12話 王位継承
蒼は変わらずに顔を向き合わせる。さっきと違うことは、標的は行方から、先にニコを狙っているだろうこと。
「行秋! 私の速度じゃ不死の蒼とやり合えない!! 私を担いで! 行秋は避けることに専念してていいから!!」
「あ、ああ……!」
ニコの咄嗟の合図に、行方はニコを抱える。蒼はグッと力を込め、目にも止まらぬ速さで斬り掛かるが、それを行方はサッと避ける。
(ニコを抱えながらだと避けるのにも一苦労だ……。こんな戦い方……いつまで保つか……)
行方の額に汗が滲む中、蒼の動きはピタリと止まる。
「なんだ……?」
よく見てみると、蒼の肩は凍り付いていた。
「凍らされている……?」
「そう……。アレが私の体質……。私が触れたものは直様凍り付いてしまう……。きっと不死の蒼でなければ、一瞬の内に絶命する零度が心臓を止めるわ……」
その説明に、ニコが行方の身体に触れないようにしていることに気がつく。
しかし、蒼は表情を変えずに、ガン! と氷を叩き割った。
「こんなもの……この惑星の雪原の中でも生きれる私だ。全身が凍り付けになる前に叩き割れば良いだけだ」
そして再び剣を構えると、何の躊躇も無しに飛び込む。
行方は先程と同じように避けるが、既にニコの手の内は読まれてしまい、今度は触れることすらできなかった。
「ダメ……強すぎる……!!」
「ニコ……。肩を凍らせた力は、一瞬で全身を凍らせるほどの力は出せるのか……?」
「え……? うん……。でも、私自身、そこまでこの力を扱えるわけじゃないから、人一人を一瞬で凍結させるレベルの力を出しちゃうと、付近にいる行秋まで凍り付くわ……」
蒼が動き出す。恐らく、蒼は相手の動きを見切ることに長けている。行方の避け方も、ニコの手も――――蒼の実力があれば、次は必ずどこかが斬り落とされる――――。
「終わらせるぞ……!」
ガッ!!
「行秋!?」
蒼が突撃してくる瞬間、今まで攻撃に合わせて避けていた行方は、蒼の方向に突進し、思い切り蒼の両腕を掴んだ。
「ニコ!! 僕ごと凍結させろ!!」
「そんな……!! いくら不死者だからって……溶けなくなったらそのまま永劫的に氷の中だよ……!?」
しかし、行方は蒼の両腕を離さない。蒼も汗混じりに必死に抵抗を試みるが、ギリギリのところで剣が邪魔で逃げられなくなっていた。
「早くしろ……!! 全員を守るんだろ……!!」
その言葉に、涙を溢れさせながらニコは目を閉じる。
「判った……。でも……絶対……絶対に助けるから……!!」
ゴォ――――――!!
ニコの手に触れた途端、行方の意識は途絶えた。
*
「あそこが貴方の惑星よ。ピグマリオン」
「本当に私にも家族ができるのか……?」
「えぇ。あそこは昔、機械都市だったのだけれど、氷河期に襲われて無惨にも機械だけが生き残った惑星。あそこの技術があれば、貴方の家族もきっと生み出せるわ」
そう言うと、赤い瞳の女は私の胸に手を当てる。
「貴方に祝福を。幸せな家族ができることを祈っているわ」
それが惑星のエネルギーと知るのは、機械たちを人に変え、王国を築いた後、大星母に説明されてからだった。
「そうか……。このエネルギーにはそんな力が……。だとしたら機械を人に変えるだけでなく、私と同じ……本物の人間が創れるのではないのか……? ど、どう思う? ガラテア……」
「ふふ、家族が生まれるのは喜ばしいことよ」
彼女は、以前住んでいた惑星で創造し、この惑星の機械のコアを入れ、脳を構想した私の妻。
とても美しく、唯一連れてきた私の家族だった。
「よし……媒体はガラテアから……。本当の人間のようだ……。ガラテアのコアと私の遺伝子を混ぜ合わせ、エネルギーを注ぐ……」
「あら? 人間を創ってしまうのは禁忌よ? 神族の領域に踏み込むつもり?」
「お前は……! 真眼の紅……! やっと……やっと本物の家族ができるのだ……! 邪魔をするな……!!」
「ふふ、邪魔なんてしないわよ。でもね、ピグマリオン。"人間を創る" というのはね、相当の犠牲の上で成り立つものなの」
そう指を差したガラテアは、既に意識を失っていた。
「どう……して……。私が最も愛した家族だったのに……」
「残念だけれど、機械のコアと貴方の遺伝子を混ぜ合わせるなんてことをすれば、媒体であるガラテアに生存するだけのエネルギーは残らないわ」
「私の……唯一の家族が……」
震える私を支え、紅はそっと呟く。
「家族はまだいるじゃない。愛しの……娘が……」
「私の……娘……」
そして、私はルキナを抱き締め、途方もなく泣き続けた。
*
「私の……唯一の家族なんだ……。返してくれ……。ルキナを……。そして取り戻すのだ……。私の妻を……」
白蓮はそっと、国王ゲレンデの胸部から腕を抜き出す。
「申し訳ないが、このままでは貴方もこの惑星ごと暴走し、消滅する。惑星エネルギーはとてつもない力だが……。元々のこの惑星に、そこまでの業を成し遂げる程の力は残っていないよ」
「ルキナ……。ルキナ……!」
ルキナは、頬から小さな雫を落としながら、そっと国王の前で座る。
「私はここです、お父様……。私の大切な……お父さん……」
「ルキナ……。私の……大切な……」
いつまでもその声が聞こえることはなく、その言葉を幕切りに、ルキナの涙の傍らで、国王ゲレンデは動かない機械と化した。
「やはり、国王は別の惑星で造られた機械だったようだね。ルキナさん、君はどうする? 君の父や、母のような、機械の身体であり、しかしながら、両親とは違う命を宿した君は……」
ルキナは、そっと国王の手を握る。
「私は、この惑星に残ります。そして、機械であろうと、大切な国民を守ります」
「そうか。ならば、今度こそ、分断された惑星エネルギー結晶を一つにし、惑星を維持できるようにしよう」
そして、惑星ネージュは、改めて国王ルキナ・ゲレンデの名の下に王位継承され、統一国家として蘇った。
*
「ここは……。ニコの奴……約束通り、本当に僕を目覚めさせられたのか……」
しかし、コツコツと鳴り響く足音、その先に映る瞳、そして少しずつ思い出すこの機関の内装に行方は脱帽する。
「紅……!! ここは……龍星群の船……!!」
「ふふ、おはよう。"アキ" くん……」
次章 神の治める地
◎惑星ネージュ
元々は機械の発展する惑星だったが、氷河期に襲われ生物が絶滅した後、機械だけが無惨にも生き残った惑星。彫刻家のピグマリオンは、真眼の紅に言われるがまま移住し、残された機械の技術と併合させ、自身の家族を創り、人間のような暮らしをする為、地下都市を築いた。
国王 ゲレンデ(ピグマリオン)
紅により、惑星エネルギーを体内に入れられる。国を起こすまではよかったが、本物の人間を創造する為にエネルギーを分割し、維持できなくなってしまった。
王妃 ガラテア
ピグマリオンの最も愛した家族で、以前の惑星から唯一持ってきた家族。ネージュの機械のコアを入れ惑星エネルギーにより脳を創造した。
王女 ルキナ
ピグマリオン、ガラテアから生み出された『命』を宿した少女。身体は機械。
◇ 大星母
様々な惑星の治安維持、エネルギーの安定化に努め、調査隊・戦闘部隊・技術班に分かれる、宇宙でも名の知れた大規模な組織。大星母にしかない技術も有している。
大団長 白蓮
大星母の大団長にして、宇宙最強と謳われる戦闘種族『下羅狗』出身。戦闘能力は凄まじく、惑星を一人で壊滅させられると言われる龍星群を圧倒する実力者。
調査隊長 ミト
大星母の調査隊隊長。赤髪の長髪で、お姉さん系の雰囲気。
調査隊員 ニコ=ジェミニ=メイ
綺麗な水色の髪の少女。おっちょこちょいで明るいが、仲間想いで芯が強い。『手で触れたものを凍結させてしまう』体質を持ち、普段は大星母の技術によって抑えられているが、発動したら、不死者でも永劫的に氷漬けにしてしまう。
調査隊員 昇月
白蓮と同じく、宇宙最強を誇る種族『下羅狗』出身。真面目すぎるあまり、会話下手のような一面も見られるが、仲間想いで言動の節々に懸命さが伝わる。
◆ 龍星群
神族を滅亡させる為に集う犯罪者集団。一人で惑星一つを壊滅できる力が全員にあるとされ、宇宙中で最も名が知れ、その首に掛かる懸賞金も大きい。
真眼の紅
自称、地球人。糸を巧みに操り、相手を拘束する。現在判っている情報では、『一度会ったことのある相手との未来を見通す能力』『触れた相手の記憶を覗ける能力』『惑星エネルギーの回収、移動が可能』と、多数の能力を有する。真実かは定かではないが、二宮二乃の意識を体内に存在させている。
不死の蒼
戦闘に秀でており、その上で『不死』という脳力を持つ。刀を使っての戦闘をし、その剣撃は目で捉えることができないほどに素早い。
行方行秋
地球出身の異能力者。自らの代わりに封印されてしまった二宮二乃を救い出す為に、『不死』の異能と数多くの異能を仲間から託され、果てなき宇宙へと出た。
・白世界:百瀬白蘭の「神技」。真っ白な物質のない異次元空間を形成する。オリジナルの神技ではない為、中では他の異能力が使えない制限が掛けられる。
・武装:コードネーム「ウェポン」の異能力。装備している武器と認識されるものを自在に操る。
・雷:一条創の異能力
・水:五月雨伊月の異能力
・疾風:行方行秋の異能力




