021:カムイリアンの太陽
殿下は天幕のようなところで目を覚ました。
どうなっているのかと起き上がって状況を確認しようとしたが、どうやら手と足を縄で縛られている。
ならば顔を動かして調べようと動く。
すると周りの状況を見た殿下は「げ!?」と溢す。
それは殿下の左右に、アイヌ民族の衣装に身を包んだ人間たちが列を作っていたのだ。
この状況を見て、全てを理解する。
誘拐された上に今、自分はカムイリアンの族長の天幕に連れて来られているんだろうと悟った。
「族長のご入室である!」
列を作っているカムイリアンの1人が、族長が入ってくると宣言されたのである。
殿下はゴクンッと固唾を呑んで視線を入り口に向ける。
ゆっくりと天幕の入り口の布が開かれた。
カムイリアンの人間たちは、バッと頭を下げた。
そして族長と思われる人間が、入り口に立っているのが見えたが、どうにも逆光でシルエットしか見えない。
少しの間を置いてから族長は、ゆっくりとカムイリアンの玉座に向かって歩き出す。
カムイリアンの玉座は動物の骨で作られている。
族長は玉座の前に立つと少しの間、立って殿下の事を見下している。
この瞬間、殿下は族長の顔がよく見えた。
そして顔立ちで色々な事を察知し驚くのである。
そうカムイリアンの族長は女性だった。
殿下が族長の性別に驚いているのを横目に、族長はゆっくりと玉座に腰を下ろす。
ゴホンッと咳払いをしてから族長が喋る。
「我はカムイリアンの族長《釈 太陽だ。貴殿が、あの軍の指揮官で間違いないか?」
「あぁ俺が、あの軍の指揮官だ」
「あまりにも若いが故に違うと思っていたが……そうか、貴殿が指揮官だったか。ならば貴殿らは、どうしてこの地に軍を差し向けた? まさか我らと戦おうというわけでは無いだろうな?」
太陽は、まず殿下に指揮官である事を確認する。
その答えに間違っていないと答えると、殿下が幼いが故に何かの間違いだと思っていた。
しかし本当であるなら仕方ないと、太陽は殿下に何用があって軍隊を差し向けたのかを聞く。
まさか戦う気じゃないかと殺気を放つ。
これに殿下は首を横に振って「違う」と意思表示する。
「ならば何用があって、この地に兵を動かしたのだ! これが攻撃以外に何があるというのだ!」
「落ち着いてくれ! 俺たちは、貴殿らに危害を加える気など毛頭ない!」
「攻める気が無いなら、どうして兵を進めた? 兵を動かしておきながら敵意が無いなど、信じられぬ話だ!」
「それもそうか……ならば単刀直入に言おう! 俺がここに来た理由は、貴殿らと同盟を結ぶ為だ!」
太陽たちカムイリアンは、殿下の口から同盟なんて言葉が出てくるとは思わず、口を開けて言葉を失う。
シーンッという音が聞こえるくらい静まり返った。
そして次の瞬間、この部屋にいるカムイリアンたちは地響きがするくらいの声量で大笑いする。
「はははは! お前のようなガキと同盟だと? それは何の冗談だ?」
「冗談なんかでは無い、本気で貴殿らと同盟を結ぶ為に足を運んだのだ。決して子供の戯言では無い」
「ならば尚更、滑稽な笑い話だ。どうしてお前のようなタダのガキと同盟を結ばなければいけない! どこかの御曹司かは知らないが、ガキはさっさと帰って母親のミルクでも啜ってるんだな!」
どれだけ殿下が、本気で同盟を結びに来たと言っても太陽たちは、全くもって信用してくれない。
そりゃあそうだ。
目の前にいるのは、ただの10歳の少年に見える。
まぁアレだけの兵士を連れてきているのだから、ただの男児だとは思っていないだろう。
少なくとも貴族の御曹司だと思っているはずだ。
「確かにガキなのは自分でも分かっている。しかし立場だけで言えば……大日皇和帝国の皇帝を拝命している」
「なに? 大日皇和帝国の皇帝だと? 確か大日皇和帝国の皇帝と言えば、大和帝国の生き残りの皇子だと聞く……まさかお前がそうだというのか?」
「あぁ俺の持っていた刀の紋章を見れば分かるはずだ」
太陽たちも大日皇和帝国の存在を知っていた。
そしてその皇帝に即位したのが、亡国に近い大和帝国の皇子であるという事も耳に入っている。
そんな人物が、こんなガキなのかと疑う。
いきなり皇族がやって来たと言っても信用されないだろうと、殿下も納得していた。
なので奪われたであろう刀を見れば分かると言った。
何故なら刀には皇族だけが持つ事を許されている菊の紋章が、施されているからである。
「こ これは確かに……本当に帝国の皇子なんだな?」
「あぁ神に誓って、嘘なんて吐いていない」
「そうか、それは早とちりするところだった」
「ならば!」
「しかし! 貴殿の申し受けを断る事には変わりない」
やはりキッパリと断ってきた。
ここまでは殿下も予想していたところだ。
どうにか力を貸して貰えるところまで持っていくのが、殿下の腕の見せ所だと言えるだろう。
「タダで同盟を組んでくれと言っているわけじゃない! 皇族である俺が、貴殿らカムイリアンの集落を単一国家として認める宣言をする! その上で大日皇和帝国と同盟を結んで欲しいのだ!」
「ほぉ? それは確かに魅力的な話だな、我らのような人間たちを国として認めてくれるとは。さすがは皇子さまと言ったところか、懐が深い」
「おぉ! 引き受けてくれ……」
「だが断る! 貴殿は何か勘違いをしていないか? 我らが大和帝国の国民から、どれだけの仕打ちを受けてきたのか。それが理解できた上で、こんな発言をしているのならば、貴殿とは価値観の相違が甚だしい」
良い感じで理解してくれたので、殿下は同盟を引き受けてくれるのかと思った。
しかし太陽たち、カムイリアンの恨みは深いわけだ。
太陽としては自分たちの蟠りがあると知っていて、国として認めると言われただけで同盟を組むと思われていること事態、価値観の相違があるという。
「確かに大和帝国の国民たちが、何をして来たのかというのは俺には計り知れない事だ。そもそも俺が生まれる何十年前から苦痛の受けているんだ、それを理解できると言ってしまう方がマズイと思う」
「ほぉ10歳にしては、随分と思慮深いじゃないか。それでも残念だったね、私たちの恨みと怨念を貴殿にぶつけさせて貰おうじゃないか」
「本当に、俺を殺して良いのか? 本ん当ぉに、俺を殺しても後悔しないのか?」
せっかく苦痛を与えられて来た大和帝国の国民の代表的な人が、目の前にあるのだからぶつけさせて貰うと話す。
これに殿下は落ち着いた顔で、本当に殺して後悔はしないのかと太陽たち、カムイリアンに問うのである。
殿下のセリフを聞いて太陽は「へっ」と鼻で笑った。
自分の命が、そんなに惜しいから言っているのかと、太陽は殿下を小馬鹿にする。
「バカにしないで頂こう。誇り高き天皇家の末裔である、この俺が命が惜しいわけないだろ。かの昭和天皇のように、この国の国民を助けられるならば……俺の命を投げ打って差し出そう!」
「ならば何故、殺そうとした時に殺して良いのかと聞いとくるのだ! それが生きたいと浅ましく命乞いをしているという事では無いのか!」
「決して違う! この俺の命は帝国国民の命、そして貴殿らを生かす為に、守らなければいけないのだ!」
殿下の主張に太陽たちは、何か釈然としないでいる。
死んでも良いと言っているのに、どうして殺して良いのかと言ってくるのか。
そこの矛盾が理解できない。
しかし殿下の思いは1つ。
この国の人間たちを守る為の想いである。




