027:鳴り響く轟音
幸政は目を瞑っていたので、どうしてチャキンッという音が鳴ったのかと疑問を持つ。
しかし手応えからして斬れてはいないのは分かる。
恐る恐る目を開けてみると、丈二が自分の刀で幸政の刀を止めていた。
これに幸政は「え?」と言葉を漏らす。
どうして止めているのかが、自分には分からなかった。
「丈二、幸政の一撃はどうだ? 臣下を殺すだけの一撃だったか?」
「はい、確かに当たっていたら首が飛んでいました」
「そうか、それなら良いんだ」
殿下は刀を受け止めた丈二に、今の一撃はどうだったのかを聞くのである。
しっかりと言われた通り、臣下を殺す勢いだと伝えた。
それを聞いて殿下は安心する。
幸政はカチカチに体が硬直したまま「こ これは?」という風に恐る恐る聞いた。
「少し前まで敵だった人間を、そう易々と信じるわけにはいかないだろ? だからお前を試させて貰ったんだよ、臣下を殺せるだけの覚悟があるのかってな。しかし本当に殺すとなると、せっかくの戦力を落とすわけにはいかない」
「そういう事だったんですね、納得できました……」
「しかしこれだけで信じるわけにもいかない。お前には兵を率いて、最前線で根室県と戦って貰う」
「それで勝利を収める事ができたら、殿下に信用して貰えるという認識で良いでしょうか?」
殿下に忠義を示す為に、臣下を殺せるかのテストだ。
だがこれだけでは、全てを信用するわけにはいかないと殿下は言って、もう1つ課題を与える。
それは最前線に立って兵を率いろという指示した。
もしもそれで勝利する事ができれば、自分の事を信用して貰えるかと聞いた。
殿下は「あぁ一応な」と答える。
それを聞いて幸政は少し安堵した。
「報告いたします! 根室軍、向かいに布陣しました!」
兵士が殿下たち帝国軍の向かいに、根室軍が布陣したという報告を行なった。
これに殿下は「遂に…か」と呟く。
殿下は陣床几から立ち上がって「開戦だ!」と叫ぶ。
兵士たちは「は!」と叫び、各自の持ち場に向かう。
帝国軍の布陣は鉄砲隊100人を前線に置く。
その後ろに左翼・右翼200人、中央300人、殿下が控える本陣200人の1000人で布陣する。
向こうは鉄砲隊などおらず、左翼・右翼に加え中央に150人ずつ配置し、本陣に200人で布陣した。
殿下は太鼓持ちの兵士に、目を見てから「うん」と頷いて合図を出すのである。
すると太鼓持ちの兵士が、ドン・ドン・ドンと一定の間隔で太鼓を鳴らし始めた。
兵士たちは、ゆっくりと敵に向かって歩き出す。
そしてドドドドドッと速いテンポで鳴らした。
開戦の合図である。
根室軍は一気に帝国軍に向かって突撃する。
それに対し帝国軍は、鉄砲隊が最前線に布陣しているので、ジッと動かずにいるのである。
鉄砲隊の号令をするのは、殿下に任されている幸政だ。
もしもの時の為に親衛隊長を任せられている丈二が、ジッと監視をしている。
「まだだ、まだ引きつけろ」
鉄砲隊が手にしているゲベール銃は、そこまで命中率は良くないので、限界のギリギリまで引きつけるのが定石。
その為、幸政は限界まで敵兵を引きつけようとする。
さすがに引きつけすぎでは無いかと、丈二が幸政への疑念を抱いた瞬間。
幸政は手を挙げ「撃てぇ!」と叫んだ。
指示通り鉄砲隊は銃撃を開始する。
銃口から放たれた無数の銃弾は、向かって来ている敵兵の体を貫いていく。
撃たれた敵兵の体は、ブルンッと左右に揺れてから地面にドサッと倒れて行った。
普通の人間なら目を覆いたくなる光景だ。
根室県の兵士たちは銃なんて持った事ないし、戦いの経験こそ数える程度しかない。
その為、後ろに控えている第二陣や第三陣の兵士たちは恐怖で突撃の足を止めてしまう。
「今だ! 左翼と右翼を敵軍を、囲うように突撃しろ!」
幸政は敵兵の足が止まったところで、帝国軍の左翼と右翼を進軍させる。
ただ真っ直ぐ前に進ませるわけじゃ無い。
左右から挟み込むように進軍させるのだ。
ゲベール銃の攻撃力と音に恐怖し、死ぬかもしれないという戦争中に最も考えてはいけないタイミングで、自分たちを囲むように進軍して来る。
これ以上の恐怖は無いだろう。
根室軍の兵士たちは、自分たちのところに帝国軍がやって来る前に敵前逃亡を開始した。
「殿下っ! 敵軍が逃げていきます!」
「雑魚は良いから郡長や敵将だけを狙って捕らえよ! 敵前逃亡するような人間たちは、窮鼠猫を噛むような事も無いはずだ! 指揮は幸政に取らせろ!」
「は はい!」
ここでまんまと逃しては、後が面倒になる。
敵将と郡長たちだけでも討ち取ったり、生け取りにしておきたいところである。
根室軍の背を討つ指揮も幸政に任せた。
大和帝国列伝によると為臣殿下の初陣となった根室県との戦いは、たったの35分という圧勝で決着が着いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戸谷郡長とカムイリアンの族長・太陽は、根室軍との戦いに向かった殿下たちとは別働隊で、北見県から侵攻してくる北見軍を網走郡津別町に布陣し迎え撃つ。
帝国軍1000人にカムイリアン軍2000人の合計3000人で、北見軍2000人と戦う。
数としては1000人、帝国軍の方が多い。
「為臣殿は大丈夫なのか? 初陣なのだろ?」
「心配ご無用です! 確かに経験値で言えば、私の方があるでしょう。しかし兵を率いる将となれば別です! 彼の方は、遥かに私よりも才覚があります!」
「そうか、最も近くで為臣殿を見ている貴殿が言うのならば心配する必要は無さそうだな。我らは我らの戦いに集中しようじゃないか!」
「えぇ殿下の初陣に泥を塗るわけにはいきません。ここでの完勝を殿下にお届けするんです!」
こんなにも殿下の事を信用して、全く動揺していないように見える。
しかし心の内では、言葉とは真逆な心境だった。
早く殿下の下に戻りたい。
危険じゃないかなぁ。
あまりにも過保護のように、殿下の事を考えているが表情や言葉には出さず我慢している。
だが今にでも飛び出したくてウズウズしていた。
「戸谷殿? 大丈夫か?」
「え!? あ はい、大丈夫です……すみません、少し考え事をしていました」
「そうか、なら良いが。どうやら貴殿は……本当に為臣殿が、お好きなようだな」
「え!? い いや! そういうわけじゃないって事も無いですけど」
どうやら太陽は、殿下の事を密かに想っている事に気がついていたみたいだ。
集中していないというわけにもいかないが、殿下を想っていないというのも失礼。
なんとも言えない空気になる。
しかし戸谷郡長は「慕っております!」と言い切ってから、頬を叩いて「早く終わらせましょう!」と宣言した。
何かが吹っ切れたのだろうと太陽は、フッと優しく笑ってから「あぁ」と返す。
「報告いたします! 北見軍、向かいに布陣しました!」
「分かった……遂にやって来たんだな。太陽殿、パパッと終わらせて城に帰りましょう!」
「あぁ為臣殿から、たんまりと褒賞を貰おうじゃないか」
北見軍が到着したと、戸谷郡長たちは報告を受ける。
しかも勝つだけではなく、パパッと戦いを終わらせて城に帰ろうと2人は笑う。
北見軍との〈津別の戦い〉が始まる。




