カロリーナの計画
「わが家でよろしんですの?」
「ええ、お父様やお母様にはもうお伝えしておりますから」
我が家に寄ったカロリーナは、居間に通されると、楽しそうに部屋をぐるりと眺めている。
「珍しい物なんてないでしょう?」
首を横に振ったカロリーナは、
「私、お友達のお家にお邪魔したことないんですの」
「へえ、へ? ほんとに?」
「ええ、皆さん、気を使われるのかそういうことは」
私が生徒会にお世話になる前からカロリーナと取り巻きでもあるベシー達はお友達同士なんだな、と思っていたが。
「でもお買い物とかいかれますよね」
「ええ、外にみなさんと行くことはありましたけど、そんなには頻繁では」
顔をあげたカロリーナは、
「エマ様がいらしてからですわ、こんなに親しくなったのは」
と微笑んだ。
「そうなんですか」
意外だが、未来の王太子妃との付き合いが遠慮させたのか、威厳があるイメージのカロリーナに気軽に接することが難しかったのか。だが、今はそんな壁も無くなってる気がする。
「それにマーガレッタ様のことも、気になってはいたんですが何もできず仕舞いで」
カロリーナはいきなり、
「ねえ、エマ様、お仕事まだ決まっていらっしゃらないのでしょう?」
と言い出した。
「はあ、それが」
「外で癒し魔法のテントを張るおつもりですの?」
「へへへ、まあ、できれば」
「うーん」
途端にカロリーナは眉根を寄せて渋い顔になる。
「貴族令嬢じゃないにしても若い女性が危ない場所で仕事をするのはあまりお勧めできませんわね」
「まあそうかもですけど」
そう言われるともなんとも答えに窮する。危ないこともあるだろうけど、今の薬の影響があるうちは何とかなるのでは? と思っていたのだ。
「あのね、エマ様」
顔を上げると、カロリーナが
「私は王太子妃としての仕事はありますが、魔法省でも仕事をいたしますの」
「そうでしたの?」
「ええ、ありがたいことに魔法の力が強い方ですので研究施設で働くつもりですの」
それは知らなかった。確かに魔法力が強いんだからそのままなのももったいないわよね。だが研究施設、そんなのがあるんだと思っていると。
「ルーカス様もそうですのよ」
え? 魔法省は聞いていたが研究をする話は聞いていない
「その研究の中で、癒し魔法についても研究すべきだと進言していますの」
「癒し魔法をですか?」
「ええ、あまり出現することが少ない魔法ですし、傷を治すのは木の魔法が使えるものならある程度できるので軽視されてきたところがあるんです」
そうか、そうよね。すごい強い力じゃなければそんなもんだろう。自分の力も小さめな怪我や打ち身を治すことぐらいはできるが、それ以上となるとかなり怪しい。
「でもエマ様の力は普通の傷を治すだけではないんですもの」
「へ? いやそんなことは」
「いえ、そうですわ、私も直にその力を浴びましたし、ランドルフもそうです。あの時から気持ちが軽くなったと言っておりますもの。それにヘイウッドさんもそうですし、マーガレッタ様も」
手をぶんぶんと横に振る私にお構いなしにカロリーナは熱く続ける。
「大きな力もそうですし。みんな、あなたから与えられた影響で今までにない道を進んでいますでしょう? それこそがあなたの持つ力なんですよ」
驚いた。確かに、手からよけいなものを取り除いたり、逆にパワー注入みたいなイメージでやってみてはいたけどそんなことは考えていなかった。
「そんな……ありがとうございます」
そんなふうに言われて感謝しかなかったが。
「ね、ですから、癒し魔法の研究のためにも魔法省にいらしてくださいな」
「はい?」
魔法省に?
「でも、何をすれば」
「力のありようを本に残すんです。今まで資料がなさすぎですもの。同じような力を持つものが現れたときに指針になるように」
「はあ……なるほど」
「魔法全般にも言えますが、研究して本に残していく仕事をするつもりですの。ですからアン様や皆さんにも協力していただくつもりですし」
「そうなんですか」
なるほどなあと感心してカロリーナを見つめていたようだ。
口角を上げたカロリーナは、
「ね、エマ様、私、あなたを離すつもりはないって言ったでしょう」
とウインクしてきた。
うっ……
あなたこそ魅惑の魔法でもお持ちでは?
すっかりやられっぱなしの私はうなづくしかなかった。




