13話 再会
片手には無線機、片手には軽食。今日の昼食は全員が同じ携帯食料を携え、倉庫の前で屯していた。
ほぼ無人と化した廃墟の街で、先陣を切るのは軍隊長のマアト。白髪よりも少し濁ったツンと曲がった髪は太陽に照らされると銀色に輝いて見える。
「さあ、君の初陣だ。共に頑張ろう、アキ!」
「は、はい……」
若くして軍隊長を務めるマアトは、傲慢さも謙りもなく、爽やかな好青年だった。
初陣――――とは言っても、ほぼほぼ淘汰され、残って戦う者など他の地へ行ってしまっている為、倉庫を占領するのはほんの数分の工場作業のようなものだった。
ブルル……と震える端末に気が付き、軍隊から離れて一人その着信を取る。
「進捗はどうかしら? アキくん?」
「その呼び方、やめてくれ。たった今、エリアE最後の倉庫を奪取したところだ。軍は活気付いている。今抜けていたら新米の僕は怪しまれるんだ。切るぞ」
「ふふ、随分と仲良くできてるみたいね。その惑星では "行方行秋" なんて名乗ったら直ぐに別の惑星の人間だとバレてしまうから、ニノちゃんの呼び方に感謝ね」
そのまま行方はブツっと強引に通話を切った。
*
マアトは、大宴会の中、一人隅で軽い酒を仰ぐ行方の隣に座り、ニコッと微笑む。
「軍隊長、お疲れ様です」
「ハハっ、いいよ、そんな呼び方しなくて。僕たち、見た目だけで言えば同じくらいだろ? マアトと、気軽にそう呼んでくれ。僕も嬉しいんだ。若い君が来てくれたことがね」
そう言うと、隊長だというのに自らジョッキを下げ、行方のコップと静かに音を鳴らす。
「しっかし、軍隊長の座を、こんな若ぇ者に奪われちまうとはなぁ! 昔はあんなちんちくりんだったのによ〜!!」
そしてまた、マアトは酔っ払いに囲まれる。若くして軍隊長の座を得たマアトは周囲から疎まれている……どころか、その明るさから人気者で中心人物だった。
「ふん、相変わらず呑気な奴だ。軍隊長に昇格したというのにいつになったらそのヘラヘラした態度はなくなるのだ?」
騒ぐ群衆を一瞬で静寂させた、この金髪の男は、マアトと同じく、若くしてマアトよりも先に軍隊長の座に着いているホルスだった。
「ホルスじゃないか! 会いたかったよ! 数年振りじゃないかい?」
「うるさい! 纏わりつくな!! 貴様のように浮かれている者とおっては士気が下がるというものだ!!」
「なんだと、久しぶりの再会にその言い方は!! 今ここでどちらが強いか白黒付けてもいいんだぞ!!」
そう言いながら、お互いニタリと笑い、マアトとホルスは腕を捲り、乱雑にテーブルの物を退かして手を組んだ。
「ハハっ! こんな状況でもあのチビスケ二人の喧嘩がお目に掛かれるとはな! 今夜は決起祝いだー!!」
どうやら、二人の喧嘩はむしろ望まれているもののようで、周囲は更なる活気の中で酒を仰いでいた。
騒ぎが一段落し、周囲も飲み潰れ、帰宅する者もチラホラ現れ始めた頃、ホルスは行方を睨み付ける。
「貴様がマアトのところの新米か。ふん、軍隊長と同じで腑抜けた顔をしてやがる。我が隊にも貴様と同期の新人が入ったのだ。精々、切磋琢磨し軍に貢献することだ」
そう言うと、ホルスの背後から一人の男が顔を見せた。
「初めまして、アキさん。第三軍隊の新人、ナツと言います。よろしくお願いします」
「え……? ちょっと……待っ……」
その男の顔に、行方は言葉を詰まらせる。
「夏目……さん……?」
行方の言葉に、ホルスもマアトも一瞬、妙な空気が流れるが男の言葉に制された。
「あははっ、聞き間違いですよ。ナツメではなく、ナツです。名前、ちゃんと覚えてくださいね」
そう言うと、にっこりナツは去って行った。
ホルスとマアトも、聞き間違えただけか、と腑に落ちたようで、すぐに雑談に戻っていた。
しかし、行方の頭は思考が止まらなくなっていた。
(どう見ても夏目さんだ……。いや、宇宙だしソックリな人がいてもおかしくないのか……? 名前まで似ることなんてあるのか……? 髪は少し緑がかって、外国人のようにも見えなくもないけど……どう見ても僕の知っている夏目さん……。でも、この軍にいるのはおかしいか……。いや、新米として僕の同期として僕の顔見知りがいる方が不可解か……? クソッ……アテネがいないと僕の思考速度はこうも減退するのか……!)
その晩、どうしても自分の疑念が晴れなかった行方は、様々な隊が一挙に集まる今しかないと覚悟を決め、ナツの部屋へと赴いた。
コンコン、と部屋の扉を叩くと、行方を見たナツはニタリと笑みを浮かべ、驚いた様子もなく行方を招き入れた。
そして、
「久しぶりだね……行秋くん……」
「やっぱり……夏目さん……! 本物の……!!」
地球で別れたはずの行方の元上司であり、地球から異能力を抹消しようとした張本人、地球人の始祖アダムとの再会を果たした。
*
紅の姿を見た行方は、直ぐに臨戦態勢を敷くが、身体が思うように動かなかった。
「クッ……! 凍結されていた後遺症か……!! 異能力が使えない……! 僕を助けたのはお前たち龍星群なのか……!?」
そんな血気迫る行方の反応とは裏腹に、紅は全く動じる様子もなく行方の前の席に腰掛けた。
「一度、落ち着きなさい」
まさか、宥められるとは――――。自分でも切羽詰まっていたことに気付き、一度、付近の席に腰掛ける行方。今の状況から考えて、助けられた事実が変わらないこと、そして、反抗したところで意味を成さないことを判断する。
何よりも盲点だったことは、異能力が使えなくなっていることで気付くことが遅くなったが、脳を共有しているはずのアテネが身体の中に見当たらない点だった。
今は、少しでも多くの情報を集めるしかない。凍結されていたのなら、何年経っているかすら怪しいのだ。
紅は落ち着いた行方の様子を見て、重力の負荷が掛けられたドリンクを行方の側に置く。助けておいて毒を入れることなどしないだろうと判断し、静かに口に注いだ。
「あれから……何年経ったんだ……?」
「三日よ」
あっさりと答える紅、その真実に再び脱帽しそうになったが深く深呼吸をする。
「ニコが、『必ず救い出す』と言っていた。と言うことは、あの状態の僕を救い出せる手段を、現在の大星母では持たないことになる。しかし、お前たち龍星群は三日で成し遂げた……ということか……?」
「厳密には違うわ。あの状態の君をそのまま救い出す技術は私たち龍星群も持ってはいないの。と言うか、君はまだ助かってはいないわよ?」
「え……?」
そして、ようやくガラス越しに映る自分を見つける。
オレンジの髪に、鬼の角が生えた強面の顔立ち。最早、全くの別人になっていた。
「なんだ……? この姿は……!」
「その姿の持ち主の名前は人形師の橙。自分の作った人形に魂を入れ込むことができる。この説明でもう判るわよね?」
つまり、本当の自分の身体は依然として惑星ネージュに凍結されたままで、意識だけを橙という人物の作った人形の中に入れられた――――。
「だから、異能力も使えないし、アテネもいない……」
「そう。今の君は橙の有する能力しか使えない。暫く、無敵の身体とはサヨナラすることね」
「どうしてそこまでして僕を助けたんだ……?」
その質問に、何故聞くのかと言わんばかりに嘲笑する。
「利用する為に決まってるじゃない……。君はあの場で、大星母に入ることを白蓮の前で認めた。私も別に、強制するところではない。でも、どうせ今の君が救われないのなら、どう使ってもいいでしょう?」
「それで僕が死んだらどう責任を取るんだ……?」
「大丈夫よ。君は今の状態では死なない。その身体がなくなれば別の人形に魂を移し替えればいいの。拷問や拘束、凍結においても、今のようにその身体を捨てればいいだけ。むしろ、不死という点においては更に強化されたと言えるわね」
そうして、紅は糸を全身に巻き付けると、瞬時に姿形を元の行方の容姿に変えてしまった。
「さあ、君が向かう惑星はもう直ぐよ……。アキくん……」
ニコリと、紅はまたその不敵な笑みを浮かべる。




