第五百二十一話:皆で夜食
ひと泳ぎして落ち着いたのか、元の船の形になったルモテイラに普通に操船されて港へ戻る。時刻は深夜。こうしてみると月灯りってのはしっかりと明るくて周囲も見渡せる。穏やかな潮風が心地良い。
「ファス、一応確認だけど。マーマンとかに見られていないよな」
「常に周囲を警戒していましたが、見られていないと思います。フクちゃん、何か感じましたか?」
(なんにもー)
フードを外したファスの金髪は月光を浴びて輝いている。
「どうしましたご主人様?」
「あぁ、いや。月が綺麗だと思って」
「フフ、そうですね。ですが、少し冷えましたし中へ入りましょう」
馬鹿みたいにボーっとファスを見つめていると、笑われてしまった。
「アニキ、中が広いっす。すごいっす!」
「真也くーん。とりあえず荷物広げたからおいでよ」
「夜食も作っただよ」
他の皆は先に船の中で荷物を広げたり、色々しているようだ。
「今行く。行こうファス」
「はい」
中へ入ると、空間が変わる不思議な感覚がする。外観と内観の広さが違うことに脳が違和感を覚えるような感覚だ。この世界へきてから幾度となく味わった感覚だが、慣れはしないな。
前は船倉と呼ばれる倉庫兼寝床だったが、今はなんとこの船倉部分の下にもう一層できてしまっている。船倉部分も広くなっているので四倍ほどは広くなっているんじゃないだろうか。【転移者】三人がかりでチートを重ねるとこんなことまでできるとは……ブラン・ロゼの生産班のヤバさを実感するな。下の階は完全に居住区にする予定だ。船倉部分から梯子を伝って降りると、僕らが旅で使っているテント用の荷物が広げられ快適な室内になっていた。
「アニキ、すごいっす。こっちの部屋にお風呂があるっす」
「まだ、改築途中で使えないらしいけどな。明日には錬金機械を入れて魔力で湯を沸かせるようになるらしいぞ」
居住区喚の改造はまだ終わっておらず。明日にはお風呂とか冷房設備を紬さんが設置してくれるらしい。
「おぉ、すごい船っす。良かったなルモテイラっ! 世界一の船っすよ!」
ぺちぺちと床を叩くポカル。返事は僕には聞こえないが、ポカルはなんとなく意思疎通ができるらしい。
「さて、夜食だべ。この部屋だと船首楼にあるキッチンから少し遠いのが難点だべな」
トアが器用に片手で運んだ大皿を僕等の前にドンと置く。乗っているのはジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを炒めた料理っぽい。上には刻んだパセリが散りばめられていて味つけのバターと胡椒の匂いがしてめっちゃお腹減って来る。夜食って量じゃないけど、僕等にはちょうどいい。
「市場でいい野菜が手に入ったかんな。貝は仕込み中だから、こっちを食べるだよ。イモの田舎風炒めだべ。いいとこは旦那様にどうぞ」
トアが慣れた手つきで全員に料理をよそってくれた。
「いただくよ。めっちゃ旨そう、いただきます」
「「「いただきます」っす」」
塩胡椒とバター、それに野菜の甘味が交わる単純だけど安心する味だ。野菜は1センチ角ほどで食感もあり食べ応えバツグンだ。肉は入っていないのに、どこか肉っぽい風味もあったりするしどんな調理なんだろうか?
(たべさせてー)
今日のフクちゃんは甘えんぼモードらしい。膝に乗って来たフクちゃんに木匙で料理を食べさせる。
食べ終えるとすぐにポカルが首を揺らして船を漕ぎ始めた。どうやらスイッチが切れかかっているらしい。
「ポカル、寝る前に歯磨きしないといけませんよ」
「……わかったすぅ」
ほとんど寝ているポカルに歯磨きをさせ終わると、立ったまま寝てしまった。
眠らない生活を続けていた反動か、寝るときは一気に眠りに落ちるんだよな。
「今日はポカルはベッドを使えばいい。久しぶりだからゆっくり寝れるだろう」
「私としてはご主人様がベッドで寝るべきだと思いますが……今日は仕方ありませんね」
すでに寝息を立てているポカルをベッドへ運ぼうと持ち上げる。
「んぅ……ネーネ……」
「……」
いつも元気そうにしているが、常にお姉さんのことを思っているのはわかっている。
一緒に市場へ行った時もキョロキョロと何かを探しているようだった。起こさないようにそっとベットの上に寝かせて。皆の元へ戻る。
「寝言でお姉さんのことを呼んでた。……今はブラン・ロゼで日野さんが色々調べてくれているけど、明日は僕らも町でネーネさんを攫った奴らを探そう。A級昇格やダンジョン散策は後回しだ」
「そうですね。近いうちに勇者を中心とする第一、第二王女派閥の転移者も来るようですし、その前にポカルのことを片付けましょう」
皆、頷いてくれる。ポカルが本当に安心できるようにしてあげたいのは同じ気持ちだ。
「それじゃ、明日は手分けして調査かな。一応現状の情報をルミちゃんにもらってから動いた方がいいよね。もしかしたらすでに何か掴んでいるかもしれないし。紬も期待してくれていいって言ってたしね」
「オラも酒場を中心に回ってみるべ。一人は危ないからどうやって分けるかだけんども。旦那様は船番として……どうすっかな」
「え? ちょっと待って。僕は留守番なのか!?」
納得いかないと抗議すると、全員から睨まれる。
「旦那様……昨日、今日と町で目立ちすぎだべ」
「そうですね。聞き込みをする前にマーマンに逃げられそうです」
「というか真也君が町を回れば何か厄介事が起きそう。主に女性関係で」
散々な言われようである。
「ひどくないか。断固抗議したいんだけど」
トラブルメイカー具合でいえば皆だって結構色々あるじゃないか。
「まぁまぁ、落ち着くだ旦那様」
トアが両手を前にしてなだめてくるので一旦クールダウン。ついでにフクちゃんも撫で撫でして心の平穏を保つ。
「でも、実際に一人で回るのが危険な以上、どうやって回るかは大事だよね。色々見て回れるファスさんは確定として、聞き込みに慣れているトアさん。どこでも入り込めて、護衛もできるフクちゃんも必要だよね。そういうのが苦手な私と真也君はどうしよっか? ポカルちゃんは明日も船の改築でいてもらわないといけないし……ぶっちゃけ、ネーネさん探しに同行させる危険もあるしね」
叶さんの言葉に皆して考え込む。ああでもない、こうでもないと話し合って明日のチーム分けを話し合った結果。
「んじゃ、とりあえず明日は皆でブラン・ロゼの拠点で情報を確認して、そこからトアとフクちゃん、ファスと叶さんで動くってことだな。僕はポカルと船番か……まぁ、しょうがないか」
「旦那様は侵入をする時は動くことになるはずだべ。情報収集はオラ達奴隷に任せてデーンと船で構えていればいいだ。ブラン・ロゼとの連携について、勇者達が来た時にどう動くかも確認したほうがいいしな。何かあれば連絡するからそんな退屈でもないと思うだよ」
「トアの言う通りです。いざとなれば、一番忙しいのはご主人様なのですからここは私達に任せてください」
「わかった。船の改築とポカルの方は任せてくれ」
折角時間があるならポカルのことをちゃんと見ないとな。普段は元気そうにしていて気づきずらいが初対面の時から本心を隠すのが上手い子だ。無理していないかちゃんと話すいい機会だろう。
「それでは明日に備えて眠りましょうか」
ファスがそう切り出して皆立ち上がる。ベッドはポカルが寝ているし、スペースはあるが今日の寝床は上の船倉に設置しているハンモックでいいだろう。
「今日はオラが一緒に寝る日だべ」
尻尾を振りながらトアが手を伸ばしてくる。普段はパーティーのお姉さん役だが最近はこういう時と甘えてくれるのだ。しかし、懸念もある。
「トアか……」
「何だべ旦那様、オラじゃ不服だべか?」
「いや、トアはいつもハンモック落ちているからな。一緒に寝ると僕も落ちるし」
「旦那様にしがみつくから大丈夫だべ」
「ご主人様、注意してください。ハンモックでトアの肉に挟まれると窒息しますよ」
ファスから冷ややかな言葉飛んでくるが、トアは素知らぬふりをして舌を出す。
「今日は涼しいからオラの尻尾と胸があったかくてちょうどいいだよ」
「確かに暖かそうだな」
「そうだべ。眠いしさっさと上に行くだ」
こうして少し大きめのハンモックに二人で乗って眠りにつくのだが……。
「グカー、スカー」
「……やっぱりこうなったか」
トアのアグレッシブな寝相のおかげで二人一緒に床に落下する羽目になったのだった。
次回は久しぶりの別キャラ視点です。
ブックマーク&評価ありがとうございます。更新頑張るのでポチっていただけると嬉しいです。
感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






