19話 能力の真価
大太刀のファラオと共に、ナツ、レイザーの二人は、果てのない荒野へとワープしていた。
「ここは……? 別の惑星ではなさそうだが……。貴様……一体何をした……?」
ナツの異様な能力に、セトの右腕と名高い強者であるファラオも、動揺を露わにしていた。
レイザーもナツが何をしたのか理解していなかったが、ボーっと荒野を眺めていた。
「どうやって帰るんだろ……。まあいいけど」
「あははっ、大丈夫だよ、レイザー。ちゃんとさっきのように一瞬で帰れるから」
そう言って、余裕の笑みを浮かべるナツ。ファラオは一瞬たりとも気を抜かず、ナツを睨み続けている。
「君も……そんなに殺気立たないでくれ……。君がいくら警戒しようとも、私たちには勝てないのだから……」
「貴様……舐めるのも大概にしろ。たかだか奇襲が一度二度成功しただけのことだ。私は未だ神の能力を使用してはいない」
「さっきの刀が一切効かない様子を見た上で、その神の能力とやらは我々を超越できるとでも?」
ファラオが構えを取ると、大太刀は煌びやかに光り始める。
「貴様らを早く始末しなければ……。嫌な予感がする」
ゴッ――――――!
「あっ……」
次の瞬間、ナツの身体は真っ二つに切り裂かれていた。人形の為、血は出ていない。
「あれ、帰れなくなっちゃった……」
その光景を、呆然と眺めるレイザー。
「次は貴様だ。灼熱の皮膚を持つ男よ……」
「うーん。なんかヤバそう……」
ファラオが斬り掛かろうとしたその瞬間、レイザーは再びイシスの部屋へと戻って来ていた。
「あれ? 帰れた。死ぬのかと思った」
「煽りすぎたけど、彼の神の能力が判ったから、一時、戦略的撤退だね」
そう言いながら、ナツはヘラっと笑った。
「それで、一体どんな魔法使ったの? まあ、お前のことだから僕には想像も付かないことをしでかしたんだろうけど」
そう言いながら、レイザーは適当な椅子に腰掛ける。捕らわれていたイシスと言えど、大事に扱われていた為、ふかふかのソファが置いてあった。
ナツは兵士たちがこちらに気付いていないことを確認しながら、部屋の扉に背を靠れさせる。
「そんな難しいことはやっていないさ。でも恐らく……この能力を持っている張本人、人形師の橙でもできないことではあるだろうね」
「どういうこと? 僕、馬鹿だから判りやすく教えてよ」
ナツは一本指を立てる。
「まず一に、私はアキくんから又貸しで橙の能力が使える状態だから、能力に制限が掛けられている。橙と同等に、何体もの人形を生み出せるアキくんと違い、私は君を創って能力はお終いだ」
「じゃあ、ナツはもう、僕をここに呼んだ時点で何もできないってことじゃん」
ナツはニタリと笑みを浮かべる。
「そうやって、橙もアキくんも考えてしまうだろう。その時点で終わり……だとね」
次に、二本目の指を立てた。
「私はアキくんの意識外から自ら勝手に自分を創り上げた。言わば、その時点で『アキくんの能力も私が勝手に使える』という状態になった」
「でもそれは、アダムの力で、地球にいたからできた芸当だろ? こっちに来てるんじゃ同じことは行えない」
「その通り。でも、この解釈を覚えておくと、次の説明がすんなり入ってくる」
そして、レイザーの不思議そうな顔を見遣りながら、三本目の指を立てた。
「勝手に創れた、ということは、『勝手に帰る』ということも可能だった……。これで、もう大体は察せるんじゃないかい?」
一瞬、レイザーは意味が判らずボケっとした表情で空を見たが、ハッと気が付く。
「そうか。好きに地球に戻れるなら、地球で行ったさっきまでの能力が再び使用できるってこと……。無限生成を可能にしたってことか」
「そういうこと。だから橙でさえ知られざる異能の真価……。まあ、私の能力と合わせた応用といったところだね」
「まあ別に使えるならいいかなって聞かないでおいたんだけど、僕が人形の身体なのに異能を使えるのも、その応用ってやつの効果ってこと?」
「そうだね。さっきまでのものは自分がこの惑星に来れた時点で、確証を得ていたけど、異能の使用は正直、賭けな部分が大きかった」
「というと?」
「人形師の橙の能力は『魂の移動』だ。器が変われば、当然異能は使えなくなる。じゃあ、"ただの人形" ではなく、"複製" の場合はどうだろう……」
「人形で……人間の身体をDNAまでソックリそのまま作り上げた……ってこと……?」
その問いに、ナツは微笑みで返した。
レイザーはそっぽを向いて、「やっぱお前って気持ち悪い」と吐き捨て、チラリと扉の奥を覗く。
「じゃあ、どうする? セトって神様、殺しに行くんでしょ? 僕たちで行っちゃう?」
「いや、やめておこう」
ニッコリ笑いながら、レイザーの肩に手を置く。
「恐らく、セトはファラオよりも強力で予想外な神の能力を宿している。実際、今の私たちで勝てるか確証は持てない」
「で、本音は?」
そして、再びワープを行い、反逆軍のナツの部屋へと戻って来た。
「行秋くんの成長を止めたくない。仮に僕たちが殺せてしまえば……彼はここまでだったということになるからね」
「はぁ……。話には聞いていたけど、僕はその時に生まれてなくてよかったよ。大変だなぁ、アイツ」
*
行方、トートの介入により、マアトを捕縛し、無事にイシスをホルス軍の本拠地まで連れて来られたが、依然としてイシスは悲しげな表情を浮かべていた。
「お母様……やはり、お身体の具合が宜しくないのですか……?」
イシスが病床に伏していることはセトも知っていた為、生き長らえさせる最先端の医療を注ぎ込んでいた。すぐにセトの打倒を果たせれば……と考えていたホルスだが、その表情から不安を募らせる。
「いいえ……。嬉しいのですよ、ホルス……。貴方に、こんな勇敢で、頼れる仲間ができたのですから」
そう言うと、涙ながらに笑みを浮かべた。ホルスは少しだけ照れ臭そうに口を噤んだ。
「ここまで連れてきてくれたのです……。私がここまで守り抜いた貴方の父の能力……。私の死をもって……貴方に授けましょう……」
「私の死をもってって……。そんなことなら受け取りたくはない!! お母様には生きていて欲しいのです……!!」
しかし、イシスの決意は変わらないように見えた。
そんな、誰もが一歩退いてしまいそうな場面で、トートはグイとホルスを押し退ける。
「イシス様、その病気、治るっス」
「え……?」
「俺が潜入していた理由でもあったんスけど、イシス様の病を大星母より調べ、病を良くする為の薬の開発に成功しました」
トートは簡単に言う為、全員は呆然と口を開く。
「な、治せるのか!? 母の病が……!! このラムセスの医療では、何十年と研究しても特効薬など見つからなかったというのに……!!」
「そりゃそうだ。この惑星では本来発症することのない病。特効薬になるものも、この惑星には存在しないんだよ」
気が付いた頃には、ホルスは珍しく、涙を浮かべさせていた。
「それじゃあ、心置きなく貴方に父の能力……。真の神の力を授けることができるわね」
「真の神の力……」
神族のみが持つ特殊な力。惑星エネルギーさえをも生み出す、神能。
全てが順調、勝利への光が差し込んだと素直にそう思った――――が、
「でも……この力を授けたからといって、セトに勝てるかは定かではないわ……」
「そんな……!! セトでさえ欲しがる力なんじゃないのですか……!?」
「当然よ。『乗っ取られた』という言葉で忘れているのでしょうけど、父オシリスとセトは実の兄弟。同等の力を持って生まれてきたのよ……」
たしかに、と、全員は再び俯く。
「しかし、同等とはいっても、力の中身は違う。あとは……貴方と仲間たちの力で打開してみなさい……!」
そう言うと、イシスは鋭い目でホルスを見つめ、手を差し出した。




