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宇宙の行方  作者: 春木
第一章 氷河の惑星
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9話 惑星の秘密

 紅との記憶が見えたところで、行方は頭を抱えながら視界に焦点を合わせる。


「僕とお前の出逢いは判った……。この記憶が仮に本当でも……()でもな……」


 "異能" という言葉が出ていれば信憑性はたしかに上がる……が、"能力" という言葉が出ている以上、記憶を塗り替えられたり、今までの行方の過去に準えたことをすることも容易だった。


「あら、私と君の出逢いは結構感動的だったと思うのだけれど……随分と警戒心が強いのね」


 少し残念そうにしているが、それでも未だその微笑みは消えない。それがまた、行方には怪しく思えてしまうのだ。


「それに、今の記憶が真実だとして、僕にはこの惑星の記憶しかなく、それ以前の記憶がない点も怪しい。僕はブラックホールに飲み込まれ、気が付いたらこの惑星にいたんだ……」


 間違っていないはず……そう思いたいが、この記憶も実際には曖昧だった。しかし、そんな行方の懸念点をしっかり見逃さない紅。


「それは記憶置換が働いているのよ。本当のことを話しても君は信じられないのでしょうけど……いいわ。私と龍星群の宇宙船に戻った君は、やはり神族が体内に居ることを認めてはもらえなかった。そこで、君は選択を迫られることとなる。アテネを処刑するか、私の体内のニノちゃんを諦め、記憶を消して私たちが目指していたこの惑星、ネージュの雪原に落とされるか……と」

「それで僕は……後者を選んだ……」


 理には適っている。この先の旅を続けるのであれば、アテネの存在は必須。二宮が体内にいるというのも、僕の記憶を覗き見て『そう聞かせているだけ』の可能性だってある。

 行方は様々な推察を脳に過らせたが、どう転んでも後者を選んでいる。

 紅の説明に……納得はいく。

 そんな行方のぐるぐる廻る思考とは裏腹に、フラっと背を向けた紅は、上を指差した。


「まあいいわ。君の思慮深さは知っている。()()()()()()()()()に決めてくれればいいの。強制はしない。無事に……終わることができたら……」


 そう言い残すと、紅は消えてしまった。

 次の瞬間、激しい震動と共に、城は一瞬にして崩壊し、上空からは昇月が崩れる地面を足場に、軽々と落ちて来た。


「昇月……!」

「行秋! 無事だったか……! しかし、まずいことになった……!」


「 オォ―――――――――!! 」


 崩壊の中、脳にも響くほどの巨大な咆哮が耳を劈く。


「なんだ……!? 龍星群か……!?」

「いや……違う……!」


 そして、城内から姿を見せたのは、巨大な角の生えた恐竜を思わせる身体の化け物だった。


「コイツは……!!」


 行方が驚愕するのも束の間、昇月は崩れ行く城内の中で、再び臨戦態勢を取る。


「アイツは……()()()()()()だ……!!」

「国王……!?」


 その言葉に、紅の『この惑星のターゲット』という言葉を思い出す。

 そして、どちらに転ぶとしても、目前の化け物を倒さねば何も進展しない覚悟を決める。


「昇月……コイツはどうすれば倒せるんだ……?」


 昇月は、行方の覚悟を決めた目付きを見ると、静かに振り返る。


「着いてきてくれ」


   *


「さあ、始まったようだね。"エネルギーの暴走" が……」


 大星母に戻った白蓮は、エンゲルを救護室に寝かせた後、とある部屋に向かっていた。


()()()()だよ」


 そう言った先に居るのは、


「はい……!」


 ――――ルキナだった。ニコは不安そうにペコちゃんを抱き締めながらルキナを見ていた。


「ミト、城内は危険だ。第三ワープ座標で私たち三人はネージュへと降りる」

「判りました、大団長」

「ま、待ってください、大団長……! 惑星エネルギーの暴走が始まっているなら、もう行っても意味ないんじゃ……? 危険だし……」


 着々と準備を進めるミトと白蓮を止めたのは、青褪めた顔を浮かべさせるニコ。


「まだ判らない。ここからでも見えている業火はエンゲルのものだ。あの業火はエネルギーの暴走によるものではないから、惑星を燃やし尽くすことはない。でも、たしかに危険であることには違いはない。だからこそ、()()()()()()んだ」

「で、でも……」


 白蓮は、優しく微笑みニコに振り返る。


「怖ければ君は待機していてもいい。戦闘部隊ではないのだからね。それに、もう一つの成功の鍵は今回、運任せなんだ。最後のピースは……行方くんだからね……」


 そう言ってニコの涙を見つめると、ルキナの背を優しく支える。


「大丈夫。きっと救い出してみせるさ」


 誰が見ても震えていると判るほどにガクガクと震える膝、それでも懸命に立っているルキナを見て、ニコも立ち上がる。


「私も……行きます……。ルキナちゃんとお友達になったし……昇月も仲間……。それに、行秋だってもう仲間だから……!」


 その言葉に、白蓮はニコっと微笑みで返した。


「それじゃあ、君たち……。決して死ぬな。生きて帰るぞ」

「「 はい……! 」」


 そうして、白蓮、ルキナ、ニコの三人は、ネージュの第三ワープ座標へと降り立つ。


   *


 昇月に連れられて行方が向かったのは、地下都市の中で一番高い丘だった。ここからであれば、王国内全土が見渡せた。

 行く道中で何百人の住民に出くわしたが、全員が兵士たちのように、自我を失った機械兵器のような動きで襲い掛かって来た。しかし、ひとりひとり相手にしている場合ではない為、迅速に駆けてここまでやって来た。


「ここから見て、ようやく身体全体が見渡せるな……。体長は数百メートルを誇る化け物か……。本当にアレが国王なら、どうして国王はあんな姿になったんだ……?」

「どうやら国王は、ルキナさんだけではなく、自身の体内にも惑星エネルギー結晶を入れていたんだ。俺が駆け付けた時には、既に上半身が化け物と化した国王を、()()()()()相手していた……」

「真眼の紅……!? 今まで僕も……紅と居たんだぞ……!?」

「ならそれは()()()()()()()()だろう。流星群の一人に、ホログラムを物質化できる能力者がいる。最後の伏兵はソイツだったんだな……」

「僕が話していたのは……ホログラム……?」

「行秋、流星群はイカれた能力者の集まりだ。いちいち呆気に取られていては、不死のお前でも危険だぞ。今はあの化け物の倒し方だ……」


 しかし、いつもピシっと喋る昇月は、歯切れ悪く言葉を濁らせる。

 行方は今までの経験則から、そんな昇月の心中を察した。


「アイツを殺せば……この惑星は滅びるのか……?」

「そうだ……。ルキナさんから取り出した結晶は大星母……もう半分の結晶体でできたアイツを殺せば……この惑星はエネルギーを消失し、滅びゆく惑星となる……」

「なんとかして救う手段はないのか……?」

「大星母にある結晶を惑星内に持って来れれば、惑星の消滅自体は防げるが……。引力が働き、互いに引かれ合うエネルギーの半分を惑星内に入れれば、アイツに更に力を与えることにもなる……」


 打つ手なしなのか……。行方がジッと眉間に皺を寄せ、暴れ続ける国王を注視していたその時、昇月は丘の先端に立ち、上裸となった。


「行秋、ここから先は……()()()()()()()()()に行動してくれ」


 そう言った途端、勢いよく風が吹き荒れ、昇月の身体は少しずつ赤みを帯びていく。


「昇月……?」


 行方が声を掛ける瞬間、昇月は目にも留まらぬ早さで化け物と化した国王の前に移動していた。


「異能を駆使した僕よりも……早い……!」

「そう、アレが下羅狗の力。まあ、彼はもう少し特殊なんだけれど……」


 そして再び、行方の背後には紅が立っていた。最早、ここに居ることは驚かない。未来を見通されているならば、どこに現れたっておかしくはない。


「お前……ホログラムなんだな……?」

「そうよ。でも、それは問題かしら? 私と話すこと自体はできている。プログラムと話しているわけではない。私は自分の能力をちゃんと使う場面以外、惑星には降りないの」

「じゃあ、あの時は…… "能力をちゃんと使う場面" だったってことだな……?」


 行方が "あの時" と指すのは、行方と紅が出逢った荒野の惑星。


「ふふ……。アテネの頭脳……やっぱり厄介……」

「流星群は、惑星のエネルギーを自分たちの力にすると言っていた。つまり、お前があの惑星に居たのは、僕を待っていただけじゃない」


 そうして、背後のホログラムを睨み付ける。


「お前はあの惑星の残り火だったエネルギーを……()()()()()()()()んだな……?」


 そう言うと、何も答えずに紅はただ微笑んだ。

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