20話 神能
眩しい眼差しが、オシリスを見つめる。
「オシリス、遂に惑星を創り、世界を創造する気になったのですね……!」
「あぁ。家族と共に平穏に暮らせていればいいと考えていたのだがな。やはり、神族が多いこの地では内乱が多すぎる。子供たちには……平和に暮らして欲しいのだ」
「私も……お供しても宜しいですか……? きっと……オシリス様の力にも、イシス様の力にもなってみせます……!」
「それは助かるよ……! 平和な惑星にできるよう、君の力を貸してくれ! マアト!」
*
反逆軍 ホルス軍基地 地下。
マアトはホルスを裏切り、ボロボロの施設ではあるが、専用の牢獄に幽閉された。
「マアト……。眠れているか……?」
気を失いそうな中、涙も枯れた頃のマアトを、ホルスは見に来ていた。
「ホルス……。僕を……殺してくれ……。君を裏切ってしまった……僕を……」
しかし、ホルスは無言で拒む。ホルスは歯を食いしばった。
「どうして……。どうして僕を殺さない……。君の母の幽閉に加担していた……。アキのことも投獄させた……。僕こそが……真の罪人なのに……!」
「少し頭を冷やせ、マアト。裏切りはたしかに見過ごせない行いだ。貴様を自由にする気はない。だが、最初にも言ったことだが、我々は貴様を処刑する気もない」
「殺してくれよ……。ホルス……」
ホルスは黙って地下を去り、支度を整え終えた軍隊に向けて言い放つ。
「進軍だ。セトを討つ――――!」
巨大な歓声と共に、ホルス軍は王城へと向かう。その歓声は地下まで響き渡り、枯れたはずの涙が再び溢れるマアト。イシスは、深い眠りに着いていた。行方はナツ、レイザーと合流し、トートと共にホルスの後方を歩く。
城門前にホルスの軍勢を待ち構えていたのは、大太刀のファラオ率いるセトの軍勢だった。
「ここで全員を殺し、この紛争を終わらせる」
そう言いながら、ファラオはその長い大太刀を構えた。
汗交える軍隊、それだけファラオという男の力は恐ろしいのだ。しかし、ナツはいつもの不敵な笑みを浮かべながら群衆の前に出た。
「また貴様か。今度は最初から全力で行かせてもらう。逃げられるとは思わぬことだ」
「ありがたいことですね。この惑星で二番目に強い方に警戒して頂けるなんて。ただ……」
ザッ…………
ニタリとしたその笑みは、ファラオの横に並ぶ。
「貴様……! 以前より早く……! いつの間にそんな力を……!」
「ふふ……。侮らないで頂きたい。貴方はこの惑星で二番手かも知れませんが……私は地球で一番強い」
すると、再びワープでファラオと共にどこかへと消えてしまった。
「あの男……何者なんだ……? あの大太刀のファラオを圧倒するだけでなく、たった一人で相手するというのか……?」
「彼は……誰にも計ることはできない。僕がいた惑星のラスボスだからな」
「ラスボス……? とは一体なんだ……?」
「今このラムセスでいうところの……セトのようなものだ」
ホルスが呆然と見遣る中、行方は笑っていた。
「軍勢は俺に任せろ!」
そう言って飛び出すトート。トートの出生はここ、ラムセス。その為、トートとは、
-神能・イシェドヒート-
ゴッ…………!!
敵の群衆の地面は荒れ、烈火の渦が舞い上がり、軍隊を一斉に吹き飛ばした。
トートとは、オシリス、セト、イシスに並ぶ、神族である――――。
「やはり、トートまでもが裏切り者であったか……」
その声に、全員は身を強張らせる。
「セト……!!」
セトは、軍勢の背後から黙って眺めていた。憤慨もせず、至って冷静に――――。
身を硬直させ、緊張感が走るホルス軍の前に、セトは一人で悠々と右手を空に上げた。
-神能・砂王の乱-
その瞬間、周囲は砂嵐が巻き起こり、中からは先ほどファラオが率いていた軍よりも多勢の軍隊がホルス軍を囲った。
「なんだと……!? これが……セトの神能なのか……!?」
「無知な王子よ。国が繁栄しているのが、この中央国だけだと思うか? この惑星には、貴様も知らぬ国々が多様に存在している」
「そんな……! そんなこと、父からは一言も……。地図も詳しく調べたが、この中央国のことしか記されてはいなかった……!」
行方からしたら、惑星に様々な国が繁栄している、そんなことは当たり前のように思えた。しかし、国政、惑星の王となっていたオシリスから中央国のことしか聞いていなかったホルスからしたら、信じられない真実であった。
「おい、ボサっとするな、ホルス……。俺の神能には限界がある……。何度もこの軍勢に神能は使えねぇぞ……!」
トートは一度、ホルスの下に戻りながら汗混じりで告げる。
ナツもいない、レイザーは強力だが、複数人をまとめて相手できる異能力ではない。やはり、数には――――。
「反逆軍……戦闘開始だ!!」
ホルスは大きな声で軍に声を上げると、「オ―――!!」と軍勢に向かって走って行った。
乱戦が始まる。
「さて……貴様らは、私自ら制裁を下そう……。この惑星の王として……!!」
そして、セトが動く。
ガッ…………!!
ホルスを狙うセトの刀を前に、レイザーがその刀を溶かす。読んでいたかのように、行方はセトの背後へと回る。
「レイザー!! 畳み掛けるぞ……!!」
「言われずとも……」
行方が刀を振り、レイザーはそのままセトを眼前に冷気へと体温を変える。
しかし、
「貴様らが噂の異星人か……」
ゾク………………
二人は異様な殺気に、攻撃を仕掛けずにその場から退避した。
(今、攻撃を仕掛けていたら……確実に殺されていた……。僕は殺されても龍星母の船に戻るだけだが……ここで僕たちが退却してしまえば……ホルス軍は確実にやられる……!)
少しすると、刀の焼け目を眺めたと思えば、刀はすぐに直ってしまった。
「アキ……。どうやら、セトの神能は今の砂嵐だけじゃないみたいだね……」
レイザーもその殺気に気付き、更に奥底に秘めている力を感じ取っていた。
ファラオは引き剝がした、しかし、底知れぬセトの力は圧倒的なものだった。それでも、軍勢に軍勢を向けられたのは大きい……。
「ホルス……」
行方は、尻込んでしまったホルスを見つめる。今回の作戦は賭けな部分が大きかった。
一番の強敵になるだろう大太刀のファラオを、ナツがたった一人で引き受けると言い出し、トートは軍勢を圧倒する力がある。セトに軍勢を仕向ければ、行方、レイザーも残っている。
勝機は確実にあったはずだった。しかし、惑星の王、父オシリスを討ったセトの力を舐めていた。――――というよりも、戦闘においてはファラオが指揮を執っていた為、ここまでの差があるとは思ってもいなかったのだ。
そして何より……。
「お母様……。私は……やはり成せないのか……」
イシスからたしかに、父の神能を受け取ったホルスであったが、その中身は――――。
*
「え……? 死者を無事に送る為の力……?」
「そうです。貴方の父、オシリスの神能は、死者の魂を冥界へ着実に送れるようにする力。戦闘においては何の役にも立たないわよ」
脱帽するホルスに、行方は声を掛ける。
「僕は納得がいった。僕の惑星でもそうだが、魂が冥界に行けないことは、生者にとって酷い弊害になることもある。オシリスが平和な国にしたいという望みの下でこの惑星を創造したのであれば、その力は国政にとって有力なものだ。そして、その力をセトが欲することも頷けること。それほど、魂というものは深く……難しいものなんだ」
しかし、その力を得ればセトを打倒できると切願していたホルスにとって、簡単に頷けるものではなかった。
だが、青褪めるホルスに、イシスは向き合う。
「自分を信じなさい。自分の中に巡る……オシリスの血を……。貴方の神能を開花させれば、きっと……!」
「私の神能は……ただ見えなくさせるだけの力……。私には……」
そんな心中の中でも、動き出さなければならなかった。反逆軍の軍隊長として。マアトを失い、頭が自分一人になった者として。




