第五百十七話:竜の夢とこれからやること
「専用装備だべか。オラの斧も強化してほしいべな。あっ、旦那様塩振ってから壺入れて欲しいだ」
「オレもオレも兄貴の装備欲しいっす! このモップとかランタンとかどうっすか?」
ブラン・ロゼの拠点から一度拠点の幽霊船へ戻ってきている。船の拡張は明日、生産班である『なまらトリオ』を連れて来てくれるそうだ。船では、トアが街で買った食材を油に漬けたり、桟橋横の小屋で魚の切り身を天日干ししていたりと保存食を作っていたらしい。ポカルや少女姿のフクちゃんもトアのお手伝いしていたので、僕等も手伝いをしつつ千早の刀の強化について説明すると当然のようにトアも食いついて来た。
「ううん、今回の現象は千早の転移者の【クラス】の影響もあるって日野さんも言っていたしなぁ。そもそも、なんで成功したのかよくわからんし」
掌大の小魚に塩をまぶして小さな樽にいれていく。油漬けに塩漬け、燻製と複数の保存食を作っているのだが結構楽しい。ファスは『奴隷の仕事です……』とか言いたげにこっちを見ているが、僕だけ仲間外れは無しだ。
「でも真也君の手甲のこともあるし、今回のケースは【クラス】の影響もあるけどそれ以外にも強化方法あると思うんだよね。真也君の血で強化ができたのは事実だし。ダンジョントレジャーと反応する説もあるからトアさんの斧も強化できそうだとは思う。ブラン・ロゼの工房で実験してもいいんじゃないかな」
「それならばダンジョンの素材を使えば私の杖もご主人様の血で強化できるかもしれませんね。試してみたいです」
叶さんとファスで食材の洗浄をしながら、そんなことを提案する。
「そもそも何で僕の血でそんなことが起きるのかよくわかんないけどな」
【竜人】や【竜の後継】と関係あるのだろうか? ポツリとそう言うと。魚の骨や皮を食べていたフクちゃんが僕を見る。
「それはグラムゼンの力だよ」
紅眼の瞳が輝いていた。
「え? グラム……なんのことだフクちゃん?」
「んー? わかんない。なんか、そう思った」
自分が口にした言葉の意味がわからないと首を捻るフクちゃん。ファスがハッとした表情になる。
「少し待っていてください」
「わわ、ファスさん。急に水を落とさないで」
ファスが自分のアイテムボックスから一冊の本を取り出す。エルフの国の初代国王にして賢者が書き記した竜について書かれた魔本だ。魔術で厳重に封印されたその本はファスの【精霊眼】を使っても少しずつしか読み進められず、航海中もリング王の解読結果を使ってなんとか数ページ読み進められたとファスは言っていた。
「航海中に【精霊眼】で解読できた部分に【グラムゼン】の記述がありました。……【赫竜皇:グラムゼン】……三大竜王の一柱にして全ての竜を統べた存在だとされています。なぜフクちゃんがその竜の名前を知っているのですか?」
「わかんない」
「わかんないか」
フクちゃんが偶に見せるアラクネの姿。その時に彼女は何かを知っているようなことを口にしていた。
それと関係あるのだろうか……僕の前に座るフクちゃんはいつものフクちゃんのままだ。僕の大事な仲間であり家族であることに何の変化もない。
「ま、いいか。フクちゃん、他にも何か思いついたら教えてくれ」
「あいあいさー」
一通り保存食の仕込みを終えて幽霊船に戻る。まだ明るい時間帯だけど、潮風が心地よくてちょっと昼寝したい気分だ。
「ふぁ……眠い」
「少し遅くなったけんど、昼飯の準備するから寝ててもいいだよ旦那様」
「真也君、膝枕する?」
叶さんがポンポンと自分の太ももを叩く。
「あっ、カナエ。ズルいです」
「ファスさんはいつもしているじゃん。ほら、真也君どうぞー」
「いや、ちょっと照れるけど」
「今さらでしょ。ファスさんにはしてもらっているのに、私はダメなの?」
そう言われると弱い。言われるがままに、太ももに頭のせた。やっぱちょっと照れくさい。でも心地よくて、すぐに眠ってしまった。
…………。
目の前で竜の影が蠢ていた。なんか久しぶりだな。前は夢の内容を忘れていたりしていたが最近はハッキリと思い出せる。これがただの夢じゃないこともわかる。
『忌々しいことだ。人間の分際で吾輩の力を扱い始めているとは』
刺々しい背びれと曲がりくねった角の影。ざらざらした不快な声。そして柔らかな羽毛の翼を持つ影に変わる。
『呪いは祝福に、祝福は呪いに。信じられないことです。歪められた理を打ち破りつつある』
影がまた変わる。巨大な牙と爪そして尻尾、頭部から真っすぐに伸びた角のある影。
『人は竜に成れず、竜もまた人に成りえない。かつての未熟な器では我等の力は溢れだし零れるばかりだった。しかし絆を結ぶ他の器が連なり零れ落ちるはずの力を受けとめた。そして今や器は我等を継ぐにふさわしい存在へと成長しつつある。望んだ結果ではない。しかし星の女神との契約、そしてリヴィルの願いは決して無駄ではなかった。……心せよ、試練の時は近い。汝に竜の祝福があらんことを』
…………。
「……はっ」
「うわっ、どうしたの真也君。私の膝枕微妙だった?」
夢から覚めると叶の心配そうな声が聞こえる。その表情は……うん、ちょっとこの角度だと山が邪魔して表情が見えにくい。ファスの場合だと瞳までしっかり見えたりするのだが。
「……」
うん、横から冷気を感じ、すぐに起きあがる。
「だ、大丈夫。変な夢というか竜の夢を見たんだ。僕はどの時間寝てた?」
「いや、目を閉じて三分くらいしか経ってないよ」
「……竜王達、もうちょい寝かせてくれよな」
というわけで、トアが料理を持ってくるのを待って先程見た夢について皆に説明する。ポカルは理解できないだろうけど、本人はなんかフンフンと頷いていた。
「――て感じだった」
「真也君の成長って竜王さん達にとっても予想外なんだ……どうなってるの真也君?」
「流石ご主人様です」
「まぁ、どう考えても旦那様は竜って感じじゃねぇべな。だども、契約とか願いとかよくわかんねぇことに加えて、試練とか不穏な言葉もあるだな」
「兄貴なら大丈夫っす」
「そうそう、マスターならダイジョブ」
各々の感想はこんな感じである。本日の昼食である。塩パンにヒヨコ豆と貝の煮物を食べながら説明するが、やはり竜の夢はわからないことばかりでいまいち要領を得ない。
「リヴィルの本の解読が進めばまたわかることもあるかもしれないので、何かわかったらすぐに共有します。まだまだ時間がかかりそうですが……」
ファスはとりあえず魔本の解読を進めることを方針にしたようだ。夢にもリヴィルという単語が出て来たし関係はあるだろう。ついでに竜王のこととかわかれば助かるし。
「のんびりでいいと思うぞ。今は他にもやることあるしな。ポカルの家族の救出が最優先だし、A級昇格の依頼や他の転移者とか色々ありすぎて考えるだけで疲れるよ。やっぱり僕は体を動かしているほうがいいや」
こういう時はとにかくご飯を食べて修行すればいい。考えるのは性に合わないし、試練とやらがあるなら鍛えておけばいい。というわけで、本日はみっちりと基礎の型をやり直したのだった。
そろそろ物語が動きそうです。というか動かさないといつまでも鍛錬を続けようとする真也君です。
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