第五百十一話:血霧のベラミー
「それじゃ、グバさんにも呼ばれているし冒険者ギルドへ行ってくるよ」
食事を終えて、やたら見てくるブラン・ロゼの団員達から逃げるように屋敷から立ち去ろうとする。
千早達が見送りについて来てくれたと思ったら、紬さんが刀の鞘を差し出してきた。
「真也、去る前にこの鞘に魔力を流し込んでくれ。千早の刀の修理に魔力が必要なんだが、こいつは中々大食いでね」
「別にいいけど鞘に魔力? 刃じゃなくて?」
「『松明丸』は刃こぼれしたり折れた刃を鞘に仕舞うと勝手に治るのよ。あそこまで折れていたら手を加えないとダメだろうけど、逆に言えばそれだけで直せるのよ」
千早が補足してくれる。刃こぼれ程度なら鞘に入れるだけでいいってことか。
「便利だな」
鞘を握って意識を集中する。体内の魔力の操作は日頃の鍛錬で慣れているのだが、こういう風に体外に魔力を出すのは苦手なんだよな。加減とかわかんないし、とか思っていると鞘がブルブルと震えて来た。
「なんか震えているけど!? これ大丈夫かな?」
「過剰だ。魔力を流すのを止めてくれっ! 相変わらず規格外の魔力量だな」
紬さんに言われて魔力を止める。ファスからも言われたことがあるけど、僕の魔力量はわりと多いらしい。まぁ、普段使う機会がなさ過ぎて自覚があんまりないんだけど。魔力を止めても微かに震えている鞘を紬さんに還すと横から千早が心配そうにのぞき込む。
「大丈夫かしら? 真也、加減しなさいよ」
「めんぼくない」
「問題ないはずだが……折れた刀を入れてどう反応するかだな」
「あっ、それならやりたいことがあるよ。刀の修理ってこれからするの?」
叶さんが好奇心に瞳を光らせている。ろくなことを考えてない時の顔だ。
「いや、素材の下準備もあるから本格的な修理は明日になるだろう」
「わかった。その時は知らせてね! とってもいいアイデアがあるんだ」
「ふむ、そう言う事なら知らせよう。真也、また後で……次に会うまでに団の子達をどうにしないとな……やれやれ」
「【赫竜の宿願】についてはまだ私達も調査中だけど、期待してくれていいわよ」
「う、うん。そういうのは得意だから。任せて」
日野さんが両手を握ってやる気を見せてくれている。三人に手を振ってギルドへ向かう。
「ファス、ギルドまで案内できるか?」
昨日立ち寄ったとは言え、まだまだ道は記憶できていないんだよな。ファスがしっかりとフードを被り直して杖で先を指してくれた。
「もちろんです。こちらです」
「ふぃ~、お腹一杯っす。しっかり歩いて腹ごなしするっす」
(れっつらごー)
ポカルの頭に乗ったフクちゃんが前足で指示を出していた。この二人仲良くなったな。
「……なんでポカルちゃんの方がフクちゃんに懐かれてるの!?」
「下心でねぇか。んー、オラとしてはモモカが研究していたっつう、旦那様の故郷の調味料にも興味あるんだがなぁ。まぁ、今度ゆっくり見せてもらうだ。ひとまず大人数の料理ができて楽しかっただ」
「え? 味噌とか醤油とかあるのかな。だとしたら絶対に手に入れたいぞ」
「だよね。あー、お味噌汁飲みたい」
トアとしては、ブラン・ロゼで大勢相手に料理ができて楽しかった様子。生産班の料理担当の子もずっとトアにべったりだったし料理を通じて知り合いが出来たようでなによりだ。
ファスの案内でノーツガルの街を歩いて行く。水路が至る所を流れているせいか橋が多く、陽の加減によって浮かび上がっている大水球で光が乱反射してキラキラと空気が輝いているようだ。船で渡れるという虹の路もあるし、不思議な光景だ。川船の移動も挟んで街の中心を目指す。そうしていくと、巨大な二隻の帆船を改造した『兄弟船』が見えてきた。
「冒険者も増えてきていますね。水路を使って獲物を運び込んでいるのですか」
ファスの視線を追うと、水路を通る川船に何かの魔物の角が積まれていた。マーマンと恐らくは爬虫類っぽい感じの獣人がそれを周囲に見せびらかしている。他にもでかい真珠貝を持って帰ったり、赤い珊瑚を運んでいたりもしている。冒険者達も活発にダンジョンに潜っているようだ。
水路は兄弟船まで続いており直接船を横につけて獲物を運び込むこともできるようになっていた。
「あれって大水球にいる魔物かな?」
「海底ダンジョンもあるんだよね。楽しみだねっ!」
「ダンジョンで【霊食】が取れれば、チハヤ達にも食わせてやりたいだな。ともかくギルドに入るだよ」
昨日はお金を降ろすだけだったもんな。巨大な二隻の帆船は半分は陸上に半分は水路に繋がった水場に浮いているようだ。やたら丈夫な渡し板にのって中に入ると、受付があるフロアになっていた。いくつもの依頼書が貼り付けられているクエストボードを横目に空いている受付に行くと、魚人の受付嬢がやや緊張した面持ちで対応してくれた。
「特別A級冒険者、シンヤ様『兄弟船』への御乗船大変光栄です。依頼をお受けになりますか?」
「いえ、このギルドを拠点にしているグバさんに呼ばれて来たんです。いますか?」
「グバさんですね……今は昨日の一件で浮島に呼ばれていました。しばらくしたら戻ると思います」
「それならご主人様。今のうちに冒険者のランクを上げてはいかがですか?」
ファスにそう言われたので、再び受付嬢に尋ねてみる。
「A級の昇格はギルドマスターが直接行います。この時間ならあの飲んだくれ、ゴホン、ギルマスは甲板にいるでしょう」
と言われた。というわけで、壁の端にある小さな階段から上の階へ上がる。どうやら建物としては三階層になっているようだ。一階は受付やクエストボードに解体場がメインで二階は武器とか探索に必要な道具とかが売っているようだ。奥はさらにゴチャゴチャした露店が並び怪しげな雰囲気だ、興味はあるけど、とりあえず一番上の甲板へ昇る。
「……酒の匂いだなや」
トアが鼻をスンと動かす。最上階に位置する広い甲板では昼間から冒険者達が酒を飲んでいる。船尾楼で料理や酒を提供してして甲板で飲食をするスタイルのようだ。
バンダナに最低限の胸当てとズボンという露出の激しい格好の妙齢の女性のマーマンが僕等に近づいて来た。褐色の肌のポカルとは違い肌は青味がかった色で腹筋は見事に割れており、身体はかなり筋肉質だ。ショートほどの長さの髪は藍色でウェーブがかかっている。
「あん? 見ない顔かと思ったら、昨日闘技場で戦ってた【死線の英雄】様かい。昼間から女を連れて酒でも飲みに来たのかい? いい身分だねぇ」
「いや、酒じゃなくて、グバさんを待っていてその間にギルマスとも話をしようと探していたんです」
マーマンの女性は酒瓶から酒をグビグビと飲み。息を吐くと自身を指さした。
「ギルマスならここさ。冒険者ギルド『兄弟船』がギルドマスター。ベラミー・ガランド。ここいらじゃ【血霧のベラミー】で通ってるよ」
「吉井 真也です。吉井がファミリーネームです」
「名前は知ってるよ。座んな、ラムでいいかい?」
「酒じゃないですってば。特別A級冒険者からA級冒険者への昇級がしたくて、ギルマスを探していたんです」
「んー、昇級っていうか。正式なA級の切り替えだろぉ。面倒だぞ、筆記試験とかあるしな。グバの奴は7回も落ちて、最後は自分の奴隷に試験を受けさせてたな」
グバさんめっちゃ落ちてるじゃん。というか奴隷に試験を受けさせるのありなのか。
「一応勉強はしてきたつもりです」
「アタシも試験の準備が面倒なんだよなー。ヒック……んー、そうだ。こうしよう、アタシからの依頼を受けとくれよ。そうすりゃ試験は免除でいいさ」
ベラミーさんが身を乗り出す。ギリギリで固定されている胸当てから豊満な胸元が零れそうになってるのだが……うん、ファスが怖いので視線は絶対に向けないようにしよう。
「依頼ですか? 正直、今はすることが多いのですぐに受けられるかはわからないです」
まずはポカルの家族を探すのが先だ。ランクの切り替え急いでいるわけじゃないしな。
「この街にいる間に達成してもらえばいい。下にいる受付に、アタシの依頼だと言えばすぐにわかるはずさ。最近じゃあ、腕試しに受けようとする馬鹿すらいないからね」
「わかりました。時間があれば、確認しておきます」
「あいよ。それにしても……噂通り、美女をつれてるんだね。相当の好き者と見た。昨日の戦いぶりはアタシも見たが腕前も本物。いいねぇ、どうだい今晩は私と過ごさないか、後悔はさせな……」
言い終わる前にファスと叶さんが前にでる。
「間に合っています。私達がいますから」
「なんだいケチだねぇ。興が削がれちまったよ。アタシは基本的にここで酒を飲んでるか船長室で寝てるからいつでもおいで、夜でも歓迎さ。アタシの奴隷も呼んで皆で楽しんでもいい」
「お断りします」
ベラミーさんは美人だとは思うが、メンバー以外とそういうことはしたくない。
「お堅いねぇ。まぁこれからわかりあえばいいさ。グバのやつに呼ばれたんだろ? あいつならすぐに戻るから待ってな。ここの腸詰肉は旨いから食べておくんだね」
ケラケラと笑いながらベラミーさんは酒瓶を手に船首の方にある船長室へ行ってしまった。
「……いままでに会ったギルドマスターとは趣が違うようですね」
「というか、あれでギルドの仕事できるのかな? 全然仕事しているイメージ湧かないよ」
「目が笑ってねぇし、酒に酔ってもないだ。ああいう手合いは油断しない方がいいだよ」
(マスター、チョウヅメ、タベタイ!)
「アニキ、モテモテっす!」
ポカル以外の女性陣はかなり警戒心高めのようだ。とりあえず、このまま海からの風を感じながらグバさんを待つことにしようか。
港街の冒険者はそのまんま海賊のような感じのようです。そろそろ、他の転移者も出したいところ。
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