35話 入団試験
大星母で、かつての仲間であり地球人の止水歩との再会を果たした行方、楽は、それぞれ案内された部屋で休息を取った後、翌日に再び入団試験に呼び出されていた。以前、行方も呼び出されたことのある大団長、白蓮の部屋。どこの部署に所属することになろうとも、新人を入れる時には、白蓮が全てを監修することになっていた。
止水は、腕に嵌めた時計のような機械から映像化したキーボードとスクリーンを出現させ、器用に入力を始める。
「入団試験……といっても、大星母でやることはそんな難しいことではない。まあ、君たちの強さを既に知っているからという部分もあるのだけれどね」
そう言いながら、白蓮はいつものように朗らかに笑うと、行方の肩にそっと触れた。
「君たちの真意を覗かせてもらう。一片の敵意が本当にないのか。本当に他者の為に動ける人材か――――」
その言葉に、行方は何も反応は示さなかったが、楽は途端に顔色を変えた。
「や、やべぇ……! 俺、自分の為に動いてること、結構ある気がする!! 受かんねぇかも……!!」
「ははっ、大丈夫だよ。むしろ君のようなタイプがこの試験に不合格する可能性は低いさ」
そう言って、白蓮は絆すように楽の背を叩いた。
(そうか……。この入団試験は悪意・敵意を図るものだと言っていた……。それは、『他人の為に動けるか』という部分とはまた違うことが見られる……。僕の目的は――――)
行方にも再び緊張感が漂う中、止水は画面を光らせ、全員に視線を向けた。
「ミトさんから、Dルームが使用可能だと連絡来ました。準備も既に整ってるみたいです」
「よし、じゃあ早速行こうか」
止水の案内により、Dルームと呼ばれた場所へと向かう。そこには、壁一面に機械が埋め込まれ、鉄柵と、中心には相対するように置かれた椅子が設置されていた。
「なんだ……? この部屋は……。思っていたのと……」
なんとなく、入団試験と聞いて、行方は昔やった身体測定のような、トレーニングルームにでも通されるのかと考えていたが、そこには椅子しか見当たらず、白蓮の言っていた『真意を覗く』という意味を少しだけ察した。
「あそこの椅子に座ればいいのか?」
白蓮に「君は大丈夫」と言われてから一切の不安がなくなった楽は、全く怖気なく椅子を指差した。
「そうだね。一つにはどちらかが座ってもらい、どちらかには大星母の人間が座る。奥の椅子に座った者の記憶を、手前の椅子に座った者の中へ全て移す。それにより、全くの悪意がないことを示させてもらう」
「記憶を……全て……? そんなことをしてパンクはしないのか……?」
「あぁ。記憶を移す、と言っても、記憶が全て瞬時に流れるわけではない。移動が終わったら、思い出す、といった形で自分が実際に体験したかのようになるんだ」
行方は、ふぅむ、と顎を抑える。何故なら、行方は一時とはいえ、異能教徒という悪人の組織に所属していたり、異能政策課と手を組んで第一級犯罪者と共にしたりと、真っ当に生きてきた、というには少し気掛かりな部分だった。
そんなことをぐるぐる考えている間に、楽はニタニタと笑いながら既に椅子へと座っていた。
「楽くん、記憶を覗く相手を選べるのだが、誰がいいとかあるかい?」
「うーん。俺ァ、止水の兄ちゃんしか知ってる奴いないから誰でもいいぜ」
「僕と歩くんは監修だからね。ルミナスで一度会っているトートくんにお願いしようか」
「判りました」
白蓮が名を呼ぶと、サッとトートが現れた。どうやら、行方と関係のある隊員は既に呼び出されているようだった。
「記憶を覗く相手を自分で選んでいいのか……」
「うん、そうだよ。既に大星母の隊員は全員この試練を受けている。誰を選んで貰っても構わない。万が一の為に僕とミトが待機しているしね」
行方が考え込んでいる間にも、楽の前にトートが座り、楽の入団試験が開始された。
ミトがガラスで覆われたボタンを押し込むと、部屋全体が急激に光り、多少の機械音が鳴り響いた途端、トートはグッと前屈みに目を手で覆った。
「ど、どうしたんだ……?」
白蓮にもいつもの笑みはなく、話で聞いていた限り負担はないはず。しかし、トートは苦悶している様子を浮かべていた。
「トート……? 大丈夫か……?」
「楽くんの記憶………………悲壮すぎる……!!」
そう言うと、トートはぶわっと涙を溢れさせた。
「ト……トートはこんなに感情豊かだったのか……。もっとクールなのかと思っていた……」
汗を滲ませ様子を伺う行方の隣に、いつの間にか昇月は並んでいた。
「トートは真面目なだけなんだ。基本的には優しく、感情も豊かだ。だから常に治療薬を携帯してるんだ」
そして、トートは泣き続けながら苦笑いで見つめる楽に語り掛ける。
「地球人というのは皆こんな業を抱えているのか!? たしかに狂気的で自由奔放なところもあるが、仲間の支えでしっかり戦士として成長している……! 使える能力が闇や魂といった部類ではある為、多少の危険はあるかも知れんが、俺たちが必ずお父さんを助けられるように援護しよう……!!」
「というわけで、楽くんは正式に認められたということだね」
そう言うと、トートの号泣解説を聞いた白蓮は、朗らかにトートの肩を叩いた。
「それじゃあ次は行秋くんだ。記憶を覗く相手は決まったかい?」
そう言いながら、鋭い視線を行方へと向ける。
「それでは、ニコにお願いしてもいいですか?」
「まあ……たしかにニコは行秋と最初に出会い、交流としても一番長い気はするが……。ニコは理性的ではないぞ……? 本当にいいのか……?」
「ちょっと! 人を馬鹿みたいに言わないでくれる!? 私にだってみんなと同じ選ばれる義務があるんだから! まあ……初めてだけど……」
行方の指名後、ニコも待っていたかのように現れる。昇月は若干の不安を唱えるが、行方の意志は変わらなかった。
「頼めるか? ニコ」
「まあ……うん……。自信はないけど……」
そうして、行方とニコで椅子へと座る。再び、ミトがボタンを押すと、部屋中がピカリと光る。
「本当に何もないんだな……。ニコ……大丈夫か……?」
行方が恐る恐るニコを見遣ると、ニコは顔面蒼白にただただ肩を振るわせていた。
「ニコ…………?」
「行秋は…………」
そして、顔面蒼白なまま行方に視線を向ける。
「龍星群のスパイだった…………」
「は…………?」
その発言に、場の全員が呆然と口を開く。白蓮もまた、鋭い目付きで二人を見つめる。
「ちょっと待ってくれ、ニコ……! ネージュでは命から柄に蒼と戦った……! ルミナスでも、別次元の自分と言われながらも、龍星群のボスとも戦ったんだぞ……!! それはここにいる人たちとも証明ができるはずだ……!」
ニコは少し冷静さを取り戻しながら息を呑む。
「ごめん……。言葉足らずだったね……。あのね、行秋。よく聞いて。ネージュで真眼の紅に変なこと言われて、行秋はそれを『自分を惑わせる発言』としたんだよね」
「あ、あぁ……。大星母から昇月とネージュに向かった際、最初に出会ったのが紅だと言われた……。恐らくそれらは真実の可能性も視野に入れている。二宮の意識はアレ以来見ていないから決定打に欠けているが……。それらを加味しても僕は龍星群と手を組まないことにしたんだ……」
殺伐とした状況の中、白蓮はパンパンと手を叩き、全員の視線を向けた。
「今日は終わりにしようか。話していても埒が明かないし、行秋くんには記憶がなくて、その記憶をニコだけが見てしまった……というのが一番濃厚そうだしね。でもそれなら丁度よかったよ。次の大星母の行き先で、行秋くんの無実を晴らすことができるはずだ」
「記憶のない僕の…………無実を…………?」
「あぁ。次の目的地は "下羅狗" ……。私と昇月の故郷だ」
そうして、入団試験は保留のまま、大星母の戦艦は下羅狗を目指して発進した。




