第五百二十話:幽霊船:ルモテイラ
周囲に迷惑をかけないように河底にマーマンを引き込んで、殴ったり締め落としたりしました。
そうするとなんかマーマン達から怖がれました。逃げるように当初の目的であった造船所で船用の材木を購入した結果……。
「あはははっははは、その大量の材木を背負って海上を移動したせいでさらに怖がれてるって、流石真也君。ぷくくく」
「……なんでこんなことに」
「街では目立たないようにするとか言ってたのがもうだいぶ昔のことに思えるだ」
桟橋の横に置かれた数トンはある材木の小山を見つめる。フクちゃんが完璧に縛り上げたそれを手っ取り早いからとトアとフクちゃんを材木の上に乗せて海上を【ふんばり】を使って運んでいたら、目撃された街の人達にさらに怖がられると言うコンボをくらってしまったのだ。話を聞いた叶さんはお腹を押さえて爆笑している。一方でポカルは本気でわかららないと首を捻っていた。
「そもそも、マーマンが水中でアニキに喧嘩を挑むって無謀すぎるっす。そいつらバカなんすか?」
「マーマンなら人族を水中に引き込むのは間違えてないと思うけど……」
「人族ならそれで正解っすけど、アニキと水中で戦うなんて無理っす」
「……ん? いやポカル。僕は人族だぞ?」
「え? アハハ、そんなわけないっすよ。だって人族が水中で大渦起こしたり、水中を走り回ったり、海底で身体を鍛えたりできるわけないっす。だから、アニキはアニキっす」
「わかってますねポカル。ご主人様はご主人様ですから」
ファスが満足げに頷いている。いや、君らまで僕を何だと思っているのさ。
今度、腰をすえて話し合う必要があるな。と心に誓っていると、紬さんが船からやって来る。改築の準備が整ったのだろうか?
「楽しそうな話をしているね。詳しく聞きたいが、少しアクシデント発生だ。皆、こちらへ来てくれないか。特に、ポカルには見てもらいたい。叶、念のため人払いの結界を頼む。無論、海中にもだ」
話しぶりは穏やかだが表情は固い。全員で顔を見合わせて、すぐに叶さんが広範囲に人払いの結界を張る。船に近づくと船首の髑髏像の目が爛々と輝き、普段は自身を抱くように仕舞われている腕が広げられている。というかまだ日が出ているのに幽霊船状態だ。
「うわぁ」
思わず声が出てしまった。これは不味い。何が不味いってマーマンの文化的には【死霊術士】は禁忌のクラスであるのでこれが港にあることがバレると非常に不味い。ただでさえ、街の評判が変なことになっているいまこのことがバレるともう完全に僕らがヴィランとして扱われてしまう。
「【拡張】術式の準備中に動き出してしまってね。こういうのが苦手なランはあの様だ」
船の前では顔を青くしたランさんが無言でうずくまり、金井さんと渡刈さんに慰められていた。うん、まぁ、怖いよね。
「まだ、明るいのに。なんで動いているっすか? 今ならお話できるかもっす」
ポカルが腰に付けているランタンを手に持って、ゆらゆらと揺らしながら船首に近づく。
『ヴォォ……』
「しゃぁああべっったああああああ!」
髑髏像がうめき声をあげ戸石さんが悲鳴を上げる。ファスが杖を構え、叶さんもいつでも徐霊ができるようにワンドを構えた。ポカルが近づいてフムフムと頷いてトテトテと僕の元へ寄って来る。
「えと、なんかアニキの舎弟になりたいみたいっす」
「「「は?」」」
皆で疑問符を浮かべる。舎弟? どういう意味だ?
「アニキのおかげで楽しい航海ができたから、成仏してもいいと思ったけど。改修してまだ航海ができるなら成仏せずにもう少しこのままでもいいと考えたらしいっす。でも、このままだと前みたいに悪い幽霊に操られたり暴走したりするかもしれないからアニキの舎弟になればアニキの力でそうならないって言っているっす」
「つまり、ご主人様の【眷属】になりたいということですか?」
ファスが尋ねると、後ろの髑髏像がカクカクと顎を動かしながら首を振っている。
どうやらそういうことらしい。
「旦那様。ついに幽霊船まで……」
トアが頭を押さえている。まぁ、モグ太に始まり蟻の魔物であるプリちゃんと【眷属】にしちゃったし……。
「真也君。是非やろうよ! これから大水球を攻略したり拠点を持つなら絶対必要だから!」
叶さんはノリノリである。
「他の皆はどう思う? 僕としてはここまでの航海でもお世話になったし、悪いことをしないならいいと思うんだけど?」
「私は賛成です。移動できる拠点として信頼できますし、この船はとても乗り心地が良かったですから」
「ボクもさんせいー」
「オレからもお願いするっす。こいつ、悪い幽霊船じゃないっす」
ファスとフクちゃんも賛成のようだ。トアも頷いているし。桟橋から海の上に降りて骸骨像の前に移動する。
「もう少し、付き合ってくれるか?」
そう言うと、髑髏像が腕を動かし指先を伸ばしてきた。毎回やり方がよくわからないが、なんとなく掌を翳すと翼と爪の紋章が浮かび上がる。髑髏像の指先がその紋章に触れた瞬間。
『どうだ、立派な客船だろう?』『商船としても使えるぞ!』『さぁ、一緒に大金持ちだ』
若い青年が何人もの船員と甲板で酒を飲んでいる光景が見えた。すぐに暗転し次の瞬間には全てが赤く染まっている。海賊がこの船を襲った光景だとすぐにわかった。
『今からこの船は俺達のもんだ!』『人魚像なんて外せ、海賊船には似合わねぇ!』
気が付くと元の光景だ。一瞬の白昼夢……いやこの船の記憶か。
「……そっか、元々は人魚像だったんだ」
『ヴォオオオオオ』
髑髏像が頷き、紋章が輝く。もう一度脳裏に声が響く、若い青年の声。恐らくはこの船の最初の持ち主なのだろう。茶髪の人族でマストの根元に酒を注いでいた。
『名は決めてるんだ。親父が好きだった酒の名前。この船の名は『ルモテイラ』……古い言葉で月と風って意味だ』
「ルモテイラ……いい名前だ。よろしく」
紋章が強く輝き。収まると、何事もなかったかのように髑髏像が佇んでいた。もう動き出してもいないが確かに繋がりを感じる。桟橋に戻ると、紬さんが呆れたように僕を見る。
「とんでもない量の魔力が船に流れるのを感じたよ。どうやら上手く言ったようだね。今なら【紋章】も付与できそうだ。ナエ、マリ、ラン。作業を始めようか」
「「「はい」」」
「あっ、紬さん。改修の時に一つだけお願いがあるんだ。あの船首の像。元々は人魚像らしくって直すことってできるかな?」
「了解した。形を直すだけなら【彫金士】であるマリなら一瞬でできるよ。さぁ、真也、内部を拡張するために木材を運んでくれ」
こうして抵抗が止まった幽霊船の改修が行われ、紬さんとなまらトリオによって魔術的に内部が作り変えられ拠点として様々な機能が追加されることになった。その夜。紬さん達が帰ってから幽霊船としても何か変わりがあるのか、わざわざ港から少し沖に移動して確認してみると……。
「うーん、なんていうか。前よりひどくなってない?」
「ご主人様の【眷属化】の影響で完全に魔物として覚醒したようですね」
「オレの【死霊術】で色々補助ができるっす。これなら船とオレだけでも戦えるっす!」
『ヴォオオオオオオオオオ!!』
生まれ変わった【ルモテイラ】はマスト畳んでいるのに、自在に海上を動いたかと思えば人魚像が腕を触手のように伸ばして魚をバリバリと平らげている。姿が変わっても幽霊船の部分は健在らしい。月光を受けたその船体は隠された姿をさらけ出し、外板は人魚上の下半身から伸びているような鱗で覆われ、木材のはずの外板がヌメヌメと生き物のように蠢いていた。通常の船形態と魔物形態を自在に変更できるらしい。
「たまーに飛び跳ねるのは勘弁してほしいだよ……というかもう船の挙動じゃねぇべ」
「アニキ、ルモテイラが新しいことができるようになったからアニキに見て欲しいらしいっす」
「何ができるんだ?」
「ふふーん。いくっスよるモテイラ【死霊術:憑依擬態】!」
ポカルの声に応じてランタンの火が揺らめき。マストがメリメリと音を立てて裂けて家屋の梁のように上部に展開されていく。当然、紬さん達の改修にこんな効果は無い。さらに船体が激しく揺れて海面が近づいて来た。
「え? 沈んでるよ! 【星命の完全祝福】!」
船体が海中に沈んでいき、叶さんが水中でも呼吸できるようにバフをかけるが、すぐに変形したマストから帆が展開して船をドーム状に覆い。水が入ってこないように堰き止める。
『ヴォオオオオオオオ!!』
人魚像が誇らしげに叫び。船は海中を潜っていく。周囲の様子は見えないが、ドーム状の帆から水の音が聞こえた。
「見たっすかアニキ、今のルモテイラなら海中だって移動できるっす」
「マジか……」
こうして、改修された僕等の新たな拠点こと幽霊船『ルモテイラ』は自身で意思を持ち、ポカルの死霊術による合わせ技を利用することで海中の移動が可能になったのだ。ちなみに見かけの邪悪さは五割増しになったのだが……まぁ、もう今更といったところだろう。
次回から物語が進んでいくと……いいなぁ(希望的観測。
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