚く。

 まさかここまで死を潔く受け止めている人間が、この根室県にも居たのかと思った。

 これに殿下は「ふっ」と笑う。



「貴殿の気持ちは受け取った! 死罪を避ける事はできぬが、貴殿も知事だけは斬首を免除しよう」



 殿下は知事と水城郡長に対し、斬首は免除すると宣言したのである。

 これに他の郡長は「は!?」と困惑する。

 どうしてなのかと醜く泣き縋りながら殿下の足元に擦り寄ってくるが、殿下はそんな郡長たちを蹴り飛ばす。



「いざとなったら主人を売るような人間たちに、生き残る権利は無い! お前たちは民や主人の命よりも、自分の命が可愛いのだろう? そんな人間を助けるつもりは一切ない!」



 裏切られた経験のある殿下からしたら、こんなにも民や主人の事を考える人間を素晴らしく見える。

 その為、斬首による死罪を回避させた。

 そして殿下は椅子から立ち上がると「コイツらの斬首は即刻おこなう!」と宣言した。

 郡長たちは泣き叫びながら運び出される。

 残ったのは知事と水城郡長だけ。



「貴殿らの死罪を回避させる事はできぬが、名誉を守る為に明日の昼に切腹を命じる! 水城郡長の介錯に関しては幸政が務めろ。そして切腹後の遺体は、直ぐに整え遺族に引き渡す事にする!」



 殿下は2人の名誉を保ちながらの死罪という事で、2人には切腹を命じた。

 そして水城郡長の介錯人には幸政が選ばれる。

 それだけでは無い。

 切腹した後は綺麗にした後に、遺族へと返還すると2人に約束をするのである。

 まさかそんな対応をされるとは2人とも思わなかった。

 紐で縛られているので、手をつく事はできないが額を地面に着けて感謝を伝える。

 殿下はニコッと優しく微笑む。



「幸政も辛いと思うが、お前の元主人だ。しっかりと素晴らしい最後にしてやれ、分かったな?」


「はは! 殿下のお心遣い痛み入ります。殿下の家臣になったとは言えども、殿下のお気遣いに泥を塗らぬよう精一杯やらせて頂きます」


「そうか、その覚悟なら問題ないだろう。信頼しているからな、しっかりと最後を飾ってやれ」



 殿下の心遣いに感銘を受けた幸政は、深々と頭を下げて泥を塗らないように精一杯やると宣言する。

 幸政の覚悟の顔を見たら、問題ないだろうと殿下は知事室を後にし休む為に個室へと向かった。

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