17話 潜入
中央国の中心に位置する城、かつて神族オシリスが暮らしていた城には、暴虐の徒セトとその軍に占拠されている。
そんな中に、ホルス、ナツ、レイザーの三人は潜入を開始していた。
「凄いですね、ホルスさんの能力。本当に我々の姿が敵の兵に見えなくなってしまうとは」
ホルスの能力は物の場所を見えなくする能力かと思われていたが、人物を消すことも可能で、城内へは容易く潜入ができていた。しかし、これを今まで行わなかったのは、信頼に値する者がいなかった為である。幼い頃からの友人であるマアトでさえ裏切りを垣間見たホルスは、このラムセスの住民で真に信頼に値する者はもう居ないと考えていた。
そして、元々、他の惑星や大星母から交易を求められていたことは父のオシリスから知っていた為、セトが蹂躙を始めたこの機に、他の惑星からセトを討ちに来る者がいないかと、今のこの時まで耐えていたのだ。
「黙っていろ、ナツ。姿は消せても、声は漏れている。慎重に行動しなければ、いつ見つかってもおかしくはない」
今まで反逆軍として、地道に、しかし確実に領地を抑えていたのに、ここまでの危険を犯してまで敵の本陣に潜入することは、ホルスにとって大きな理由があった。
それは――――――
「それで、ホルスさんのお母様、イシスさんの能力ってのは何なのですか?」
「それが……私にも判らんのだ。父は国政の為に神としての能力を見せていたが、母は特別何かしたことがない。だが、父がセトにやられたのは、力で敗れたわけではなく、母に力を預けていた、と聞いた。その為、セトもその力を我が物にする為に、病床の母を閉じ込めているのだ」
「ふむ……。神族であるセトが欲しがる能力……。一体どんな代物なのでしょうか……?」
「きっと、我々の形成を覆せるほどの代物に決まっている。でなければ、母が病床に伏し、それでもセトに抗い続けるほどに守るはずがないのだ……」
どこか確信に迫らないような言い方で、その言葉には願いのようなものも感じられた。
ホルスの能力で敵に見つかることなく、三人はイシスが捕らえられているという頑丈な扉の前まで来ることができた。
「ここまでは以前にも偵察に来たことがあるのだが……。この扉は、セトの能力なのか、何をしても開けられんのだ……。施錠する暗号を知っているのも、セトが信頼における従者三名にしか知らされていないという」
うぅむ、と顎に指を置き、唇を尖らせるナツ。
「この扉って、鉄製ですよね?」
「あぁ。でもとても分厚い。破壊を考えているのならやめた方がいい。壊せない挙句、音で兵士たちに気付かれるだろう」
すると、ずっと黙って着いて来ていたレイザーが前に出た。
「おい……! だから破壊は……!」
「うん。だからさ、要は、音もなくこの鉄を溶かしちゃえばいいんだよね?」
「は……? そんなことができるわけ……」
ジュ…………
レイザーが扉に手を当てると、少しの燃えるような音を発して、扉はみるみる内に溶け始めた。
「い、一体……コイツはどんな能力なのだ……?」
ホルスには、レイザーのことはナツが呼び出した強力な助っ人と紹介してあり、軍隊には新たな新兵として招くことができていた。
しかし、肝心のその能力は、ここへ来て初めて知ることになる。
「彼の異能は『体温』。身体の熱を変化させる――――ただそれだけの能力です」
「体温を変える……だけ……? それでどうして鉄製の扉を溶かすことができるのだ……?」
「たしかに、体温を自由に変えるだけであれば、生活が豊かになる程度の異能だったでしょう。しかし彼の異常性は、その『異能に耐え得る身体』にある。幼少期から年々と低体温から高体温まで、周囲に影響が出るほどの放熱をしてきた彼は、遂に被害が出ないよう、そしてなんとか生かされるように軟禁されることになった。そして、技術で手の付けられなくなった彼は、死ぬことよりも先に、身体の進化を遂げてしまった……。マグマよりも熱く、氷河よりも冷たい放熱を可能としたのです」
ナツの説明にホルスも啞然とする中、飄々とした顔でレイザーは振り返る。
「向こう側、見えたよ」
そして、分厚い鉄製の扉に、人一人分が通れる穴を開けてしまった。
「流石、異星人だ……。我々には想像も付かないことを実現させてしまうとは……」
「ふふ……。こんなの、力の一片に過ぎませんよ」
遂に、ホルスには念願の、数年振りの母との再会を果たす。
「お母様……!!」
しかし、ホルスの叫びは虚しく、ホルスの母、イシスの顔は悲壮な表情で涙を浮かべさせていた。ホルスと同じ金髪を靡かせ、その身体は痩せ細っていた。
「どうして来てしまったのです……ホルス……!! 早く帰りなさい……!!」
「ど、どうしてですか……!? 私は、貴女を救い出す為に長年の計画を経て、今ここに……」
すると、どこからともなく、部屋を覆う蜃気楼が周囲を包む。
「馬鹿な王子だ。大切なセト様の能力になる器が手薄なわけがないだろう……」
そして、その蜃気楼はやがて一つに収束し、人の形を成す。
「貴様は……! 大太刀のファラオ……!!」
その姿に、軍隊長であるホルスでさえ一歩退く。
「彼は?」
「大太刀のファラオと呼ばれる……セトの右腕……。セトから神の能力の一端を継ぎ、その実力は我々が束になっても敵わないだろう……」
そしてまた、ナツはうぅむ、と考える。
「神の能力……と、凄いことを語っていますけど、あの武器を見る限り、戦闘自体はあの大刀で行うんですよね?」
「そうだが……。舐めない方が良い……。身体能力、剣技……そして隠された力……。先程のレイザーの力でも、太刀打ちできるかどうか……」
ひどい怯え様のホルスを前に、ナツはニコっと微笑む。
「でしたら、彼の相手は僕たちで務めましょう。彼を引き離せれば、イシスさんをここから救出できますよね……?」
「そんなこと……。ここにいる三人で束になっても……勝てるか判らないのだぞ……?」
「まあ……見ていてください」
ニコっと笑うと、ナツはレイザーを見遣る。レイザーは「はぁ」と小さく溜息を零した。
「お前の考えは判ってるよ。まったく、いつもそうだ。自分から吹っ掛けておいて、肝心なところは僕に投げる……」
ザッ――――――
しかし、敵もただ黙って待ってくれるはずもなく、大太刀のファラオは、既にレイザーの眼前で大太刀を構えていた。
「貴様から殺されたいってことでいいな?」
ゴッ…………!!
そして、その大太刀は首元目掛けて振り下ろされ、その風圧だけで壁に大きな穴を開けた。
「お、おい……! レイザー……!!」
しかし、
「はぁ。神って名を聞いて楽しみにしてたんだけど……」
首に当てられた大太刀は、溶かされていた。
「僕を傷付けられる奴って、宇宙にもいないのかな……?」
ゾク――――――
その瞬間、ファラオは大きく後退し、瞬時に警戒態勢となる。
「でもたしかに、ホルスの言う通りかも。僕に武器の攻撃は効かないけど、僕もアイツの動きには着いて行けない。両方とも攻撃が当たらないって状態だね。で、ナツはどうするの? 何か考えてる?」
「ふふ、お相手の方は神の右腕とも言わしめる実力者。その者と互角に渡り合えるということは、君一人いれば軍隊でさえ敵わないことが証明されました。その情報だけでも、今ここに来れた甲斐があるというもの」
しかしまだ、ファラオはその大太刀を構える。
「奴に剣が効かぬのなら、他の者から殺せば良いだけ……。次は貴様だ……メガネ……!!」
ゴッ…………!!
そして再び、風圧だけで壁を破壊してしまう勢いでナツにその巨大な大刀が仕向けられる。
「貴方は学んだことがありますか? 研鑽の力を……」
身体能力は遥かにファラオが勝っているというのに、ナツはスルリとその大太刀を避けてしまった。
「私も、失敗して学んだんです。強大な力に溺れている内では勝てません。研鑽や努力の果てに生まれる奇跡的な瞬間には……」
ニコリと笑うと、次の瞬間には、ナツ、レイザー、ファラオの姿はその部屋から消えた。




