本物の見合い相手に
「デリク様?」
カロリーナの魅惑にしてやられた数日後、デリクから誘われた。
「お茶に行く約束だったでしょう?」
と言われたが、あの話、私の偽の見合い相手というのはまだ続いているのかしら。
そうじゃないにしても、美味しいケーキを食べに行く誘いを断る気はないけどね。
「あの、気持ち悪くはないですか?」
連れてこられたカフェの外、テラス席に座った。
「ええ、1メートルの距離はありますが、そのスプレーがいい仕事をしているようです」
偽の見合い相手として頑張ってくれていてありがたいが、やはり近づくことが難しい。
そんな時、シャンダのとこに寄るとあるスプレーを渡してくれた。
「あれ? どこかお出かけですか? つか、貴族の奥様?」
服がいつもと違い、きれいで落ち着いたドレス姿は何だかどこかの奥様のようだ。
「こんな服はこっぱずかしいんだけどねえ」
と言いつつも良く似合っている。
「まあ貴族に変装する勉強になりますしね」
なんてほほほと笑っている。
「魔法省に行ってたんだよ」
「魔法省? 何で?」
「ほら、あのお嬢さん、王太子妃なんだってね。あの子から誘われてね」
という。どうやら、シャンダの薬の知識を研究に残すためらしい。
禁止するばかりではいみがありませんしね、薬は悪いことにもなりますがいいことになることもあるんです。そのための研究ですのよ。
ってことらしい。
で、これも研究のひとつってことらしいが、嫌われ薬にいいハーブやら鉱石やらを液体状のスプレーにしてくれたのだ。
「あまり強い効果はないけどね」
と言われたが、多少でも効果があるのはありがたい。
まるで消臭スプレーかフレグランスのようだ。
「デリク様」
「はい」
目の前には丸いテーブル。
私たちはその一番端に離れて座っている。
「長い間お見合い相手をしていただいてありがとうございました」
私は頭を下げてお礼を言った。
「カロリーナ様に誘われて魔法省の研究に参加することになりました。癒し魔法のことをもっと調べて本として残すんだそうです」
「カロリーナから聞いています」
デリクは微笑むと、
「エマ様の魔法は素晴らしいから残すべきだと自分も思いますよ」
「いえ」
焦った私は手を横にぶんぶんと振る。
「それで魔法省にお勤めといことですか」
「うーん、お勤めと言っても客員というか、毎日でなくてもいいみたいで」
カロリーナには、毎日出てきてもらってもいいんですよ、と言われたが、やりたいこともあるし、何とか一週間に数日ということにしてもらった。
「デリク様は騎士団にそのままお入りになるんでしょう?」
「ええ、王室付きの騎士団です。今は一応平和ですからね、ありがたいことです」
デリクは飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置いた。
「それで」
「はい?」
「エマ様お見合い相手はもう首と言うことですか?」
「え? あ、まあその、なんというか」
このままではいけないわよね、と思っていたのだ。
「私の仕事も決まりましたし、このまま続けるのもデリク様には弊害にしかなりませんでしょう?」
「そうですか?」
「だって」
騎士団では既に重要な地位にいるデリク。結婚話も多数きているはず。私なんかとのお見合い話で流れては大変だ。
「エマ様、このままでは駄目ですか」
「え? えーっと」
まさかそんな返しが来るとは思っていなかった。
どういうこと?
「このまま、ですか?」
「はい、このままお見合い相手にしてもらえませんか」
ん? どういうこと? あ、もしかいして。
「もしかして、嫌なお相手に迫られているとかですか? それなら」
デリクは「違います」とにゅっと手を突き出したが、なぜかくすくすと笑いだした。
「まいったな」
少し上を向いたデリクは、ごほんと咳払いすると、
「エマ様の本当の見合い相手になりたいんです」
「本当の?」
「はい」
「えーっと、今までは偽物の相手だったわけで」
えーっ
思わず立ち上がって頬をおさえた。顔から火が出そうなんだもの。
「エマ様?」
「あの、それはその」
「構いませんか?」
「えっと、か、構いません」
ふうぅと息を吐きだしたデリクは「よかった」と飛び切りの笑顔を見せてくる。
ますます顔が赤くなって熱くなって倒れそうだった。




