10話 疑念
紅はそっと、行方の横に並ぶ。
「いいの? 私とこんな雑談なんてしていて……。大星母のやろうとしていることはさっき話した通り。私たちはあの下羅狗の少年を止めて、あのエネルギー結晶を奪うこと。君の為にもなるんだけれど……協力はしてくれないわよね?」
行方の思考は止まることを知らない。しかし――――。
「黙って見ててくれ……紅……」
「えっ?」
そして、行方は振り返る。
「全て終わったら、どちらに着くか考えろ……だろ? だから僕は……」
(二宮ならきっと、こういう時はこう答える――――)
「全てを守った後に決める――――!」
そう告げ、疾風の異能で昇月の下まで駆けた。
*
行方が昇月に並ぶと、昇月は露骨に驚いた顔を浮かべる。
「何故来たんだ……! 行秋……!」
「今の僕にある情報では、どちらかを盲信することなど出来ないからだ。紅に記憶改変をされている可能性もある。その状況で、どちらかの言い分を信じて行動することなど愚の骨頂だろう」
「だとしても……お前には惑星エネルギーのことも、その暴走の知識もない……! 不死者のお前でも、宇宙空間に弾き飛ばされるかも知れないんだぞ……!」
「なればこそだ……」
「は……?」
行秋の眼は、真っ直ぐ化け物と化した国王を捉えていた。
「どちらを信じるべきか判らない……でも救いたい。ならば、僕は僕の力で全てを救う……!」
-ボックス開放・白世界-
行方が小さなボックスを手に取った瞬間、化け物と行方、昇月のみを取り込んだ真っ白の空間が生み出された。
「この世界は……? 行秋の能力なのか……?」
「ここは『白世界』。とある犯罪者から取り上げた異能だ。自分の周囲にいる者を異次元空間に閉じ込める。そして……」
「 ゴァーーーーーーーー!! 」
行方の解説の傍ら、化け物は少しずつ小さく、元の姿へと戻っていく。
「この世界には物質が存在しない。大星母も龍星群も、口を揃えて言うことは同じ。『惑星のエネルギー』という僕の知らないエネルギーの存在。それにより力を得たのなら……」
全てを察した昇月も、力を抜き、臨戦態勢を解いた。
「エネルギーから分断させてしまえばいい……というわけか。だとしても、そんなことをできるのは神族かお前くらいのものだろう」
そして、呆然と青褪める国王ゲレンデの姿が露わとなる。
「国王、お前は、大星母の渡した惑星エネルギー結晶を私欲の為に使った……。最初は娘の命を救う為だと話していたが、実際は違うんだな……?」
国王は青褪めたまま何も答えない。
蹲る国王に、昇月は再び赤い皮膚を帯びる。
「おい、何をするんだ、昇月」
「同じことが起きないよう、コイツをここで始末し、大星母にある半分のエネルギー結晶で惑星は維持させる……」
「やはり……大星母が昇月を向かわせた理由は……ハナから国王を始末する為だったんだな……」
「そうではない……! こんな真実が判らなければ、俺だってこんな判断は下さない……!」
「昇月……」
行方と昇月の間で問答になっている間に、国王は理性を取り戻したのか、不敵にも笑い出した。
「何を言っている……大星母……。ふふ、ふははは……!」
「お前、自分の今の状況が判っていないのか……?」
「判っているさ……! むしろ未だ判っていない無知で哀れなのはお前たちだ……!」
「は……?」
すると、物質の存在しない世界だというのに、国王の体内から一体の機械兵器が捻出された。
「体内に隠していたのか……。しかし、機械兵器一体で俺たちに敵うと思っているのか……! もう諦めるんだ、国王!」
降参を促す昇月だが、国王は笑みを浮かべ続ける。
「何か……変だぞ……?」
すると、その機械兵器は徐々に人の姿へと変貌する。
「その人は……!!」
「誰か知っているのか……? 昇月……?」
昇月は、露骨に歯を食いしばりながらも汗混じりに答えた。
「この国の王妃……。つまりは……自らの妃を結晶の力で機械にしやがったんだ……! 自分が窮地に陥ったら、今度は人質か!」
行方も話を聞き、胸糞の悪さに青褪めた顔を浮かべる。
「つまりこの男は……自分の妻や子供にまで惑星のエネルギーを入れ、自らの道具にしようとした……」
「その通りだ……。もう庇う理由はないだろう。この男を断罪する……!」
行方ももう止める気にはなれず、昇月が王妃ごと処断しようとしたその時――――。
「危ないよー!!」
ゴォン!!
聞き覚えのある声が白世界に響き渡り、同時に上空に巨大な爆発が巻き起こる。
昇月の手も止まるが、一番に驚いたのは行方だった。
「なっ……! 異能空間の中だぞ……!?」
「やはり……。信じていましたよ……大団長……」
そう呟くと、今度こそ昇月は臨戦態勢を解く。
「大団長だと……?」
行方の顔は曇るが、三人の前に現れたのは、大型のロボットスーツだった。
(機械……。新手か……? しかし、昇月は『大団長』と言っていた……。大団長の戦闘の姿なのか……?)
行方は再びぐるぐると思考を回すが、汗混じりの行方を他所に、機械の前方は開かれる。
そして、
「無事でよかったよー!! 昇月!! 行秋ー!!」
「なっ……! ニコ……!?」
中から現れたのは、二人の無事に涙を浮かべさせるニコだった。
そして、上空から白蓮も降りて来る。
「こんな世界を生み出せるなんて。流石は行方くん。期待以上だ」
「白蓮……。一体、どういう……」
「たしかに、一見しただけでこの異空間に入り込むことは不可能だ。だから、ミトに分析させたんだ。そうすればこの世界に入り込む……外界から打ち壊すことも可能になるわけさ」
「昇月と二人……。いや、ニコと三人でこの惑星を滅ぼしに来たのか……?」
嘘は通じない。そう判断した行方は、紅に言われたことを確認するかのように眉間に皺を寄せながら白蓮に訊ねる。
白蓮はまた、出発前の朗らかな笑みで行方を見つめる。
「行方くん、改めて言おう。龍星群の真の目的が判った。ルキナさんを無事に大星母に連れて来れた以上、本来、龍星群は撤退するしかなった。しかし、彼らは依然として目的を果たそうとしている。だから、最悪な事態を想定した人員を配置しておいた」
アテナの脳で、少しだけ言葉を変えた同じことを言っていることが判る。
行方は真っ直ぐな瞳で白蓮を見つめ続ける。
「この作戦は、惑星ネージュ……ゲレンデ国王を救う為の作戦だった。しかし、ゲレンデ国王は私たち大星母すらをも消そうとしていた。じゃあ、この惑星を滅ぼす……」
白蓮はニタリと笑みを浮かべ、行方の拳は少しだけ力がこもる。
「と、ここまでは君の推測だろう。しかし……」
すると、頑丈なロボットスーツから這い出てきたのは、ルキナだった。
「彼女がいる以上、この惑星は守ってみせる。それが、大星母、大団長としての真意だ」
そう言いながら、白蓮は背を向け、国王と王妃の方に振り返る。
白世界の中にいたから気付かなかったが、意識を失い、機械兵器のように動き回る数百人という住民たちが周囲を囲っていた。
(こんな状況から……どうやってこの惑星を守るというんだ……? 犠牲をなくしては……もう不可能だろう……)
行方が汗混じりの中、白蓮は目だけでニコと昇月に指示を出し、ニコとルキナは再びロボットスーツの中に、昇月はロボットスーツの背に手を当て、目を閉じた。
「行方くん。君は大星母のメンバーではないし、私たちのことを未だ疑っているだろう。だから、この先、君は君自身を信じて動いてくれ」
そう言うと、白蓮は目にも留まらぬ早さで王妃の元へと駆け寄り、心臓部に腕を突っ込んだ。
「おい……!!」
行方には、王妃が殺されるのを黙って見ていることしかできなかった。




