第五百十四話:拠点(魔改造予定)
グバさんから言われたこのダンジョンの宝のことも気になるが、今は情報収集だ。
兄弟船の屋上ビアガーデンのような甲板から下の階に降りる。
「とりあえず。拠点だよなぁ」
階段を降りながらそう言うと、横で叶さんも強く頷いた。
「お宿も嫌いじゃないけど、紬ちゃんがいるなら絶対拠点がいいよ。中を快適にしてくれるし、私の結界も使えるしね」
「金があるし、家を買ってもいいんでねぇか? それか、自由に中を弄れる条件で物件を借りればいいだ」
「まずは受付に行きましょう。この街でどうすれば家を買えるか聞けますし、ご主人様がA級冒険者になるためのギルマスの依頼も確認する必要があります」
ファスもやる気十分と早足で階段を降りていく。危ないぞ。
一階に戻って受付に行くと、やや緊張した面持ちで受付嬢が対応してくれた。
「え、えと、ベラミーさんの依頼ですね。ギルドではなく個人で出されたのは……依頼板に張られているものですね。一番上にナイフで刺さっているあれです」
掌で示されたクエストボードの一番上に確かにナイフで刺さった依頼書がある。
「……手に取れってか」
どうせ受けるんだ。この眼で確認しよう。冒険者でごった返す、クエストボードの前に立つと。
人垣が割れる。え? なんか申し訳ないな。昨日の赤羽さん達との戦いで顔が売れちゃったか。視線を怖がってズボンを掴んでくるポカルの頭を撫でつつクエストボードの前に立つとファスが小さな氷弾でナイフを弾いて依頼書を落としてくれた。ヒラヒラと舞うそれを指先で掴んで持ち上げる。
【採集依頼:幽霊船トライホン号の宝『人魚の涙』の納品】
おいおい……幽霊船相手の依頼だと? どうするか意見を求めようとするが、周囲の注目が凄いしファスが胸を張って僕の後ろに立つと他のメンバーも従うように後ろにつく。
「……」
それを見て周囲の冒険者も徐々に騒ぎ始める。
「あいつ、この街にきていきなりあの依頼を受けるのかよ」「あれは腕っぷしじゃどうにもならんぞ。しかも人族がどうにかできるのかよ」「ばっか、知らんのか。あの人族は大森林でリザードマンの群れを素手で壊滅させたんだぞ」「エルフの姫にメイド服を着させたとか」「そんな与太話信じるのかよ」「でも【英雄】って呼ばれてるんだぜ……」
「兄貴、かっけ~す!!」
ポカルがキラキラの瞳でこっちを見ている。違うんだポカル、これはもうファスの趣味というかなんというか……。というかメイド服のことも広まっているのか。ええい、ここまで来て退くわけにもいかないか。精一杯真剣な表情を作って冒険者達の視線を背中に感じながら受付に戻り依頼書を机に叩きつける。
「この依頼を受けたいんですけど」
「か、かしこまりました。特別A級冒険者シンヤ ヨシイ様。高難易度依頼の受注、真にありがとうございます。この依頼はB級冒険者以上しか受けられず、一度失敗すると再受注できませんがよろしいですか?」
「……はい、受けます」
背後で男共の歓声があがる。詳しいことなんもわかんないですけど、ファスが誇らしそうだしまぁいいか。他にも色々やることありそうなのに良いのだろうか? 受付嬢が厳重に封がされた油紙で包まれた資料を渡された。これに詳しいことは書かれているらしい。とりあえず、ここはここまででいいか。ついでに、拠点について聞いてみるか。
「この街で拠点になりそうな住居を探しているんですが、どこに行けば紹介してもらえますか?」
「住居ですか? B級冒険者以上ならば許可を省いて住居の購入が認められます。領主に許可を得ている商人を紹介しますね。店は……」
どうやら不動産屋みたいな職業があるらしくそこへ行く必要があるらしい。
ベラミーさんからの依頼を確かめたいが、流石にギルド内では注目を浴びすぎだ。外へ出て、紹介された店につくと、犬の獣人族の店主が僕等をみて露骨に嫌そうな顔をするがギルド貰った書類を見せると態度が180度変わる。
「これはこれは、高ランクの冒険者様だったとは……どのような物件をお探しで? 今は中々物件がないのですが……えぇ、当店の方で是非紹介させていただきます」
これに関してはとりあえず女性陣に任せよう。というわけでファス達に話を譲るとまずはトアが口を開く。
「とりあえず安全の為にちゃんとした一戸建てがいいだよ。しっかりしたつくりの台所が欲しいだ。できれば厨房は土間がいいだな。竈は二つは欲しいべ。窯も絶対いるだよ」
「寝室は広めでお願いします。ベッドも最大サイズのものがあれば良いですね」
「お風呂……浴槽さえあればどうにかするので」
トア、ファス、叶さんと次々に要望を出していくので店主は青い顔でメモを書いている。
横でファス達の意見を聞いているポカルとその頭に乗っているフクちゃんにも話を振ってみる。
「二人は何か要望はないのか?」
(ナイヨー)
「オレは雨除けに屋根が欲しいっす。あと、風を防ぐ壁もあれば最高っす」
「…………」
「あっ、兄貴、なんで撫でるっすか……エヘヘ」
ポカルがどんな生活をしていたのか偲ばれて頭を撫でる。僕やファスも相当な生活を経験したけどポカルほどじゃない。せめてこれからは衣食住に気を遣わない生活を送って欲しい。
そうして店主が僕等のリクエストが書かれたメモを見ながら目録を捲り、顔を上げる。
「ご要望の物件は……ないですな」
「「「え?」」」
僕等で綺麗にハモってしまった。店主は犬耳を飛行機耳にしながら懸命に説明する。
「いえ、無いわけではないのですが、貴族が管理している物件ばかりでしてモノは立派ですが、当然改築できません。……実は、近々王族お抱えの【転移者】が来るとかで浮島の貴族達が良い物件を抑えていまして。長屋やいくつかの家は紹介できますが、ここまで要望が多いと……」
「金があっても肝心の物件がないだべか。うーん、贅沢を言ったけんど狭い家でもいいだよ。台所も……竈が一つあればいいだ。長屋や街の隙間には結構物件あるだな」
「ダメだよ。安全面を考えるなら他の家とは離れた方がいいだろうし、そうでないなら屋敷みたいにある程度広さがないと。じゃないと、私達が襲われた時に周囲に迷惑がかかっちゃう」
「むぅ、広いベッドはお預けですね」
さて、さっそく拠点探しが行き詰まってしまった。どうするかな? ぶっちゃけある程度の広ささえあればいいんだけど。するとトアがピンと尻尾を立てる。何かを思いついたようだ。
「店主、建物はいらないから港に船家用の土地はあるだか?」
なんか知らない単語が飛び出したな。店主の表情が明るくなる。
「それでしたら紹介できますとも。そうですな日当たりも抜群で桟橋もついている船家用の土地がいくつかありますぞ」
何枚か出された目録にトアが目を通す。
「これなんかいい感じだべ」
「ここですか? 確かに周囲の船家とは距離がありますが、共同井戸からかなり遠くて不便ですが……」
「その分、周囲になんもなくて見晴らしがいいだ。旦那様、ちょっとオラに任せてくれねぇだか?」
トアが自信ありげに
「もちろん。皆もいいよな?」
「異論ありません」
「私はピーンと来たよ。もちろん賛成っ!」
そこから先はトントン拍子に話が進んでいく。折角大量のお金があるのだが、結局払ったのは金貨数枚だった。店主に案内されて港の方へ向かい大きな商船が停まる場所を通り過ぎて、堤防や港門の近くの桟橋が多くある場所へ到着すると、目的の場所についたようだ。
「ここです。桟橋は堤防の工事の際にできた丈夫なもので、水底もある程度深いので中型船まで停泊できます。桟橋が繋がっている範囲はすべて購入者様の土地として管理できます。また、サービスで倉庫もつけさせていただきます。ただ、やはり井戸が遠いのが難点でして、本当にこんな場所でいいので? もっといい船家場も紹介できますが」
そこは港のハズレで堤防近くの桟橋だった。周囲を見れば桟橋に船を繋げたような家がいくつかある。
桟橋の根本には倉庫というよりは掘っ立て小屋が一軒たっていた。一応石材で舗装された場所ではあるものの街の外れという感じで、正直に言うとちょっとさびれている。
「十分だべ。これチップだよ」
「へへ、毎度」
トアが銀貨を店主に渡すと、店主は丁寧に礼を言って去っていった。
「んじゃ、オラ達の船を持ってくるだ。まだ日が高いから、勝手に動いてはくんねぇからな」
こうして、港へ行き僕等の幽霊船を桟橋まで乗って来る。ここまでくれば僕もトアの狙いがわかって来た。
「つまり、船を家にするわけだ」
「そうだべ。漁をする獣人が良く使う手で桟橋だけを土地として買って船を家の代わりに使う『船家』つう住居だべ。正直、拠点としては心元ねぇと思うけんどツムギが居たらこの船も大分住みやすくなるだろうし、この船なら夜も見張りがついているようなもんだ。台所は……ちょっと残念だけんど、それも工夫すればいいだけだべ」
「オレもこの船がいいっす!」
元々船の幽霊達を操っていたポカルとしては大賛成のようだ。
「乗り物酔いを完全に克服した私ならこの船を家にしても十分だよ。拠点と船の両方にリソースを裂くよりも船を徹底的に改造した方が話が早いもんね」
「お金があるからと立派な家を考えていましたが、よくよく考えてみれば私達ならばこの方が便利ですね。このまま大水球へ行けますし。この街ならば造船施設もありますから叶の言う通り船の強化もできるでしょう。何よりも……ここならばご主人様をしっかりと他の女性から守れます」
「いやファス、そんな理由で納得しなくとも……とりあえず、家として住めるように色々買わないとな」
というわけで、この街での拠点は結局慣れた船の中となったのだった。
まだまだ幽霊船の出番はありそうです。
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