024:明日への握手
殿下はカムイリアンの里を訪れてから日を改め、太陽たちを釧路城に招き入れるのである。
族長である太陽が同盟を決めたとはいえ、まだ危険だという人間たちがいるので、護衛に猛者を30人引き連れて来る事を許可して貰った。
その中に殿下の天幕を襲った2人が居た。
「先日は知らずとはいえ、失礼いたしました……ほら、伊万も謝れ!」
「ずびまぜんでじた」
「いや、気にしていないから忘れてくれ。それよりも驚くほどに強かったな」
「はい、強くなくては部族の戦士長ではいられません」
殿下を襲った2人。
1人はカムイリアンの戦士長《是乃》。
2人は2メートルを超えている巨漢で、是乃戦士長に次ぐ副戦士長《伊万)である。
知らないとはいえども襲ってしまった事を謝罪した。
殿下は2人の謝罪を受け取る。
その上で凄まじく強かったと殿下は、2人に駆け寄って強さについて聞くのである。
強くなくては部族の戦士長は務まらないと語った。
「それじゃあ為臣殿、同盟について協議しよう」
「あぁもちろんだ、しかしその前に頼みたい事がある」
「頼みたいこと? 聞こうじゃないか」
太陽は同盟を決める席に着席し、早速同盟を正式に結ぼうと微笑みながら語った。
もちろん結びたいと殿下も向かいの席に座る。
すると正式に同盟を結ぶ前に、1つ太陽に頼みたい事があると殿下は頼んだ。
真剣さを感じる表情から太陽も真顔になる。
どんな事を頼んでくるのかと、シーンと神妙な雰囲気の中に雷が鳴ったかのように緊張感が走った。
「太陽殿には、俺のお目付役を担って頂きたい。俺が独裁者になる兆しが見えたら意見をし、それでも独裁者になったら軍を率いて討伐して貰いたい!」
「それは本気で言っているのか? 私が帝国人を恨んで、お前に牙を向いたらどうする?」
「確かにその可能性もゼロとは言えないだろう。しかし俺は、それでも貴殿を信用している! 頼む、お目付役を引き受けて貰えないだろうか!」
お目付役を引き受けて欲しいと頼まれた太陽は、目をカッ開いて奇跡を見るかのように驚いている。
それもそのはず。
普通なら自分を恨んでいた人間を警戒し、そこまで権力を与えないものだ。
しかし殿下は違った。
太陽を信頼し、自分を咎める立場を任せたのだ。
これに太陽は本気で言っているのかと、再確認するが殿下は裏切る可能性があるのは理解した上で、だからこそ信用して大役を任せたいのだと語った。
この瞬間、太陽は自分の中にあった腫れ物がスッと取れたように感じる。
フッと笑みを溢してから「引き受けた!」と宣言した。
殿下は「感謝する!」と一言だけ感謝を述べた。
「それでは私が見届け人として、大日皇和帝国とカムイリアンの同盟を結ばせて頂きます!」
大和帝国列伝によると大日皇和帝国と、カムイリアンは西暦2118年8月17日釧路城にて同盟を結んだ。
皇族の殿下とカムイリアンの太陽の握手は、これから新しい国になるのではないかと皆に思わせる光景だった。
その場にいる人間たちは拍手をして与える。
伊万だけは皆と同じ時に拍手はせず、皆んながしているから遅れて拍手をした。
「本当でしたら、このめでたい記念に宴会などをしたいところですが。まだ我らには、それをやる余裕はありませんので、これからについて話し合いをしようと思います」
ひと段落ついたところで、戸谷郡長はめでたいからパーティをしたいが、そんな余裕はないと周知させる。
殿下たちも「うんうん」と理解しているので頷く。
ここからはこれからについての話し合いだ。
「太陽殿、貴殿たちカムイリアンからは、どれだけの兵士をお借りできるのだろうか?」
「我らからは3600人は出せるだろう!」
「そんなにか! ならば大日皇和帝国からは2000人と合わせれば5600人か!」
なんとカムイリアンからは3600人も兵士を出してくれるというのだ。
これに大日皇和帝国の兵士2000人を合わせれば、かなりの勢力となり得る。
殿下は興奮してテーブルを叩いてから立ち上がった。
我に帰った殿下は顔を赤くしてから、ゴホンッと咳払いをして席に座った。
「それでこれからどうするべきだと思う? 兵士は増えたが、極力は戦うのを避けるべきだ」
「えぇ殿下の言う通りです。まずは敵対しそうなところを洗い出したいところですが、確実に敵対すると思われているのは2つですね」
「確実に敵対か。それはどこだ?」
「はい、そこは北見県と石狩県ですね」
戸谷郡長が必ず敵対するだろうというところで挙げたのは、北見県と石狩県の2つだった。
それ以外はどちらに着くのか。
それとも独立という方向に進むのか、決めかねているだろうという事だった。
「その2つは脅威になり得るのか?」
「北見県は兵力で言えば我らと同じくらいでしょう、しかしカムイリアンが加勢してくれる事が決まった今では、とてもじゃありませんが相手になりません」
「そうか、ならば石狩県はどうだ?」
「石狩県ですか……その兵力は約6万5000ほど」
北見県とは比較にならないほどの圧倒的な差に、殿下たちは「はぁ!?」と声を上げる。
自分たちはカムイリアンの勢力を合わせたところで、最大で5600人くらいだ。
その差は10倍以上である。
さすがの差に殿下は、頭を抱えて悩む。
「その兵力さを補うだけの策はあるか?」
「さすがにどれどけ策を練ろうと、石狩県に勝利するのは難しいところでしょう。それならまずは北見県を落とし、道東を平定してからの方が良いかと思います」
「確かにそうだな、やり合うだけの力を付けてからっていう事だな? それで行こう!」
どれだけ作戦を立てたところで、今のままでは石狩県に勝利するのは難しい。
ならば先に道東を平定して力を溜めてから戦うべきであると、戸谷郡長は殿下に進言する。
殿下もそれしかないだろうと納得した。
これからは北見県に焦点を当てて作戦を組み立てる。
「まずは帝国軍1000人と、カムイリアン軍1000人で常呂郡の置戸城を攻めよう! そうなれば向こうも本軍を動かさざるを得ない。そこでこちらは全軍を出し、徹底的に北見軍を叩きのめす!」
「さすがでございます! それならこちらの被害も最小限に済ませる事ができましょう!」
殿下は自分の考えた作戦を皆の前で話した。
確かに筋が通っていて、普通に戦うよりも帝国軍の被害も少なく収まるだろう。
戸谷郡長は、その作戦で行こうと背中を押した。
太陽たちも「それで構わん」と納得してくれる。
これなら殿下の初陣は上手くいきそうだと、誰もが思っていた。
しかしそんなタイミングで兵士が、会議室の扉を勢いよく開けて入って来た。
「ほ 報告いたします! 北見県と石狩県が同盟を結び、各軍が帝国に向け進軍を始めました!」
『な なにぃ!?』
このタイミングで北見県と石狩県が軍事同盟を結び、各軍が大日皇和帝国に向けて進軍を開始した。
いきなりの事で会議室の人間たちは、先を越されたと驚きと共に悔しさが滲み出る。
どうするべきかと殿下たちは頭を悩ませる。
この戦いは後に〈道東戦争〉と呼ばれる戦い。
そして殿下の初陣となる戦いだ。




