14話 反逆軍
夏目と再会を果たした行方は、早々と本題に入る。
「何故……地球にいるはずの貴方がこんなところにいるんですか……?」
「ふふふ、行秋くん、長旅で色んな経験をして、私の異能のことを忘れていないかい?」
そして、行方は思考を凝らす。
「夏目さんの異能はワープ……。でも、本当の異能は、地球人の遺伝子の中に組み込まれたDNAにワープすること……」
「そう。私が『瞬間移動』と称してきた異能力は、アダムとして地球の人類の血に紛れたものにワープする力。つまり、地球上であればどこにでもワープできるということ」
「でも、今の僕は訳あって自分の身体ではありません……。仮に宇宙にワープできたとしても、ここにいる理由が……」
「ふふっ、推察力が落ちたんじゃないかい? 私の異能は地球外では発動できない。行秋くんの身体が今、本体であれ人形であれ、自分の力でここまで来ることは私にはできないさ」
ニコリと笑うと、夏目は伸びをしながら立ち上がる。
「私はアダム。地球人の始祖。私の異能は、地球人すべての記憶を見ることができる。だから、宇宙に出てからの君の記憶も全て知っている」
「は、はぁ……」
「さて、この身体……体感してみるとやはり少し不便だね」
その一言で、行方は事の全てを理解した。
「夏目さんのその身体も……人形師の橙による人形の身体! だから意識だけを移すことができたのか……!」
「その通り。紅から聞いたと思うけど、君は今、橙と同じ能力を扱える。人形の複製、意識の移動だ。それを、君の記憶に関与できる私は試してみることにした。今まで人体の移動はできなかったが、意識のみの移動ならばできるのでは……とね」
夏目の存在で、行方の心はようやく落ち着きを取り戻し、暫く惑星ネージュでの過酷な旅を話した後、二人は少しの静寂に包まれる。
聞き辛いことを放置していたからだった。
「あの……夏目さん……」
「君が気になっていることは判っているよ。まあ、この身体になってからの君の記憶や思考は既に見えないのだけどね」
だから、ちゃんと聞いてくれ――――夏目がそう言いたいことは、長いこと部下であった行方には判った。
「あれから地球では……何年の時が過ぎたんですか……?」
やはり――――と言いたげな表情を浮かべるが、行方を動揺させないよう、ゆっくりと笑みを浮かべる。
「百五十年だ。君の知り合いは全員死んでいる。もちろん、夏目夏人という人間も既に寿命を終えた」
「そ、それじゃあ……今の夏目さんは……?」
「生まれ変わって学生をしている。元々はイヴを探す為の転生だから、もう少し時代が進んでからと思っていたが、私としても行秋くんの力になりたいと思ってね。百年の中で世界で一番頭のいい素養を持つ子に転生させてもらったよ」
「それでは、もう夏目さんではないですね」
行方は、少し寂し気な笑みを浮かべて呟く。
そんな行方の頭にポンと手を乗せる。
「私はラスボスだったんだぞ? ヒーローたちの手で撃ち倒したというのに、そんな悲しそうにするな。まあ、なんと言っても私は不死身だからね。夏目夏人は死んだが、このように人形のおかげで再び夏目夏人にもなれた。姿形や名前、そして時代が変わろうとも私は私のままだ。だから――――」
行方は、少しだけ涙を浮かべさせていた。自分の知人たちが既に死んでしまっている事実。最初から、もう会うことはないと判っていながら、それでも事実は辛かった。
ポンと乗せた手で、夏目はぐしゃっと頭を揺らす。
「私は、私のままでいつまでも待ってるよ。もちろん、二乃ちゃんも封印を解かれる日を待っている」
「ありがとう……ございます……」
「まずは、異能の使えなくなった君と僕で、この惑星……君の試練を乗り越えよう」
行方が紅から一方的に頼まれたこと。
それが、行方が今、この惑星に来ている理由だった。
*
マアトはとある模様の描かれた旗を掲げ、隊を率いる。
少しずつ仲間を増やし、敵の倉庫、武器や食糧を潰し、そこまでの労力を賭して打倒したい相手が彼らにはいた。
「神族 セトの討伐……? 僕は神を探しているだけで、神殺しには興味ないし、むしろ関わりたくないんだが……」
紅の説明を聞いた行方は断りを入れようとするが、行方の話など聞かずに話を続ける紅。
「惑星ラムセスは、神の治める地。神が創り、神が王となり、そのまま繁栄させた。そのせいで、大星母のような治安維持組織とも与しない独立的な惑星なの。だから、今の君のような偽物の身体でも用意しないと入れないわけ」
「事情は理解したが……それでも僕は、殺しに加担するくらいなら凍結されたままでいい」
しかし、行方の言葉は再び制される。
「君が頑なにやろうとしないことは知ってるわよ。たしかに、龍星群として神族を屠りたいというのもある。でもね、その惑星の前の王は、現在の王に殺されてしまったの。それも実の弟にね。それから弟、セトによる絶対王政が敷かれた。それには今まで黙っていた大星母も看過できなくなっていて、既にスパイを潜り込ませている状況よ」
「大星母も動いているのか……」
「アテネの脳がなくても判るわよね? 自分が動けるようになったことや、なったばかりの仲間と合流もできる。それに、今回相手をするのは神族。神族の起こした国だから、住まう者も神族の血統なわけ。神族の情報を知りたいのなら、行ってみる価値はあると思わない?」
「で……でも……」
「殺しの方は大丈夫よ。君は潜入して私に情報を送ってくれればいい。何故なら君の潜入場所は……セトに迫害された反逆軍に入ってもらうから……」
そうして、『迫害され逃げ隠れて住んでいたが、自分も反逆の意志を持った』という入隊理由まで用意し、行方は密かに作られていた龍星群のワープゲートから転送された。どうやら、神族による直々の統治の為、惑星エネルギーが非常に強く、ホログラムだと映像として映れないらしい。それも、紅や他のメンバーが行きたがらない理由だった。
それに何より――――。
「絶対に……この手で討ち取ってみせる……!!」
マアト軍隊長含め、全員が野心を燃やしている。こんな戦乱の世を更に壊そうったって、既に壊れている世界を壊すことは龍星群にも不可能だと苦笑していた。
夏目、もといナツとの話も済んだところで、行方はスッキリした気持ちでナツの部屋を出た。
「よう、新人……。こんな夜更けに何している」
行方の後を着け、部屋の前で腕を組み、待ち伏せていたのはホルスだった。
「ホルス軍隊長……」
(部屋の中の話は聞かれていないはず……。しかし、何故こんな時間にまだ起きてるんだ……?)
「貴様……ラムセスの者ではないだろう。マアトの馬鹿は誤魔化せても、私の目は誤魔化せんぞ」
(僕を見た時から疑っていた……ということか……? 作戦がバレたら強制送還……いや、殺されるかもしれない。まだ大星母のスパイにも会っていないのに……!)
行方は汗混じりに言い訳を考え続けるが、ホルスは静かに近寄ると行方の耳元で囁いた。
「貴様のことは黙っててやる。その代わり、私に力を貸せ」
強引だが、下手に否定をしても疑われ続けるだけ。行方は、黙ったまま静かにこくりと頷いた。




