第五百八話:衝撃の告白
後から聞いたのだが、ファスの氷刃による牽制は屋敷内からこちらを見ていた者の首元にも伸びていたらしい。一瞬で格の違いというか、容赦の無さをわからせたファスは氷を消す。
「……さ、桜木さん。あのローブの人って一体……」
「中で説明するよ。言っとくけど、次も刃を止めてもらえるとは思わない方がいいからね」
先程の勢いが完全にすぼまってしまっている赤羽さんである。うん、怖いよな。
僕だって怖いもん。なんなら、ファスのローブの中で糸を構えているフクちゃんはもっと怖い。すでに目に見えないほどの細い糸が周囲に張られているのがわかる。……糸を巡らすのはフクちゃんの癖というか本能的な行動なんだろうけど、数秒でもフクちゃんがその場にいればその周辺は彼女のテリトリーになるのだ。
「そうね、中で話しましょう。一応片付けはしたから」
「真也、姦しくてすまないね」
「今までのことを考えると、丁寧すぎる歓迎だよ」
心の中で自分のパーティーに戦慄しながら、案内されて屋敷に入る。玄関から大広間に繋がっているようで、広間は机が運び込まれてダンジョンの地図や武器が整理されて置かれている。建物は立派な屋敷だが中身は野戦の為の拠点のようだ。この広間は戦略室として使われているのだろう。広間には階段が設置されており、部屋にはブラン・ロゼの面々がこちらを見ている。わかってはいるけど、女子ばっかだ。今さらながらにちょっと緊張してきたな。
「……一応片付けたのよ」
ジロジロ室内を見渡していたら、そんなことを言われた。
なんか千早が恥ずかしそうだ。何を恥ずかしがっているのかはよくわからないな。
「別に気を遣わなくてもいいぞ」
「そう言ってもらえると助かるわ。本来なら応接室へ通すべきだけど、皆の前の方がいいからこの場所でいいかしら」
「どこでもいい」
「椅子はそこにあるものを使ってちょうだい」
飾り気のない木製の椅子を勧められたのでとりあえず座ると、ファスとトアは無言で僕の左右に立つ。ちょ、なんか僕が凄い偉そうになるじゃん。叶さんも目をキラキラさせて立ち位置を調整しようとしないで。
「叶はこっちでしょ。団長なんだから」
呆れた表情で千早が僕の対面の椅子を引く。
「え? いやいや、設立時や慰問では一緒に回ったけど一番大変な時期は千早ちゃんが皆を支えたんだから。私なんてお飾りだし……」
ブンブンと首を振るが、ブラン・ロゼの面子は誰もその椅子に座ろうとしない。
「異世界に来て、右も左もわからない時に私達を纏めて居場所を作ったのは貴女よ。離れていても、ブラン・ロゼの為に尽力してくれたことは忘れないわ」
「ここにいる誰もが君をお飾りとは思っていない。座りたまえよ、団長」
「……こんな時ばかりそんなこと言って……ありがと」
叶さんが僕の対面に座る。
「ブラン・ロゼ団長。桜木 叶です。よろしくね、真也君」
小首を傾げるあざとい仕草で叶さんがにっこりと笑みを浮かべる。
「副団長兼戦闘班、班長、小清水 千早よ。今さら自己紹介なんて変な感じね。叶不在時は団長代理をしているわ」
「参謀兼生産班、班長、中森 紬。フム、久しぶりに名乗ったが。次は別の名乗りがしたいものだ」
周囲の女子が凄い顔しているから、とりあえず匂わせるの止めてくれ。
「わ、私も名乗るの? えと、参謀兼隠密班、班長、日野 留美子です。うぅ、なんか恥ずかしい……」
「幹部四名に各班員を合わせて、総勢十七名。元の世界への帰還を目指す一団。これが私達ブラン・ロゼだよ。異世界にきた二十一名の女子のうちのほとんどがここの団員だよ。白星教会に近いけど、独立の派閥だね」
他の団員もいるということで、改めて名乗る流れのようだ。かつてのクラスメイトもいるのにこうして名乗るのはなんか変な感じだ。
「……吉井 真也。一応、ラポーネ王国第三王女のアナスタシア王女とニグナウーズ国ミナ王女に後見をしてもらっている」
僕が言い終わるとファスがフードを脱ぐ。零れる金髪とそこから覗く三角の耳、光の粒子が舞っているかのように錯覚するほどの美貌が衆目に晒された。
「「「……エルフ」」」
団員達はエルフを見たことがないようで、皆驚いているようだ。
「シンヤ様の一番奴隷、【氷華の魔女】ファスと申します。こちらは二番奴隷のフクちゃん」
(……)
ファスのローブから一瞬フクちゃんが顔を覗かせてすぐに引っ込む。団員達に直接名乗るつもりはないようだ。『奴隷』という単語に幾人かが眉を顰めるが声を挙げるものはいない。次にトアが優雅に礼をする。
「三番奴隷。トアだべ。旦那様の専属料理人をさせていただいてるだ」
「見習い、ポカルっす!」
元気に挨拶をするポカル。なんかさらに女子達からの視線がキツくなっている気がするぜ。
一通り名乗りが終わると、紬さんが叶さんと僕のちょうど真ん中に移動した。
「各々、真也のことで言いたいことはあると思うが、先にやることをすませよう。状況を整理すると、第一王女派閥の【転移者】からこの街から近い位置にあるダンジョンに元の世界へ帰る為のダンジョントレジャーが発生することを予言したという連絡があった。
実戦経験に乏しい第一王女派閥は各地でダンジョンを攻略をしている我々に協力を求め、予言の情報を共有して話し合いの場を要求している。そこに待ったをかけているのが第二王女派閥だ。彼等のパトロンである貴族達は私達も含め、【転移者】の利用に積極的で帰還をさせるつもりが無く、すでに妨害に動いているという情報を掴んでいる。
後程、叶にも説明してもらうつもりだが、カルドウスなる【魔王種】が暗躍し第二王女派閥の【勇者】と繋がっている可能性が高い。我々の大半が脱出した貴族の多くが第二王女派閥であることも含めて彼等は我々の敵になる可能性が非常に高い」
そんな状況だったか。僕としては宙野達と何かをするのは無理だ。第一王女派閥の人達がまともならいいんだけどな。そう言えば葉月は第一王女の所の貴族に召喚されたとか言っていたっけ。紬さんの後を継いで千早が口を開く。
「仮に第二王女の派閥とやりあうことになれば、私達はそうとう苦しい闘いになるわ。戦闘の経験値は負けない自信があるけど。転移者最大の強みである【竜の武具】を持ってないし、資金力もやっと自立できるようになったばかりだもの。第一王女の派閥とは協力関係を築いていきたいけど、正直なところ帰還のダンジョントレジャーがどんなものかわからない以上は私達が彼等を出し抜くことも考えているわ」
「だから【竜の武具】を持ち、かつ帰還のトレジャーを欲していない真也君達に協力を求めてるんだよね。しかも戦力としても一級品だもん」
叶さんがうんうんと頷く。
「僕等は【竜の武具】も使わないからな。そもそも宙野達と戦って手に入れたものだし、それでよければ譲ってもいいよ」
アイテムボックスから黒竜の素材で作られた弓と白竜の素材で作られた杖を取り出す。さっそく、生産班と思われる女子と紬さんが武器を確認する。
「ふむ【竜の武具】を見るのは初めてだが、とてつもない魔力を感じるな。適正がある子に持たせてみてどのような効果があるか調べる必要もあるな。これだけ魔力が高ければ暴発のリスクもある。慎重に見極める必要があるね」
「あ、あの……ひとつ聞いてもいい?」
竜の武具を見た生産班の一人が手を上げてこちらを見る。
「ん、何?」
「いや、普通に考えて吉井君側にメリットないよね。私達が渡せるものってダンジョントレジャーとかしかないし。良くしてくれるのはわかったけどそっちは何を要求するの?」
「メリット? 一応、ポカルの家族を探す為の情報を手に入れるつもりだったけど」
「いやいや、そんなの釣り合わないでしょ!」
と返されてしまった。だって、叶さんからのお願いだし。千早や紬さんとも浅い関係じゃない。普通に協力するものだと思ってた。
「それに関しては、我々の間で話がついているから心配はいらない」
紬さんが掌で指し示し、叶さんが立ち上がり胸を張る。あっ、嫌な予感。
「私がしっかりと真也君に『尽くして』いるから大丈夫だよっ!」
ピキリと空気が氷つく。何故かファスは頷いているんだけど、どういう意味での頷きなんだろう。
地獄のような空気の中、赤羽さんが前に出てくる。
「そ、それって、私達の為に叶さんがそこの男に無理やり……」
「違うよ。全然違う、勘違いさせてごめんねサラちゃん」
軽く返す叶さんに緊張した空気が幾分か和らぐ。
「だ、だよね。ごめんなさい変な想像をしちゃって、てっきり貴族達が私達にしたようなことをされたのかと……」
「私、元の世界にいたころから真也君のこと好きだったからね。損得なんか関係なしに真也君に告白したし、それで受け入れてもらったの。その上で、今回はちょっとズルいけど真也君にお願いしたいんだ。私のお友達を助けて欲しいって。どうかな、真也君?」
「叶さんの頼みなら断る理由はないよ」
元々協力するつもりだったし。
「そう言ってくれると思ってた」
そう言って、叶さんは僕の方まで小走りで寄って来て、そのまま僕を抱きしめた。
「だからね。皆、私達の真也君に手を出したらダメだからね」
「「「キャーーーーーーー!!」」」
ペロリと舌をだしてそう宣言し、広間は女子達の黄色い声で支配された。
「やりすぎです。カナエ、この騒ぎではまともに話し合いができないではありませんか」
ファスが唇を尖らせる。
「でも、このくらい先制した方がいいでしょ。さぁ、皆。恋バナしたい人は寄っておいでー、私と真也君の馴れ初めをズババーンと語っちゃうよ!」
「話し合いは終わっただか? んじゃ、オラは台所借りるだよ」
叶さんが女子達へ突っ込んでいき、トアが台所へ向かう。
爺ちゃん、胃が痛いよ。
「全く、叶にはやられっぱなしだな」
「そうね、でも、私も昨日のことで腹をくくったわ」
喧噪の中、千早と紬さんも近づいてくる。
「そういうことなら今回の協力依頼。報酬はブラン・ロゼとしてのバックアップに加えて『私』でどうだい真也? 【紋章士】としても中森 紬という一人の女としても君に尽くすよ」
他の女子に聞こえないように紬さんがそう囁いてくる。次に千早が耳に口を寄せる。
「どうしてもっていうなら、私も報酬にしてもいいわ。いいえ、するわよね。この女の敵。あっ、でも留美子に手を出したらダメよ。あの子はあんたみたいな女の敵じゃなくてちゃんとした人と幸せになって欲しいから」
「別に報酬とかなくたって力を貸すし、二人を報酬に要求するつもりなんて無いってば」
「釣れないことを言うじゃないか。こういうのはありがたく受け取ってもらった方が私達の面子が保たれると言う物だよ」
「そうね。男なんだから据え膳は食べなさいよ」
そんなことを言われてもな、もうハーレム主を否定するつもりはないが、それでもちゃんと向き合った結果でありたいのだ。するとどこからか日野さんもちょこんと机から半分だけ顔を出して、こちらを見ている。
「……私は千早ちゃんと一緒にいられるなら、吉井君のハーレムに入りたいな」
「だ、ダメよ留美子。何言ってるの!?」
「だって私、千早ちゃんが好きだから」
「へ?」
「もちろんラブ的な意味だよ。大丈夫、少女漫画好きで王子様を待っていた千早ちゃんの邪魔しない。むしろ真也君に恋してる千早ちゃんがより好きだから。だから私もハーレムに入れてね」
千早が完全に凍り付く。凄いタイミングでとんでもないことブッこんで来た日野さんはすぐにどこかに消えてしまい。千早はそのまま微動だにせず、しばらく立ち尽くしていた。
それで、僕はここからどうすればいいの?
と、途方に暮れるのだった。
勝手に百合の間に挟まれる主人公。
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