第六十八幕 『勝利のその先』
第六十八幕『勝利のその先』
「なんで我々に何も言わずに勝手なことを‼」
勝家の怒鳴り声が本部に響き渡る。
「何を考えているんだ!」 恒興が身を乗り出す。
彼の口調は普段より鋭い。
「そんな危ない橋を渡るなんて、正気の沙汰じゃないわ!」
帰蝶が睨むように視線を向ける。
「もし失敗していたらどうするつもりだった!」
長秀の言葉は冷静だが、その奥にある怒りは隠しきれない。
「なぜ一言の相談もなく、独断で決めたんだ!」
林秀貞は深いため息をつきながら問い詰める。
座る信長は、珍しく肩をすくめ、視線をそらす。
「……こうして無事終わったんだからいいじゃんか。」
しかし、場の空気がさらに熱を帯びる。
「何が『いいじゃんか』だ!」 勝家の語気が強まる。
「お前の無茶に振り回されてるのが分からないのか!」 恒興が拳を握る。
「次はどうするつもりなのか、ぜひ聞かせてもらおう!」 長秀が冷たく笑う。
静かに様子を見ていた佐久間は、すでに善照寺事務所で事の顛末を確認していたため、特に口を挟もうとはしない。
だが、横で腕を組んでいた男がふと肩をすくめる。
「いやぁ、さすがに軽率すぎるんじゃないか?」
「お前が言うな!」 恒興が即座に指をさす。
「そうよ、現場にいたじゃない!」 帰蝶の目が細まる。
「むしろ、巻き込んだ側だろうが!」 長秀が皮肉げに笑う。
利家はバツの悪そうな顔をして、「あ、いや…まぁ、そうなんだけどさ…」と引っ込む。
信長はその様子を見て、困ったように笑いながらつぶやいた。
「ほら、こうやって無事に騒げるんだから、結果オーライだろ?」
「開き直るなァ‼」
新政党の面々が、声を揃えて一斉に突っ込んだ。
佐久間信盛は湯呑を口に運びながら、心の中でぽつりと思った。
(……俺の時、こんなに揃ったことないんだけど。)
口撃の嵐はまだまだ続く。
勝家の怒鳴り声も、恒興の皮肉も、森の煽りも—— それぞれの色を持ちながら、見事に揃った一撃だった。
場は騒がしく、だがどこか心地よかった。 この空気が、新政党だった。
その熱気の中で、扉が静かに開く。
入室したのは、尾張警察の毛利新介、服部小平太、そして新政党党員の梁田政綱。 その後ろには、信長の密命を受けて動いていた男——藤吉郎(木下秀吉)の姿もあった。
場の空気が一瞬変わる。
彼らの姿を見た新政党の面々は、口撃を止め、自然と視線を向ける。
毛利新介の腕には、がっちりとギブスが巻かれていた。 その痛々しい姿に、すぐさま見舞いの言葉が飛ぶ。
「……大丈夫か?」
恒興が眉をひそめながら問いかける。
「骨折とは……無茶をしたな。」
長秀が腕を組みながら、少し苦笑する。
「だが、お前の奮闘がなければ、義元を捕らえることはできなかった。」
勝家が静かに言葉を添えると、毛利は軽く肩をすくめた。
「まぁ……やるべきことをやっただけですよ。」
その言葉に、場の空気が少し和らぐ。
一方で、藤吉郎は裏で情報操作を行い、今川方の慢心を誘導する役割を担っていた。
信長の密命を受け、義元の警戒を緩めるために動いていたのだ。 彼の働きがなければ、義元の防衛線はもっと強固なものになっていたかもしれない。
そして、最もその活躍を評価されたのは梁田政綱だった。
「義元の居場所を特定した情報を掴んだのは、お前だな。」 信長が静かに梁田を見据える。
「……ええ。確証を得るまで時間はかかりましたが、結果として役立てたなら何よりです。」
梁田は淡々と答えるが、その言葉には確かな自信が宿っていた。
「お前の働きがなければ、義元逮捕は実現しなかった。」
信長の言葉に、梁田は深く頭を下げる。
こうして、功労者たちへの感謝と労いの言葉が交わされる場となった。
怒りと称賛が交錯する中、新政党は次なる局面へと向かっていく——。
勝利の熱が冷めきらぬまま、笑いと叱責が入り混じる新政党の空気が広がりました。
だが、その喧騒の奥では、義元を追い詰めた者たちの静かな働きが確かに息づいています。
ここから先、尾張と三河の景色はさらに大きく変わっていきます。
次の幕で、その変化の兆しを静かに追っていただけたら嬉しいです。




