第五百十二話:冒険者として
ベラミーさんおすすめの腸詰には興味あるが、先程トアのご飯を食べたばかりだから今度の空腹時の楽しみにしておこう。そのかわり、ギルドの中腹部にある二階層にある売り場を見て回ることにした。
「ちょ、ちょっと怖いっす」
(ダイジョブ、ダイジョブ)
一応、天窓があって陽の光は入っているのだが少し薄暗く、柄の悪い冒険者が出入りしているのでポカルは少し怖がっている。ヒレ耳がしょぼんとしているが、頭の上のフクちゃんが前脚で励ましていた。
「防具というよりは、錬金機械や装飾品がメインのようですね。魔物の素材もあります」
地面に直接置かれた商品を見てファスが興味深そうに観察し、叶さんが笑顔でせわしなく色んな露店や棚のある売店にも顔を突っ込んでいる。
「わー、凄い。珊瑚飴? どうやって使うんだろ?」
「獣人用の水中耳当てもあるだ。旦那様、これ買っていいべか?」
トアが犬耳をすっぽりカバーできる耳当てを持ち上げていた。何それ可愛い。
「もちろんいいぞ。というか皆にお金配るから好きに買い物しようよ」
「真也君、太っ腹! 何買おうかなー」
せっかくお金があるのだから、おもしろそうなものは買っちゃおう。
「ポカルも何買ってもいいぞ」
「ホントっすか! えと、えと」
(ごーごー)
うむうむ、さっきまで怖がっていたのに途端に楽しそうにしている。子供ってのはこうあるべきだ。
フクちゃんがいるなら何か安心だし僕も何かないか見てみるか。屋台のような陳列台を覗き込む。
「丸耳かい。いいもん入っているよ」
腰に先のとがった十手のような武器を下げたマーマンの店主が掌でしめしてくれる。
「おすすめは?」
「丸耳相手ならこれだろう。珊瑚飴、これがないと大水球は探索できねぇからな」
店主が赤いつるつるした小さな玉を摘まみ上げる。
「へぇ、どんな効果があるんですか?」
「あんた、素人かい。これを口に含んだり、口布に仕込めば水中でも息ができるって寸法よ。毒水の罠対策にマーマンも買ってるぜ」
「え、めっちゃ便利じゃん。トア、ちょっと見てくれ」
こういう目利きは全くできないのでトアを呼ぶと、皆寄って来た。
「……ほうほう、そりゃ便利だな。うーん、ファスどうだべ?」
「魔力は感じますね。加工もしっかりしているように見えます」
「水中装備も揃えたいよね~」
「おいおい、うちの商品は全部ギルド公認だ。値は他より張るがその分、物は保証しているぜ。下手なもん売って間違いがあったら殺されるからな」
店主が呆れたように棚の下のギルドの保証付きの紙を指さす。
「それなら、人数分買います。これ一個でどのくらい持つんですか?」
「一回につき大体四時間ほどだな。まぁ、緊急用だ。人族は大体、大水球が海に降りて海底ダンジョンへ繋がったらそっちに行くからな」
話を聞くに、あの大水球が宙に浮かんでいる時はマーマンが探索に行き、水中へ沈むと通路になるらしく海底ダンジョンへの通路になったら獣人や人族が行くようになるらしい。とりあえず、珊瑚飴はマストで購入だな。
「皆は他に何か買ったのか?」
「特に目ぼしいものはありませんでしたが、【防水】の付与ができる札は買いました」
「オラは耳当てと、【防水】の付与付き尻尾カバーだべ。便利なもんがあるだなや」
「私は防水の髪留めと、海底ダンジョンの地図だよ」
【防水】系の付与は必須だな。一応、僕等の防具は大森林で【防水】の付与してもらっているけど、衣服とかも楽なものがあれば付与しときたいな。紬さんとかはできそうだし相談してみるか。
「ポカルは何か買ったのか?」
「これっす!」
ポカルが笑顔で差し出しのは……両端に金属細工があつらえた細長い巻貝の筒だった? なんだこれ?
トアが興味深そうにのぞき込む。
「煙管だべな。へぇ、巻貝を加工して羅宇にしているんだか」
「キセル……へぇ、始めて見た。煙草を吸う奴か。え? ポカルはまだ子供なんだから煙草吸っちゃダメだぞ」
「そうだよポカルちゃん。体に悪いよ」
「違うっす。ネーネのっす。ネーネはこういうので煙草を良く吸ってたっす。これとっても綺麗っす」
天窓から差し込んでくる光を受けて巻貝の煙管はキラキラと輝いていた。
「……そうか、きっとネーネさんも喜んでくれるさ。早く見つけないとな」
「はいっす。それと、これもっす」
そう言って小さな金具を取り出した。
「これは村でもよく見たっす。オレの鱗をこうして……イチチ、フクちゃん糸をお願いするっす」
(ホイホイ)
ヒレ耳についている鱗を一枚とって、金具をとりつける。それにフクちゃんが糸を通してくれた。
「これを見えない場所につけておくっす。マーマンの鱗守りっす」
「ネーネさん渡すのか?」
「違うっす。アニキにあげるっす! ネーネが大事な人に渡すって言ってたっす!」
「ありがとう。大事にするよ」
受けとった鱗守りを首に下げる。砂漠でマイセルからもらったペンダントと合わせて二つ目のお守りだな。大事にしよう。
「……ヒソヒソ、あれって多分、家族とかに渡すんじゃないよね。ポカルちゃん天然で言っているけど大事な人ってそう言う意味だよね」
「絶対そうだべ。オラも尻尾の毛でお守りつくるだかなぁ」
「ムムム、やりますねポカル。私も売店を探してきます。エルフ用で似たものはないでしょうか?」
なぜか、この後女性陣が気合入れて買い物をしようとしたが、元々そういう嗜好品はあまりない売り場だったので後で市場をみようという話になったのだった。
「色々買ったな。そろそろグバさん帰ってきたかな?」
「探してみます……ちょうど、屋上で酒を飲んでいますね」
ファスがグバさんを見つけてくれたので、甲板の上へ行くと向こうもすぐにこちらを見つけてくれた。
というかグバさんがデカいのですぐにわかるな。青い肌にザンバラ髪を乱雑に纏め、入れ墨が淹れられた筋骨隆々の上半身を露出している。
「おおう【死線】。待たせたか、浮島の貴族共がうるさくてな。お前も一杯やれ」
「まだ昼間をすぎたばかりなすよ。それで、僕等に何か用ですか?」
「おう。お前がこの町に来た理由と関係することがあってな。お前【転移者】だろ?」
鮫を想起させる瞳がこちらを見据える。どうやら、踏み入った話のようだ。ファス達を見るとこの場は僕に任せてくれるようだ。グバさんの前に座る。
「……同じ酒を」
「グハハ、冒険者の流儀をわかっているようだ。おい、持ってこい」
錫のジョッキになみなみと注がれた酒をグバさんから目を離さずに喉に入れる。甘味の強い蒸留酒。
正直あんまり好きじゃない味だ。一気に飲み干してジョッキを逆さにすると、グバさんも自分の酒を飲み干して新しいジョッキが運ばれる。
「僕が【転移者】であることと関係する話ですか?」
「おう、近々この街にラポーネ国の三人の王女がやってくる。それに伴って、第一王女と第二王女がパトロンを務める【転移者】も集まる。そこに白星教会が誇る【ブラン・ロゼ】だ。今代の【転移者】のほとんどがそろい踏みってわけだな。そんでお前のケツモチが第三王女ってのはしれた話だ」
「そうみたいですね。なんか色んな所に広まっているらしいし」
言いながらジョッキから一口酒を飲む。好きじゃないが、ちびちび飲むにはちょうどいい。
「ラポーネの今後を決めかねん騒ぎだ。特に第二王女の周りはきな臭い。そしてここのノーツガル自治領も無関係ではない。面倒なことだ……酒が不味くなる」
「確かに僕は第三王女と縁がありますが、だからって王族の争いに直接関係はないですよ。それにしてもなんで王女達までここにくるんでしょうね」
関係ないよね? ないはず……うん、油断はできないけど。
「いや、まぁそうなんだがなぁ。ちーと今、厄介なことになっていてなぁ。うーむ、俺は隠し事が苦手だ。お前が【英雄】ならば言ってしまってもいいだろう」
「嫌な予感がしますね。できれば聞きたくないです」
こういう時は決まってろくなことがないのだ。
「グハハ、ああとびっきりの厄ネタだぞ。この町には一つ消えた歴史がある。このノーツガルは特別な土地だった。マーマン、かつての『竜人』にとっての聖地であり、ラポーネにとっての禁忌の土地。『赫竜皇:グラムゼン』が殺された場所。その力を宿す宝が眠る場所だ。今までは老人共の与太話だったが、地脈の暴走をきっかけに【占い師】共が騒ぎ始め、【転移者】や力の匂いに釣られておかしな奴らも集まって来た。王族共も狙っているのだろうよ。かつて世界を統べた竜王の力の残滓を……これが悪意の手に落ちた時、世界が大変なことになる」
グバさんはジョッキを飲み干して立ち上がる。
「俺は乱世でもいいがよ。一つ気になってなぁ。大森林で【英雄】と呼ばれたお前はどうする? グハハハハ、後は好きにやれ!」
立ち去るグバさんの背中を見ながらジョッキの酒を飲む干す。なーにが好きにやれだよ。
「……厄介事を押し付けられた感すごいんだけど」
「ですね。どうしますかご主人様?」
ファスの声音はどこか楽し気だ。
「僕等は冒険者だ……すごい宝があるなら手に入れたくなる」
「たまたま悪い人よりも早く手に入れちゃうだけだもんね。うんうん、これはしょうがないね」
「【赫竜の信奉者】がこの町で活動している理由も何となく見えてきたべな。カルドウスも絶対に動いているだ」
「皆、悪い顔しているっす」
(ボウケンダー!)
さて、これからどうするかな。
真也君はマイセンからもらったペンダントを大事に身に着けています。
次回は別視点が入るかもしれません。
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