第五百二十二話:カルト宗教を追え
朝のストレッチや型稽古をして朝食を食べた後、ブラン・ロゼへと向けて出発する。内容のことがあるので一旦、ポカルとフクちゃんはお留守番だ。ブラン・ロゼの拠点の屋敷へ到着すると朝稽古をしていた千早が迎えてくれた。
「おはよう、早いのね。叶【浄化】をお願いできる?」
「はいはーい。【星女神の洗浄】」
「便利ね……紬の【紋章】でも似たことはできるけど、精度が違うわ。それにしても丁度良かったわ。私達も伝えたいことがあったの。今日も紬が生産班と船の改修をするらしいからその時に伝えようと思っていたんだけど、そちらから来てくれたのね」
綿の簡素なシャツと動きやすいカーゴパンツ姿の千早が体を確認して感心していた。
とりあえずこちらの要件を伝えよう。
「不確かなことをポカルに聞かせたくなかったんだ。彼女の家族を攫った『赫竜の宿願』について何かわかったのか?」
「えぇ、中で入って話しましょう。でもまだ留美子は戻ってないの。あの子、今回はかなり頑張っているみたいだから……」
「無理させてしまったかな」
「い、色々あるのよ。いいから入りなさい」
顔を赤らめて叫ぶ千早。何か気に障ることを言ったらしい。屋敷に入ると前に来た時より人は出払っているようだ。執務室へ入ると作業着姿の紬さんがすでに街の地図を置いていた。こうしてみるとどこかのマフィアの女ボスみたいだ。
「……紬、聞いてたわね。趣味悪いわよ」
「屋敷の防犯上必要なことだよ。それに話は早い方がいい。早く帰らないとポカルが怪しむだろう。現在わかっているカルト教団『赫竜の宿願』の拠点や集会所の候補だ。昨晩に留美子から届いた新鮮な情報だよ」
僕ら全員が椅子に座ると、地図の横に日本語で書かれたメモが数枚並べられファスやトアが訝し気な顔をした。
「僕等の故郷の文字だ」
「この世界だと広まってないんだよね」
僕と叶さんにとってはちょっと懐かしい感じすらする。
「複雑な文字ですね。アマウントでも少しだけ確認しましたが……」
「ちょっと興味あるけんど、今は説明が先だべな」
ファスとトアの言葉に紬さんが頷いて、懐から万年筆を取り出す。
「では、始めよう。彼等はマーマンを中心に活動している宗教組織だ。活動については我々が転移された時期から少し後……二年ほど前から確認されている。当初はかつてマーマンが持っていた『竜信仰』を伝える一団だったが、次第に勢力を強め今はここノーツガル自治領に置いてマーマンの間で急速に広まった。竜に対する物事は場合によってはラポーネでは禁忌とされていることは知っているだろう。その為表立っては活動せず水面下で広まっている。そのせいか随分と調査に時間がかかっているのだよ。拠点の情報も昨晩の連絡でわかったばかりだ」
横で腕組みをしていた千早が会話を引き継ぐ。
「実際、私達も貴方達からの連絡があって調査を始めたくらいだしね。でも調べるとかなりヤバイ団体よ。信者を増やす為に乱暴な手段を使っているようだしね。急速な拡大の背景には違法薬物を使った資金調達があったみたいね。ただ、薬物については全く正体不明で騎士団も証拠を押さえられないみたいよ」
「……証拠のない違法薬物か。覚えがあるな」
頭を抱えたくなる。ファスが深刻な表情で続けた。
「そうですね。砂漠のグランドマロでカルドウスの一派が使用したものなら、正体は呪いです。適当な嗜好品に呪いをかければ薬物として使用でき、証拠もほとんど見つけられません。そして薬物の流布が末期に達すると砂漠で起きた様に【異界化】に伴う【魔物化】が起きる危険があります」
「あの地獄は思い出したくないわね」
千早が呻き全員が頷く。この場にいる全員にとって苦い記憶だ。何せ魔物化した人間を相手に戦うことになってしまったのだから。紬さんがクルリと万年筆を回して、トントンと地図を叩く。
「我々もその考えに至ったが、少なくともこの町でそんな大がかりな仕掛けは見つけられてないよ。留美子もあくまで資金調達の目的で薬物を使用しているという調査結果をよこしている。地脈の混乱によるダンジョンの対応で騎士団の目が届きにくくなった地方を中心に薬物を使って金を集めているらしい。そして金の流れは『赫竜の宿願』の本拠地があると噂されるこの街へ集まっている。このメモはその金の流れを追ったものだね。さて、ここまでわかった以上、真也達も何もしないわけにはいかないだろう?」
「うん。僕等でも動くよ。これだけわかれば十分だ。できたら日野さんと合流したいけど……」
「それならここへ行くべきだね。街の北西、浮島の貴族達へ物資を共有している物流の拠点だ。留美子は今ここを調べているから。ファスさんがいるなら近づけば合流はできるだろう。人攫いやポカルが聞いたと言う『竜の巫女』については今だ調査中で、他の隠密班の調査待ちだね」
「渡せる情報は以上ね。役に立ったかしら?」
地図については持ち運ばずこの場でファスに覚えてもらうのがいいだろう。それにしても予想以上の収穫だ。
「十分だよ。ありがと千早ちゃん、紬ちゃん。真也君、どうする?」
「いくつか候補があるなら他の場所も調べられるよな。僕も行くべきか迷うけど……」
カルドウスが出てくるなら急ぐべきだが、今はポカルから目を離してはいけない気がする。
これまで何度かあった不思議な確信がそこにあった。たまにあるんだよな。この変な直感、前回はいつだったか……そうだ、大森林でエルフの将軍にトアの料理を食べさせた時か。
「昨日話した通りに動こう。ファス、トア。フクちゃんと合流して調査をして欲しい。僕と叶さんは船で待機だ。何かあったらすぐに動けるようにはしておこう」
そりゃもう、いつだって殴り込みには行ける心づもりだ。実際ネーネさんの無事と相手の本拠地がわかればそうしているんだけど。
「お任せください。私達で必ずや人攫い達の尻尾を捕まえてごらんにいれます」
「オラもその方がいいと思うだ。全員で船をあけるとポカルが気づいて一人で動こうとするかもしれねぇだ。感情的になって街中で【死霊術】を使えばポカルは狙われてしまうだよ」
ファスとトアもやる気のようだ。横から聞いていた紬さんが立ち上がる。
「では、私は真也と幽霊船へ行こうか。上手くいけば改修は今日中に終わるだろう」
「……紬、あんたちょっと真也のとこ行きすぎじゃない?」
千早がジト目で紬さんを睨むが本人は素知らぬ顔で。
「これは我々に協力してくれる真也への正当な報酬だよ。ブラン・ロゼとして必要な業務だ。千早はダンジョンの攻略についての準備をしておいてくれ」
と言って僕の腕を抱く。
「じゃあ、反対は私ね」
叶さんまで悪乗りしてくるし。まぁ、うん、大変柔らかい感触であったりするので嬉しくはある。
「ちょっと、二人共他の子もいるのよ!?」
「締まらないなぁ」
なんならファスも冷めた目でこちらを見ている。
「私、船に待機した方がいい気がしてきました」
「まぁまぁ、しっかり手柄を上げればご褒美も期待できるだよ」
こうしてこの日の予定が定まったのだった。
説明で一話使うとは……次回はファスとトアという意外と珍しい二人視点で調査します。
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