第五百十六話:白鞘の妖刀
刃からの熱気で気を失った渡刈さんだが叶さんが【スキル】で回復させるとすぐに目を覚ました。『松明丸』に関しては刃のままにするわけにいかないので、拵ができるまでは白鞘に入れておくことになった。修理で魔力を使い切った渡刈さんは『松明丸』の刀身を見て興奮していたが、流石に疲労がひどく自室にて休んでいる。今は、執務室で【鑑定士】の【クラス】を持つ日野さんを待っているわけだ。
目の前の机には白鞘に仕舞われた『松明丸』が置かれている。
「ねぇ、紬。ちょっとだけ、ちょっとだけ、振ったらダメかしら?」
千早はもう我慢できないと何度目かの問いかけを紬さんにしている。わかるぞ、新しい装備は試したいよな。
「ダメだ。何が起きているのか留美子の【鑑定】で判断する必要がある。連絡用の【紋章】で状況は伝えたからすぐに戻って来るさ」
「何が起きているって、そりゃ【竜の後継】とか言われている真也君の血で装備が強くなったんだよ。私のワンド、木製なんだけど真也君の血で強化できないかな?」
「私の杖も是非、ご主人様の力で強化して欲しいです!」
叶さんがワンドをファスが杖を取り出して、こちらを見てくる。
「二人とも落ち着いてくれ。やみくもに血を出して何かあるってわけでもないと思うぞ」
迫力に圧され苦し紛れにそういうが、意外にも千早が頷き同意してくれた。
「そうね。なんて言うか、あの場面では私は自分の【侍】という【クラス】の影響もあったと思うわ。複数の要因があったと思う。再現したいなら留美子の鑑定を待つべきね。その前に性能を確かめ……」
「ダメだっ! 下手に扱って事故でも起きたら面倒だ」
勝手に刀を振ろうとする千早に対し『松明丸』の周りに結界を張り始めたころに控えめなノックがされ日野さんが入って来た。手先を見せない長袖とフード付きの黒いローブを纏った姿は忍者というよりは暗殺者のようだ。
「ただいまです。急いで戻って来ました」
「待ってたわ留美子。早く鑑定してくれるかしら」
「ち、千早ちゃん落ち着いて……」
身を乗り出してくる千早の肩を掴んで押し返しながら、日野さんはローブを脱いで丸メガネを掛け直す。そして、白鞘に納められている刃をゆっくりと引き抜いた。赤い刀身に炎を想起させる波紋が光を受けて輝く。波紋は刃部だけでなく刀身全体に広がり、光の角度でまるで炎が燃え盛っているように見えた。
「凄い……綺麗。それじゃ、鑑定するね【上級鑑定】……きゃ!?」
日野さんがのけぞって顔をしかめる。
「留美子っ! 大丈夫?」
「わわ、ルミちゃん。【星涙癒光】」
叶さんが回復スキル使うが、日野さんが手で静止する。
「大丈夫。レジストされただけ。もっと強い【スキル】じゃないとダメみたい」
腰のポシェットから古びたルーペを取り出す。微かに魔力を纏っているようだ。
「それは?」
「【盗賊王のルーペ】鑑定系のスキルの効果を増強するダンジョントレジャーです。それじゃ、スゥ……【真贋見極】っ!」
「……私の【精霊眼】と似た魔力の波長を感じます」
僕の横でファスが驚いていた。スキルの宣言と共に空間に魔力が満ちる。近くに立っているだけの僕ですら見透かされたような不思議な感覚がした。日野さんはその権能の全てをルーペ越しの鑑定に注ぎ込んでいるようだ。三分ほど経っただろうか、日野さんが膝をつく。額には玉の汗が浮かび、相当な疲労が伺える。
「やっと……見えたよ。千早ちゃん」
姿勢を崩した日野さんを千早が支えると日野さんは誇らしげに笑った。
「留美子が【鑑定】でここまで疲弊するなんて……無理せず休めばいいわ」
「その通りだ。ポーションを飲むといい」
日野さんは紬さんから渡されたポーションを飲むと自力で立ち上がる。
「ううん、大丈夫。えっと、鑑定結果を伝えるね。鑑定結果としてはこの刀は千早ちゃん以外は装備できないし、能力を使えないみたい。それと特別なスキルが三つついていたの【呪刃:竜残穢】【金剛不壊】……そして【異界破断】」
おおう、何か聞くからにヤバそうだ。
「真也君また呪いを生み出しちゃったね」
「流石ご主人様です」
叶さんが目をキラキラさせ、ファスが誇らしげに胸を張った。
「それ、本当に褒めてる?」
そんな僕等を横目に千早と紬さんは日野さんに詰め寄っている。
「留美子、その特別なスキルについて効果はわかるかしら」
「ええと【金剛不壊】は装備が壊れづらくなる【不壊】の最上級付与だよ。【呪刃:竜残穢】は……よくわからないけど使わない方がいいと思う。とても怖い感じがする。最後の【異界破断】は多分……本来壊せないはずのダンジョンそのものを斬ることのできる効果だと思う」
「ルールブレイカー、きたー!! 真也君の方は壊れないはずの【竜の武具】を破壊できるし、千早ちゃんは破壊不能のダンジョンを斬り裂ける。これも竜王さんの力なのかな?」
「よくわからないけど強い力ってことね。使いこなせるようにならないと」
叶さんが考察に入り、千早が気合を入れる中、ファスがちょっと拗ねたように僕に肩を寄せる。唇を尖らせるファスは珍しい表情で可愛い。
「とても羨ましいです。私もご主人様の加護を受けた特別な杖が欲しいです」
ファスが手に盛った杖を掲げる。やたら丈夫なことだけが取り柄のファスの杖だが僕の力で強化できるのだろうか?
「えと、ファスさん。【鑑定】でわかったことだけど。この『松明丸』の変化は元々この刀がダンジョントレジャーを素材に先代の転移者が作り上げたものであって、千早ちゃんが使い続けることで意思が影響を与えた疑似【竜の武具】だから……ええと、吉井君の未知の力の影響に加えて多分【転移者】限定の現象なんじゃないかな」
「そ、そんな……」
ファスが青い顔でソファーに座り込んでいた。すぐに叶さんが手を上げる。
「それじゃあ、私なら可能性あるよね。私のワンド強化してみようよ!」
叶さんがワンドを取り出すが、日野さんは叶さんのワンドをルーペ越しに【鑑定】すると首を横に振った。
「叶ちゃん自身がまだワンドに意思を注ぎ込めてない。この状況では疑似【竜の武具】に進化はできないかも……」
「ガビーン! それなりに苦楽を共にしてきたのに!」
「留美子、私の万年筆の筆先はどうだ?」
紬さんも懐から万年筆を取り出して日野さんに見せた。
「ダメだと思う」
「……」
叶さんが撃沈されてソファーに沈み、横で紬さんも膝をついて項垂れている。
「ま、まぁ、これから変わるかもしれないし元気だしなよ」
励まそうと二人に近づくとファスが腕を引き寄せてポスンと横に座らせて来る。反対側には叶さんがいるので挟まれた形だ。
「装備がなくとも私は一番奴隷です。ご主人様のお役に立ってみせます」
「意思ってどうやって注ぐんだろ? とりあえずファスさんと私は心に傷を負ったので真也君に慰めてもらいたいよね」
両腕を抱きしめられた僕を見て千早が目を細める。
「女の敵」
「もはや否定はできないな」
「そりゃ、真也君はハーレム主だし」
「私達のご主人様ですから」
紬さんもなぜか首に手を回して来たし、これ他のブラン・ロゼのメンバーに見られたらそうとうヤバイと思うんですけど。
「そうね、とにかく【松明丸】にどんな変化が起こったかは大まかにわかったわ。【呪刃】の部分が気になるから、様子を見つつ使用していくわ。安全な場所で試し切りね……フフ、真也がくれた力。大事に使うわね」
「よかったね千早ちゃん」
そういって白鞘を抱きしめる千早。それを見た他の女子達の力が強まる。
「み、見せつけてくれますね。私も負けてられません」
「とりあえず。今晩は覚悟してよね真也君。ファスさん、二人で真也君に慰めてもらおうよ。それはもう、千早ちゃんの刀のことなんか忘れるほどにね……」
「素晴らしい考えです叶」
「フム、これは私も急ぐ必要がありそうだね」
「……不潔」
……覚悟はしていたつもりだったがやはり女性陣とのこういうやり取りは胃が痛い。
爺ちゃん、ギースさん、こういう時はどうすればいいんですかね!?
刀の詳しいスペックはまた後日披露することになると思います。
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