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宇宙の行方  作者: 春木
第二章 神の治める地
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18話 騙し合い

 イシス、及びファラオが消えた報せは、すぐに城内を駆け巡り、暴虐の徒セトの耳にも入った。当然ながら、セトは怒りを露わにし、その場にいた兵士たちを次から次に殴り付けた。


「ファラオまで……何をやっているんだ……!! イシスの中に入っているオシリスの力さえ私のものになれば……!! 悲願だったんだぞ!! 私の!!」


 今までは、右腕、大太刀のファラオが兵士たちの前に出ていたが、セトに名前さえ覚えられていない兵士たちでは手に負えず、次に頼れる兵士が駆け付けた。


「トート、ここに参りました。セト様」

「トート……。私の悲しみが判るか……? 貴様にはマアトの介入を任せていたが、すぐにファラオを……。いや、もうあんな奴はどうでもいい。イシスを連れて来い!!」

「畏まりました。しかしながらセト様、ホルスの能力は透過するもので、それを予測してのファラオ殿の配属。それを凌ぐ協力者が反逆軍側にいると考えられます。私は今すぐにイシス様の奪還に向かいますが、セト様がご乱心なされていては、兵士たちが動揺し、敵に攻め込まれる可能性も……」


 トートの声掛けに、セトは静かに王座に座る。


「そうだな、トート。悲劇に酔っている暇はない。聡明な部下を持って私は幸せ者だ。イシスは任せたぞ」


 セトが人名を覚えることは稀なことで、その力や権力を認められない限り、セトはその名を覚えない。逆に言えば、恨み以外で名前を覚えられた場合、それは相当の信頼に値する。セトに一つ弱点がないとすれば、『暴虐の徒』と呼ばれ、すぐに乱心する心持ちではあるが、部下からの言葉でも、正論を突き付けられたらしっかりと冷静になれること、それを知って、聡明な部下を配下に従えていることがセトの強みだだった。


「仰せのままに。我が主、セト様――――」


   *


 ホルスが息も絶え絶えに反逆軍の隠れ家へと、母イシスを連れて来てすぐに、二人は周囲を囲まれていた。


「おかえり、ホルス……」


 それは、マアトの軍隊だった。


「クソッ……!! こんな時に……!! アキはどうした!? アイツに見張らせていたはずなのに……!!」

「アキなら、異星人だとすぐに判ったから、セトの城に投獄させたよ。君も異星人だとすぐに判ったろ?」


 武器を構えた軍を前に、マアトは一人前に出る。


「さあ、何も言わずイシス様の身柄を渡してくれ。僕は……君を騙してしまったけど、君と戦いたくはないんだ……」

「私と戦って……貴様が勝てると思っているのか……?」


 ホルスはマアトに向かって刀を構える。

 しかし、その眼光にマアトは悲しげな顔を浮かべた。


()()()を……君と一緒に歩みたかった……」


 次の瞬間、ホルスは絶句する。眼前には目で追えない速度で移動するマアトに、既に首まで付けられた刃。

 コイツも、()()()()()()()を与えられている――――。


「ここまで……なのか……」


 目の前が真っ暗になった。

 その時、


 ガッ――――――


「「 お前は……!! 」」


 マアトとホルスから、同じ言葉が同時に放たれる。

 マアトの刀を止めたのは、行方だった。


「どうして君がこんなところにいるんだ……! アキ……!」

「お前……捕らえられたんじゃ……」


 ゴッ――――――!!


 行方はそのまま、マアトの刀を砕いた。


「クソッ……!!」


 マアトはそのまま大きく退く。


「仕返しさせて頂きました……。マアト……"軍隊長" ……」

「ぐあぁっ!!」


 そして、次から次に聞こえてくる叫び声。

 行方と共に現れたのは、


「トート殿……!?」


 現在、セトの前にいるはずのトートだった。

 形成は瞬時に逆転し、トートの破滅的な一撃でマアトの連れて来た軍は一瞬の内に壊滅した。

 残されたマアトは、苦渋の顔で睨み付ける。


「騙されていたのは……僕の方……」


 マアトは戦意を喪失し、その場に膝から崩れ落ちた。


   *


 行方が幽閉されたその日、見ず知らずの男が扉を開けた。

 いや、厳密に言えば見たことがあったはずなのだが、いかんせん見辛かった写真で、本人と判らなかった。


「お前は()()()()で合ってるか?」


 この惑星では名乗ったことのない名前を訊ねられ、行方は一瞬動揺を示すが、すぐに頭が理解する。


「貴方は……()()()()()()()ですか……?」


 赤と黒で半々に髪が分かれている男で、トートと名乗った。大星母からのスパイではあるが、元々この惑星の出身で、オシリスの死に嘆き、大星母の決定を押し切って単身で乗り込んできたと話す。

 彼はセトに取り入り、気に入られるように働き、内部から王政を崩壊させようとしていた。


「じゃあ、マアトが取引してたのは貴方だったんですね……」

「そうだ。早い段階で反逆軍の裏切り者の正体を掴んだまではよかったが、マアトは既にセトに気に入られていた。下手に手を出そうものなら、俺が怪しまれる」


 行方の手枷は外さず、いかにもトートが囚人を引き連れているかのように兵士を騙し、容易に脱獄を成し得ていた。


「でも、どうして僕が潜入していることを大星母は知れたんですか……? 僕は紅に従わされていたのに……」

「それは簡単だ。今回に関しては、セトを打倒するという()()()()()がある。だから、龍星群から一方的に、『行方行秋という地球人を潜入させている』と情報を受けていた」


 暗号を入力し、手枷を丁寧に外した後、トートは鋭い目を向ける。


「お前、帰った方がいいぞ。マアトに敗けたんだろ? 大団長は気に入っていたみたいだが、正直、神族を相手にするどころか一兵士にも勝てないようじゃ、戦力外だ」


 少しの静寂の後、行方は口を開いた。


「192-8703……」


 その番号を聞いて、トートは目の色を変える。


「お前が……何故その数字を……?」

「僕の手枷の番号。そして、7938-4549-85325。かなりややこしい文字列にしたんだな。相当警戒していたのか……」


 驚くと同時に、むしろ警戒心を強めるトート。

 その数字は、


「ホルス軍隊長の母、()()()()()()()()()()()ですよね。その数字は、ファラオとトートさん、それと、あと一名の兵士にしか伝えられていない」

「お前……。どこでその情報を仕入れた……? お前は、マアトに敗けてからずっと幽閉されていただろ……?」


 行方が右手を開くと、その場には藁人形が現れる。そして、次第に行方の姿へ変化していった。


「人形師の橙の能力……。しかし、人数が増やせたところで、お前は城内を好きには歩けない……」


 すると、行方の姿に変わった人形は、ネズミの姿へと変貌する。


「理解した。すまないな、戦力外と言ったこと、訂正させてくれ。しかしお前は今、人形師の橙の能力しか使えないことに変わりはないんだろ? ならばどうする?」


 行方は静かに人形の姿を消すと、神妙な顔でトートを見つめた。


「僕に……()()()を教えてくれ……!」


 トートは戦闘に特化している。行方が何を以てしてその力を欲するのかすぐに理解し、静かに頷いた。

 二人は行方の能力で互いの人形を作り、『異星人のアキは幽閉されている。それを見張るトート』という図を作り、夜間は誰も訪れないという兵士の訓練場にて行方の訓練は行われた。


「お前が求めているのは、()()()()()()()()()のことだろう?」

「そうです。宇宙には、僕の地球に存在する "異能力" と呼ばれる力が存在しない。その代わり、"能力" と呼ばれる特異な力がある。しかし、下羅狗と呼ばれる種族は特異な能力ではなく、肉弾で戦闘していた……。あの力は、種族の血だけでは説明できない」


 惑星ネージュでの白蓮や昇月の戦闘を思い返しながら、行方は訊ねる。トートは、ふむ、と納得するように腕を組み、真剣に見つめていた。


「下羅狗は特殊……それは変わらないが、粗方お前の予想通りだ。宇宙には宇宙の戦い方がある。それが "星力(せいりょく)" の力だ。その名の通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()させるんだ」

「惑星エネルギーを利用……」


 行方は惑星ネージュにて、初めて惑星エネルギーの話を聞く為、習得にも時間が掛かると思われたが、人形師の橙は既にその力の利用方法を習得しており、身体が思い出すかのように一晩でその力を扱えるようになった。


「これが星力の力……。これなら……異能力がなくても戦える……!」


 そして、朝焼けの光が差し込む中、行方はトートからセトを打倒する為の作戦を聞く。

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