深窓の令嬢は
「じゃあ、もうひとついいですか? ルーカスとどこで会われたんです?」
ルーカスを見初めたんだろうけど、学園にはきていないマーガレッタ嬢、いったいどこで?と思ったのだ。
「あ、それは」
うつむいた令嬢はフードを頭にかぶったまま。
あれ? やっぱり、この人。
「もしかして、あのメイドさん?」
ぱっと顔をあげた令嬢は目を真ん丸にしている。
「メイド?」
首をかしげるルーカスに、私は「学園祭の癒しの魔法テントに連れてきてくれたじゃない」と言い募る。
マーガレッタは、
「あの時はありがとうございました」
と私とルーカスに頭を下げた。
そうか、やっぱり、あの時の。
外で転んで怪我をしたと言ってルーカスが連れてきたメイドらしい女性。マントをかぶって顔はよく見えなかったし、うつむきがちでほとんど話もしなかった。
あの子がマーガレッタだったのか。
「あ、わかった、じゃあ、その時にルーカスを!」
とつい嬉しそうに言うと、マーガレッタは真っ赤だし、ルーカスには「姉さん!」と怒られた。
「ご、ごめんなさい」
謝った私に、マーガレッタはまた首を振ると、
「あの時のエマ様の魔法で、私、ここに来てルーカス様に謝ろうって勇気が出たんです。ありがとうございました」
「え? そうなの?」
「はい、あの時本当に不思議でした」
そっと目を閉じたマーガレッタは、
「温かさが私の中に入ってくるような感じで、どういえばいいかよくわからないんですけど。いつもはくよくよ考えすぎるとこがあるんです。でもそれが少なくなったと言うか」
口角がふっと上がり、嬉しそうに説明してくれるマーガレッタを見てるとなんだかこちらまで嬉しくなってくる。私はそっとマーガレッタの手をとるとそっと包んだ。
「ありがとう、マーガレッタ様」
「?」
「もう学園は卒業ですけど、今度一緒にお茶しましょう? 生徒会のみんなもとてもいい人ばかりですのよ。そうよ、アン様は怖いお話に興味を持たれると思うわ。小説家なんですのよ」
「まあ、素敵」
「みなさんとお茶しましょうよ、ね」
「はい」
マーガレッタは嬉しそうに微笑んだ。
「マーガレッタ様は、親しい間柄ではあるんですけど、あまり外に出られないかたなんですの」
カロリーナはお茶に口をつけると説明してくれた。
ランドルフ王太子の相手として、カロリーナとマーガレッタの名前も挙がっていたらしい。
お家の格とちょうどいい年頃の娘がいるんだから当然と言えば当然だ。
だが。
「彼女、お小さいころから身体が弱いのもあったんですけど、人見知りが激しい方で王太子妃候補も早々に辞退されたんですの」
「そうでしたわよね。私、お父様から仲良くしてあげてほしいと言われて、お茶にもお誘いしたんですけど、なかなか来ていただけなくて」
とベシーが残念そうに息をつく。
ロザリンやアンもうなづいているということは同じようなことがあったんだろう。
「引っ込み思案なとこもおありなんですけど、そういうお誘いが嫌なわけではないんですのよ」
とカロリーナが言い訳のように言う。
「緊張しすぎてしまうというか。当日に具合が悪くなったりして。私、お父様同士が親しいので、時々お家にお伺いすることもあったんですの。ご本人も本当はみなさんとお茶したりお話したいんだと思うんですのよ」
離れた席でふんふんとうなづきつつ聞いていた私は目の前に置かれた美味しいクッキーを口に頬張っていた。そんな私にばっと顔を向けたカロリーナは、
「さすがエマ様ですわ、そんなマーガレッタ様とお茶をする機会を作ってくださるなんて」
ベシーたちも一様に目をキラキラさせてうなづいている。
首をぶんぶんと横に振った私は、
「ほんはほほはあひまへん」
あわてて紅茶でクッキーを流し込む。
「そんなことないんですよ。マーガレッタ様は何というか、間が悪かっただけです。うまくいくかなあって思ってて、失敗することが続くと、またダメなんだろうなあ、ってネガティブ思考になるし、実際何でもないのにうまくいかなることなんてよくあることですもの」
私もそんなことのほうが多かったし、転生しても失敗だらけだ。
「でも、今日は大丈夫です。私たちから来ちゃったんですもの」
そうなのだ、ここはマーガレッタ嬢のお家。コールダー侯爵家。
私はあの日のうちに約束を取り付けると、さっそくベシー達やカロリーナを誘って遊びにやってきたのだ。
「遅くなってごめんなさい」
と現れたマーガレッタ。薄クリーム色のドレスがよく似合っている。
「エマ様、本当にそんな離れたとこで」
と眉を下げるが、
「いいんです。カロリーナ様からお聞きでしょう? あまり近寄って嫌われたくないですし。あ、それより、マーガレッタ様、アン様がご本を持っていらしたみたいですわよ」
振られたアンが本の山をテーブルに置く。
「出版社の方に聞いたら、おススメをたくさんくださったんですのよ。ぜひ読んでくださいましな」
途端にマーガレッタの顔が輝く。
「すごい、こんなに、ありがとうございます」
ベシーもロザリンも「怖いお話って面白いんですの?」と恐々と本を覗くように見ている。
「あら、これなんて悲恋ものですからおすすめですわよ」
とアン。私も、
「吸血鬼と貴族令嬢のでしょう? あの吸血鬼の男性がかっこいいんですよね」
というと、二人とも「あら」「まあ」と興味を示しだす。
「かっこいい方に惑わされすぎですわよ」
とカロリーナが眉を上げ、みんなして吹き出していた。
マーガレッタも緊張することなく楽しそうだ。
こういうオタクな話は人に解放感を与えるものよ。
みんなの楽しそうな様子にうんうんとうなづいていると、近づいてきたカロリーナが、
「エマ様、あとからお話がありますの。お時間いただいてよろしいかしら」
と言ってきた。
「え? あ、はい」
何だか含んだような言い方に首をかしげていた。




